Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron] (花極四季)
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この度、にじファン閉鎖により行き場を失った私は、色々と考えた結果ここに移籍することに決めました。
それに伴い、前回までの展開方式を完全にリセットすることにしました。詳しいことは後書きに掲載させていただきます。
ともあれ、事実上の完全リメイク版のような扱いなので、にじファン時代からの読者様にしたら不満があるかもしれませんが、後の展開を考慮した上での判断故、ご了承下さい。
epilogue and prolog
踏みしめる大地は、いつか見た荒野に似ていた。
あたりには何もない。
何もかも吹き飛んだ山頂には、もう、余分な物など何もなかった。
―――戦いは、終わったのだ。
聖杯を巡る戦いは終幕が過ぎ、彼の戦いもまた、ここに幕を閉じようとしていた。
それがどのくらい長かったのかなど、彼には判らない。
ただ、永遠に自己を縛り付けるであろう積念が、今は無い。
終わりはただ速やかに浸透し、この時代に現れた彼の体を透かしていく。
『アーチャー……!』
呼びかける声に視線を向ける。
走る余力などないだろうに、その少女は息を乱して駆けてくる。
それを、彼は黙って見守った。
『はあ、はあ、はあ、は…………!』
彼の下まで走り寄った少女は、乱れた呼吸のまま騎士を見上げる。
―――風になびく赤い外套に、見る影はなかった。
外套は所々が裂け、その鎧もひび割れ、砕けている。
存在は希薄。
以前のまま、出会った時と変わらぬ尊大さで佇む騎士の体は、その足元から消え始めていた。
『アー、チャー』
遠くには夜明け
地平線には、うっすらと黄金の日が昇っている。
『残念だったな。そういう訳だ、今回の聖杯は諦めろ凛』
特別言うべき事もないのか。
赤い騎士はそんな、どうでもいい言葉を口にした。
『―――――――――』
それが、少女には何より堪えた。
今にも消えようとするその体で、騎士は以前のままの騎士だったのだ。
信頼し、共に夜を駆け、皮肉を言い合いながら背中を任せた協力者。
振り返れば『楽しかった』と断言できる日々の記憶
―――それが、変わらず目の前にあってくれた。
この時、最期の瞬間に自分を助ける為に、残っていてくれたのだ。
主を失い、英雄王の宝具を一身に受けた。
現界などとうに不可能な体で、少女に助けを求める事なく、彼女たちの戦いを見守り続けた。
その終わりが、こうして目の前にある。
『アーチャー』
何を言うべきか、少女には思いつかない。
肝心な時はいつだってそうなのだ。
ここ一番、何よりも大切な時に、この少女は機転を失う。
『く―――――』
騎士の口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
そんな事は、初めから知っていた。
赤い騎士にとって、少女のその不器用さこそが、何よりも懐かしい思い出だったのだから。
『―――な、なによ。こんな時だってのに、笑うことないじゃないっ』
むっと、上目遣いで騎士を見上げる。
『いや、失礼。君の姿があんまりにもアレなものでね。
お互い、よくここまでボロボロになったと呆れたのだ』
返してくる軽口には、まだ笑みが残っている。
『―――――――――』
その、何の後悔もない、という顔に胸を詰まらされた。
いいのか、と。
このまま消えてしまって本当にいいのか、と思った瞬間。
『アーチャー、もう一度わたしと契約して』
そう、言うべきではない言葉を口にした。
『それは出来ない。凛がセイバーと契約を続けるのかは知らないが、私にその権利はないだろう。
それに、もう目的がない。私の戦いは、ここで終わりだ』
答えには迷いがなく、その意思は潔白だった。
晴れ晴れとした顔は朝焼けそのもので、それを前に、どうして無理強いする事ができるだろう。
『……けど! けど、それじゃアンタは、いつまでたっても―――』
救われないじゃないの、と。
言葉を呑みこんで、少女は俯いた。
それは彼女が言うべき事でもなく、仮に騎士をこの世に留めたところで、与えられる物ではないのだから。
『―――まいったな この世に未練はないが』
この少女に泣かれるのは、困る。
彼にとって少女はいつだって前向きで、現実主義者で、とことん甘くなくては張り合いがない。
その姿にいつだって励まされてきた。
だから、この少女には最後まで、いつも通りの少女でいてほしかった。
『――――――――凛』
呼びかける声に、少女は俯いていた顔をあげる。
涙を堪える顔は、可愛かった。
