ルネサスエレクトロニクスからの人材流出が深刻だ。官民がルネサスに対して2000億円出資する計画が固まり、11月にも経営再建の枠組みが決まる見通し。だが、先行きが不透明なため若手社員を中心に、社外に活躍の場を求める動きが止まらない。早期に新生ルネサスの具体的な方向性を示さなければ人材の草刈り場になりかねない。
「あまりにも多くて選考しきれない」。都内ベンチャー企業の社長はうれしい悲鳴をあげる。同社はソフト開発が主力。クラウドコンピューティングサービスを拡充するため、2011年から半導体技術者を募集している。人材確保に苦労してきたのが一転、ここ半年、応募者が急増しているという。
応募者はルネサスエレクトロニクスなど半導体大手の20代後半から30代前半の社員が多い。ルネサスが今回実施した早期退職は主に入社10年以上が対象。30代前半までの彼らは対象外だが、面接では「先が見えない。一から頑張りたいと一様に語っている」という。
会社を本来支えるべき若手層の離脱に加え、中堅層の離脱も生産現場を中心に激しい。9月に実施した早期退職の五千数百人の募集枠には約7500人が応募しており、「国内の製造現場に新たな働き場を確保することが難しいことを考えれば予想外。社員はそれほど悲観的に見ている」(ルネサス社員)という。
工場によっては応募者の予想外の多さに、早期退職の実施後に工場の安定操業を懸念する声も出てきている。一部では応募者を期間従業員として再雇用する動きもある。
ルネサスの半導体技術が製造業に不可欠なのは自明だ。実際、業界内では競合の米フリースケール・セミコンダクタが日本での自動車用半導体の人員を年初の約3倍に拡大。ルネサスからの流出を見込んだのは明らか。ルネサスが会社の未来図をはっきり描かなければ人材のより一層の地盤沈下は避けられない。
【官民共同で2000億円出資】
今回固まったルネサス救済の枠組みは、政府系ファンドの産業革新機構と国内の製造業大手が共同で約2000億円出資する方向。民間からはトヨタ自動車など自動車大手やパナソニックなど合わせて10社近くが出資を検討。外資ファンドも再建案を提案していたが、外資主導ではマイコンの調達に支障が出るとの危機感が広がり、産革機構と複数の民間企業の出資を後押しした。ただ、官民による救済の枠組みは、自動車メーカーなど国内製造業保護の意味合いが強い。「世界で戦える半導体メーカーを目指す」という従来の方向性を捨て去ることを結果的に求められるかもしれない。