ティルトローター実用段階へ
「ホバリングのできる飛行機」
去る2月22日、東京ビッグサイトで開催された国際航空宇宙展「東京エアロスペース2000」で「ティルトローターは21世紀日本の空を変えるか」というシンポジウムがおこなわれた。
ベル・アグスタ社のマーケティングを担当するエグゼクティブ・ディレクター、ドン・バーバー氏が基調講演をしたのち、6人のパネリストによるパネル討論があり、筆者もその一人として発言の機会が与えられた。
バーバー氏の講演内容は後にご紹介するとして、筆者はここでティルトローターの実用化に対する三つの期待を表明した。
第1点は、ティルトローターが「ホバリングのできる飛行機」ということである。バーバー氏も講演の中で“An
airplane that
hovers.”と表現したが、私の言いたかったのは固定翼とローターを合わせ持った構造的な意味ばかりではない。
問題は操縦特性である。ティルトローターの操縦をしたパイロットの多くが、ベル社のテスト・パイロットが身びいきで言うわけではなく、ちょっと試乗した外部のパイロットも含めて、異口同音に「ティルトローターの操縦特性はヘリコプターよりも固定翼機に近い」と語っているのである。
言い換えれば、ティルトローターはヘリコプターの延長線上にあるというよりも、普通の飛行機に垂直離着陸の能力をつけ加えたものという方がいいかもしれない。開発に当たっているのは、アメリカもヨーロッパもヘリコプター・メーカーであるため誤解を招きやすいが、実はヘリコプターではなくて飛行機の延長線上にあったのだ。
ということは、これまでヘリコプターの操縦経験がなく、ヘリコプターに親しみが持てず、ティルトローターなんぞはもっと怪しげな航空機であると思っている人でも、飛行機の延長ということになれば親しみが持てよう。とすれば、ティルトローターは遥かに多くのパイロットに受け入れられるにちがいない。
このことはティルトローターが将来広く使われる上で重要なことで、ティルトローター機の操縦特性がヘリコプターよりも飛行機に近いとすれば、今後大いに普及してゆく可能性がある。
東京〜大阪間にも就航可能
ティルトローターに期待する第2点は、ヘリコプターにまさる生産性と経済性である。ティルトローターはヘリコプター同様の垂直飛行能力を持ちながら、固定翼機同様の速度性能や航続性能を持つわけだから、ヘリコプターよりも生産性が大きい。ということは経済性も高いはずで、たとえば1人の人を1マイル輸送するためのコスト――シートマイル・コストはヘリコプターよりも安くなるであろう。
ヘリコプターはただでさえ費用が高いのに、固定翼機の高速性能をつけ加えるならばさらに高くなるのではないかと言った人があるが、考え方としては逆であろう。つまり高速・長航続の飛行能力に乏しいヘリコプターの欠点を補うわけで、その分だけ単価は下がる。そこで、こうした能力が生かせる業務、つまり人員輸送にティルトローターを使うならば、効果を発揮することができるであろう。
ヘリコプターは、これまで過去40年以上にわたって、外国でも日本でもさまざまな旅客輸送事業が試みられてきた。けれども長続きしない。世界中では現在10か所ほどの地域でヘリコプター旅客輸送がおこなわれているが、運賃が高いにもかかわらず、ちょっと油断すると赤字におちいり、大変な経営努力と補助金でまかなわれている。
そこへティルトローターの生産性を持ってくれば、経済的に成り立つ可能性も高い。近距離の垂直旅客輸送の突破口を開くことができるのではないか。その点にティルトローターへの期待がかかるのである。
そうなると、これは第3の期待だが、ティルトローター旅客機は将来、航空輸送システムの一環として組みこまれ、空港混雑を緩和するのに役立つであろう。ティルトローターは長い滑走路を使う必要がなく、したがって大空港も要らない。都心部のヴァーティポートとヴァーティポート――たとえばニューヨークのマンハッタンとボストンの町の中、あるいはニューヨークとワシントン、さらには東京と大阪の近郊ヘリポートを結んで旅客輸送が可能になる。
東京〜大阪間は新幹線で2時間半、大型ジェット旅客機で1時間だが、ティルトローターは1時間半で飛ぶことができる。それも都心に近いところから飛べるので、空港への地上時間や費用がかからず、時間も費用もジェット旅客機に近づく。また空港を使う必要もないから、空港の混雑を緩和する結果にもなる。
実はアメリカが、メーカーはもとより、政府を含めてティルトローターの開発に熱心なのは、大都市近郊の空港三十数か所が今世紀中――ということは現在すでに限界にきているわけだが、混雑のためにパンクすると見られているからである。それを救うのがティルトローターで、800km以内の旅客は空港を使わず、直接都心部からティルトローターで飛ぶようにするという方策なのだ。
ただし、そうしたティルトローター・システムが実現するには、大きな前提条件がある。一つは騒音が小さいこと。したがって第2にヘリポートやヴァーティポートが都心部に整備されること。第3はロータークラフト専用の空域管制と計器飛行システムが実現することである。
これらの前提条件がととのうならば、ティルトローターは日本の空を大きく変えるであろう。
ティルトローターは日本に最適
さてドン・バーバー氏はティルトローター・シンポジウムの基調講演で「ティルトローターはエキサイティングな航空機だ」と語った。また「そのティルトローターにとって、日本はパーフェクト・カントリーだ」とも言った。つまり、さまざまな意味で、ティルトローターは日本の地勢や風土に最適の航空機ということであろう。
ベル社はティルトローターの研究開発に40年以上の長い歴史を重ねてきた。初のティルトローター実験機、XV-3が飛んだのは1955年8月11日。58年には初めて遷移飛行に成功し、62年に試験飛行を終了したが、このXV-3によってローター変向による垂直離着陸方式の実用化できることが実証された。
次いで1977年5月3日、NASAおよび米陸軍との開発契約にもとづくXV-15が初飛行した。同機は2年後、遷移飛行に成功したが、ヘリコプター・モードから飛行機モードへ変わる遷移の時間は12秒間であった。