胸に湧いた僅かな未練をおくびにも出さず、遠くで倒れている少年に視線を投げ、
『私を頼む。知っての通り頼りないヤツだからな。―――君が支えてやってくれ』
他人事のように、騎士は言った。
それは、この上ない別れの言葉だった。
……未来は変わるかもしれない。
少女のような人間が衛宮士郎の側にいてくれるのなら、エミヤという英雄は生まれない。
そんな希望が込められた、遠い言葉。
『――――――ア、ーチャー』
……けれど、たとえそうなれたとしても、それでも―――既に存在してしまっている赤い騎士は、永遠に守護者で有り続ける。
彼と少年は、もう別の存在。
スタート地点を同じにしただけの、今ここにいる少年と、少年が夢見た幻想だった。
『――――――――っ』
……もう、この騎士に与えられる救いはない。
既に死去し、変わらぬ現象<からだ>となった青年に与えられる物はない。
それを承知した上で、少女は頷いた。
何も与えられないからこそ、最後に、満面の笑みを返すのだ。
私を頼む、と。
そう言ってくれた彼の信頼に、精一杯応えるように。
『うん、わかってる。わたし、頑張るから。アンタみたいに捻くれたヤツにならないように頑張るから。きっと、アイツが自分を好きになれるように頑張るから……!だから、アンタも―――』
―――今からでも、自分を許してあげなさい。
言葉にはせず。
万感の思いを込めて、少女は消えていく騎士を見上げる。
―――それが、どれほどの救いになったのか。
騎士は、誇らしげに少女の姿を記憶に留めたあと、
『答えは得た。大丈夫だよ遠坂、オレも、これから頑張っていくから』
ざあ、という音。
騎士は少女の答えを待たず、ようやく、傷ついたその体を休ませたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
英霊の座に還らんとする肉体は、徐々にその存在を崩していく。
初めは足。そこから昇るように消えていく肉体を、勿体なさそうに眺める。
凜の願いを聞き入れ、それを純粋な気持ちで受け止めたとしても、この身は所詮過去の再現。
記録として残ろうとも、その思いがいつか生まれるであろう英霊エミヤに反映されるかは別問題。
それは彼女とて理解していた筈。理解していた上で、私に向けて吐き出したのだ。
だが、摂理に逆らえないと理解していても。彼女の言葉がまったくの無意味な産物だったとしても。私にとって、彼女の願いを聞き入れることが、新たな自分になる門出だったから。
エミヤが目指した理想が、決して間違いではなかったことを証明する一歩となるのだから。
それが例え徒労だとして、どうしてそれを否定できよう?
胴体までもが消え、完全消滅まで秒読みといった段階に入る。
記憶にも靄が掛かり、意識もおぼろげになっていく。
わかっていたこととはいえ、これではあまりにも報われない。
嘘偽りのない真摯な願いは、世界の原理の前にはただの戯れ言だと言われているようで、気分が悪い。
同時に、それに抗えないと理解し、流れに逆らおうとしない自分自身にも嫌気が差す。―――チャンスを、あげましょうか?
突如、そんな声が響く。
それは、脳に直接響いているようにも聞こえ、世界全体に反響しているようにも聞こえる。
どこにでもいるし、どこにもいない。そもそも声の主に明確な個が存在するのかさえ怪しく思えた。
―――彼女の言葉、無駄にしたくないでしょう?
声色は分からない。
その喋り方で語り手は女性だと仮定する。
いや、それでさえも確定要素たり得ない。
この声の主からは、常識では計り知れない何かを感じる。
そもそも、英霊の座にいる私に干渉している時点で普通ではない。
しかも、不特定多数ではなく明らかに私にのみ対象を絞った発言。
どんな目的で接触してきたかは知らないが、まともな手合いではないのだけはわかる。
どうせ今すぐ消えるのだ。このまま無視を決め込もうと思っていたのだが、
―――残念だけど、貴方の思惑通りにはいかないわよ?
消えかかって私の身体は、いつの間にか元の状態に戻っており、記憶も鮮明になっていく。
しかし、それだけに留まらず私の知らない記憶までもが流れてくる。
目線の高さから自分の視点だというのは理解できたが、これは一体どういうことだ?
アインツベルン城で一人ヘラクレスと対峙する光景。
影の猛攻により左腕を失った衛宮士郎に、満身創痍な私の左腕を移植し、消える刹那の光景。
七騎のサーヴァントがさも当たり前のように現界して、日常を謳歌している光景。
どれも私の知らない場面であるにも関わらず、紙が水を吸うかのようによく馴染んだ。
まさか、座に保管されていた英霊エミヤの記録がこの映像の正体だというのか?
だから例えこれが別の英霊エミヤが視てきた光景だとしても、同じ器から溢れたものである以上違和感とは無縁だと。
しかし、それでは同じ現象がすべてのエミヤに反映される筈。
凜に召喚された時だって、こんな現象は起きなかった。あくまで本を読むような感覚でのみ、情報を手に入れられた。
ここまでお膳立てされていれば、この現象さえもこの声の主が原因だと簡単に理解できる。
どうやって、だなんてことは考えない。考えたって無駄だし、それよりも重要なことが目の前にある。
――――――貴様は誰だ。
素直に答えてくれるとは思わないが、万が一ということもある。
しかし予想通りと言うべきか、私の問いは簡単に受け流され、更なる質問をされる。
そんな事はどうでもいいじゃない。
私は貴方に質問をしているだけ。
そして貴方は私の質問に答えるだけでいい。
―――さて、答えは如何なものかしら?
芝居のかかった口調で、答えを促してくる。
確かに私は凛の言葉を無駄にはしたくないと思っている。
幸せになって欲しい、と。決して口には出さなかったが、彼女が私へと込めた想い。
こんな私を最期まで心配してくれた彼女を、これ以上裏切りたくはない。
―――だいたいチャンスとはなんだ。
内容も聞かされず、ただおいしい話だと言われても、誰も食いつきはせんぞ。
まだ子供の考えた悪戯の方が騙される。
―――頭が悪いのね。そんなこと貴方には重要じゃあないでしょう?
―――それは心外だな、考えた上でだよ。
一度甘い誘惑に乗ってしまった故に非道い目に遭わされた経験があるからな、慎重になっているだけに過ぎん。
―――このままいけば貴方は記録の一部となり、自我も失われる。
そうなればあの少女との約束は永久に叶えられない。
保身に走り、他人の願いを蔑ろにするのが、貴方の理想の正義なのかしら?
どんな理不尽にも耐えてきた男とは思えない思考回路ね。
私のすべてを知っている風な口ぶりが、矢継ぎ早に紡がれる。
英霊エミヤの在り方を知るだけではなく、凜との一連の会話も聞いていたらしい。
ますます不可解。しかし、考えるべきはそこではないと直ぐさま思考を切り替える。
―――そうやって挑発して、何を誘っている?
うまい話には裏がある。今時の学のある子供なら理解できるレベルの真理だ。
だが私はこれが自分のための善行、だなんて都合の良い解釈が出来るほど子供ではない。
―――怖いのね。私が再び貴方に地獄を見せるかもしれないと思うと、恐ろしくてたまらないんでしょう。
―――ああ、怖いね。心を読まれているようで気にくわないが、その通りだよ。
確かに目指した道は間違いではなかったが、だからといえ過程の殺戮が正当性が得られるわけではない。
貴様の口車に乗り、望まぬ殺戮に身を投じなければいけなくなる可能性を考えれば、当然だ。
―――そう。じゃあどうするのかしら?
リスクに怯え、少女の願いを無為とするか。光の届かない暗闇に身を投じ、答えを求めるか。
虚空に響く声が、どこか真剣味を帯びる。
次に口にする言葉が決断の答えとなる。そんな空気をひしひしと感じる。
凜にこれから頑張っていくと言った手前、ここで逃げるのは彼女の想いを踏みにじることに繋がってしまう。
それに、私は罪人だ。今までやりたいようにやってきて、その結果が気にくわなかったから自分の軌跡を跡形もなく消そうと我が儘に振る舞ってきた。子供の癇癪では済まされない、命のやり取りの中で。
そんな私が、せめて償えることがあるとすれば、彼女の願いを成就させることだけではなかろうか。
―――そうだな。
断れば座に還るだけ。承諾すれば僅かではあるが希望のある道を選択できる。
ともなれば、未来がある方に進むのが道理か。
それに―――もう目を背けるのは沢山だからな。
最後だけは口には出さず、胸の内でのみ語る。
過去の自分を悪と定義し、その為ならばと平気で過去の友人すらも切り捨てた青年を許した、異常とも言えるお人好しがいた。
しかし、許された本人は自分を許せないでいた。
簡単に割り切れるものでもなし。今までやってきたことを顧みれば、今更そう簡単に掌返しはできなかった。
―――だからこそ、少女は言葉に願いを込め、告げた。
強く、強く。ただ青年の救済を願った。
彼が自身を許せないのならば、せめて私が、と言わんばかりに。
彼に待ち受ける運命を知りつつも、一切の淀みなく願い続けた。
もしかすると、ここにいる声の主も、それに感銘を受け、手を差し伸べたのかもしれない。もしかすると、そのあまりにも無慈悲で滑稽な未来を知りつつ縋るその道化のような行いに、きまぐれを起こしたのかも知れない。
どんな思惑があったにしても、これが最初で最後のチャンス。
鬼が出るか蛇が出るか。もしかすると今までの体験が児戯に思えるほど醜悪な未来が待っているかも知れない。