そして、1980年代以来20年近い開発をつづけてきたV−22オスプレイが、昨1999年から実用機の量産に入った。次いで現在、オスプレイの技術を応用して民間向けの小型ティルトローター機、BA609の開発が進んでいる。同時に無人ティルトローターTR911Xイーグルアイの開発も米海軍および海兵隊向けに提案中。将来は4つのエンジンとローターを持つクオッド・ティルトローターQTR大型輸送用機の開発も構想されている。
こうした6世代のティルトローター機の研究開発に対して、ベル社は過去40年間に60億ドル(約6,500億円)を投入してきたという。
BA609の開発パートナーはイタリアのアグスタ社。両社でつくった合弁企業、ベル/アグスタ・エアロスペース社はダラス近郊のアライアンス空港に本社を置く。2年後BA609の引渡しがはじまれば、そこに引渡しセンターと訓練センターも置かれる計画である。
BA609は民間機として安全性、経済性、飛行性能を主眼とする多用途ティルトローター機である。その開発にあたっては、まず顧客の意向を確認するため、1995年までに需要調査をおこない、96年に世界の国別の特性と市場規模を分析した。その結果、ヘリコプターや固定翼機の所有者が将来、現用機を買い換える場合、ティルトローター機を選択する可能性もあることが判明した。ヘリコプターばかりでなく、固定翼機の利用者もティルトローター機へ移行するかもしれないのである。
BA609は6〜9人乗りの与圧キャビンを持ち、高度7,600m、巡航速度500km/hで1,400kmを飛ぶことができる。ローターブレードにはヒーターがつくから既知の氷結気象状態でも飛行可能。操縦系統はフライ・バイ・ワイヤで、「プロライン21」電子航法装置をそなえ、計器パネルには多機能ディスプレイがつく。
エンジンは信頼性の高いPT6(1,940shp)が2基。片発でも安全に飛べるカテゴリーAの飛行能力を持つ。最大離陸重量は垂直離陸時が7,258kg、短距離の滑走離陸時が8,165kg。有効搭載量は垂直離陸時で2,495kg、滑走離陸時で3,402kgである。
基本価格は800〜1,000万ドル。1時間あたり直接運航費は850ドルを目標としている。
表1 BA609基本データ
項 目
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デ ー タ
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最大全備重量
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7,258kg
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標準空虚重量
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4,763kg
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乗員/乗客
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2人/6〜9人
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エンジン
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P&W PT6C-67A
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離陸出力
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1,941shp×2
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燃料タンク容量
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1,381リッター
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最大巡航速度
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509q/h
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上昇率
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456m/分
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実用上昇限界
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7,620m
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ホバリング高度限界(地面効果外)
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1,524m
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航続距離
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1,389km
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航続時間
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3時間
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日本からも3機の発注
こうしたBA609を実用に供する場合、社用ビジネス機ならば、乗客はゆったりしたシートに最大6人乗り。都心部のオフィスに近いヴァーティポートからヘリコプター・モードでカテゴリーAの離陸をしたのち、少しずつ加速しながらローターの向きを変えて遷移飛行をおこない、1分後には高度180m、速度370km/hで、進出距離2.8kmの地点に達する。