―――だが、それでも。
例えなにが待ち受けていようとも、青年は決して歩みを止めることはないだろう。
それが彼―――エミヤシロウの生き様であり、信念だったから。
少女の知る彼の在り方こそ、真に彼女が戦場を共に駆けた存在の核に他ならない。
彼女は、そんな彼に幸せになって欲しかった。
ならば、それを歪めてまで意に反することは決してしてはいけない。
あくまで彼女が救済を願ったのは、そんな歪ながらも真っ直ぐな青年なのだから。
―――ならば、与えましょう。
居場所の無くなった存在が集う世界へ、貴方を誘いましょう。
貴方がそこで幸せになれる保証はありません。
傷つき、悲しむ事だってあるでしょう。
でも、それと同等の価値ある幸せが訪れる事だけは、保証しましょう。
しかし、その保証はあくまで貴方がどんな境遇に陥っても挫けないと言う条件のもとでしか成立しません。
貴方の頑張りを、観察させてもらいますわ。
パチン、と指をはじくような音が響く。
刹那、地に足のつかない感覚から一転、下から吸い込まれるような感覚に陥る。
下を見ると、そこにあったのは色の無い世界ではなく、緑が鬱蒼と茂る大地だった。
瞬間的に、自分が遥か上空から落とされたことに気付く。
これはまさに、凛に召喚された時の焼き回しだ。
これが偶然ではなく、意図的なものだとすれば、なんという皮肉だろうか。
あの時と同じ始まりを以て、今度こそ間違うなと。そう暗に示している気がした。
「やれやれ、どうしたものか」
高速で落下しているのに冷静でいられるのは、サーヴァントにはこの程度の窮地はなんでもないからか、それとも二度目の経験だからか。
ともかく私がするべきことは、私の下にある建物を壊した後の対応を考えることだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
遥か上空。
紫を貴重としたドレスと、フリルが特徴的な傘を差した女性が、その光景を傍観し、まるで無垢な子供の様にクスクスと笑っていた。
「其は無限の牢獄を脱した囚人。解放された先に待つは幸福か、絶望か。斯くも陳腐でありきたりな綺譚、再び記してくださいまし」
それだけを誰ともなしに呟き、無数の目が張り付く空間へと消えた。
前書きで色々語りましたが、まず展開方式とは?という点から。
この小説、東方を知らない人にも知って貰いたいという思いで、キャラクターひとりひとりに出番を与えていました。具体的に言えば、1キャラにつき単独の絡みは三話は使いたい、と考えやってきました。
しかしそれでは、あまりにも話が進まないということで、今回の件を切っ掛けに、その概念をリセットします。
リセットするだけで、新たになにか追加するってことはありません。制約を外し、動きやすくしたといえばわかりやすいかと。
ですが、東方キャラは余すところ無く登場させる気ではあるので、出番の差こそあれど、その点に関しては手は抜きません。
次に、リメイクに伴った既存の物語の動き方についてですが、基本的に変えません。
ただ、その話にいなかったキャラが追加されていたり、とある話の間に別のストーリーを組み込んだりはするかもしれません。
次に、この小説の主人公、エミヤシロウに関して。
彼は答えを得たことにより、衛宮士郎を受け入れることができました。それは自分自身を衛宮士郎だと認めることであり、それにより考え方も衛宮士郎寄りに動くようにもなります。
英霊エミヤと衛宮士郎が合わさった存在。それが今小説のエミヤシロウという人物です。
ですが、どうにも衛宮士郎寄りのキャラになりつつあったので、エミヤとしての考え方も全面に押し出していこうと考えています。
それによりストーリーが変化する可能性もありますが、ご了承下さい。
最後に、リメイクとはいえ基本骨子に変化はないですが、膨大な修正はしています。
ですので、前のとどう差違が生まれたのかを後書きで記述していきたいと思います。漠然としたものですがね。
と言うわけで、今回の変化。
1.シロウが状況を受け入れるのが早すぎる気がしたので、もっと悩ませました。それでも決断が早い気もしますが、冗長になりすぎるのもあれなので。
2.謎の人物(17)のキャラに遊びを無くしました。これにより印象の変化が発生。ですが本質的な性格に変化はないので、あくまであの場でのカリスマ性を増やしただけです。
3.『』の廃止。今までさんざん突っ込まれていた部分ですが、今回から「」にします。これで混乱はなくなるでしょう。
こんな感じで今度からもやっていきたいと思います。
あと、相変わらずのまばら更新ですが、気長に待ってくれれば幸いです。
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