そこからは固定翼モードで上昇と加速をつづけ、離陸から15分後には高度6,000m、速度509km/hに到達。このときの進出距離は83kmで、以後500km/h前後の巡航速度で1,300km以上を飛ぶことができる。
海洋石油開発の人員輸送に使う場合は、搭載人員1人当たりの重量が手荷物を入れて100kgと想定し、最大9人をのせてカテゴリーAの離着陸をしながら、30分(230km)相当の予備燃料を残して、沖合460kmまで往復することができる。また気温35℃の高温時でも、予備燃料30分で、沖合370kmまでの往復が可能。
沿岸警備隊には捜索救難用のHV-609が提案されている。吊上げホイスト、バスケット、リッター、救命ラフトなどを装備、海岸に近い基地からパイロット2人のほかに救助隊員2人をのせて滑走離陸をしたのち278kmの沖合へ進出、30分間の捜索活動と15分間の吊上げ活動によって平均体重90kgの遭難者6人を救助して元の基地へ戻ることができる。
遭難地点がもっと遠い場合は、増加燃料タンクをつけて沖合370kmまで進出、同じように6人を救助して戻ることが可能。
また麻薬の密輸監視など海上パトロールにあたるときは、乗員2人だけで増加燃料タンクをつけ、滑走離陸をして沖合1,296kmまで進出し、戻ってくることができる。この間の航続飛行時間は5.8時間に達する。
さらに救急医療機としては、医師や看護婦などの医療スタッフ3人とストレッチャーに寝かせた患者2人を搭載、気温35℃の高温でも、45分相当の予備燃料を残して370kmの区間を往復できる。この場合、氷結気象状態での計器飛行も可能である。
こうしたBA609は、最近までに設計図面の9割以上が完成、治工具も出来上がって、試作の準備が進んでいる。風洞試験もうまく進んでおり、原型1号機は今年末か来年初めにも初飛行する予定。そして2002年夏に型式証明を取る予定だが、先ずはVFR機として承認を取り、次いでIFR機として承認される予定。
最近までの受注数は77機。注文は18か国、41社から出ており、40機は北米から、22機は欧州から、12機はアジアから、3機は南米からという内訳。そのうち3機は日本の三井物産からの発注。将来は今後20年間に1,054機の需要があるというのがベル社の予測である。
BA609の新しい大型化構想
BA609については最近、新しい大型化構想も聞こえてくるようになった。今のままではビジネス機や般用機としてはともかく、旅客輸送には小さ過ぎるきらいがある。新しい構想はそれに応えるもので、今のところ次の4案が検討されている。
そのひとつBA619は旅客19人乗りで、3,000shp級のエンジン2基をもち、総重量は12,700kg。これを大きくしたBA626は26人乗りで、BA609のPT6Cの出力を増強したエンジン2基を装備する。それをさらに大きくしたBA627は27席。エンジンはV-22と同じT406か、PW150またはGE
CT7ターボプロップをティルトローター用に改造したものとなる。
そしてBA632クオッドは、PT6Cエンジンの主力増強型とローターを4基ずつ装備するクオッド形式の32席機である。
これらの構想は、ベル社がいま策定中の「プロダクトプラン2010」の中で具体化されるものと思われる。
BA609大型化構想
型 式
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客 席 数
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エ ン ジ ン
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BA609(開発中)
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9席
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PT6C-67A(1,900shp)2基
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BA619
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19席
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3,000shp級エンジン2基
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BA626
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26席
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PT6C出力増強型2基
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BA627
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27席
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AE1107(6,000shp)2基
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BA632クオッド
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32席
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PT6C出力増強型4基
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欧州でもティルトローター計画
そうした動きに対して欧州勢も黙って見過ごすわけにはいかない。イタリアのアグスタ社はベル社に協力してBA609の開発に参加する一方、「エーリカ」と呼ぶ独自の研究計画を打ち出した。同機は固定翼の外側半分がローターと共に変向し、内側半分は動かない。したがってティルトローターとティルトウイングの両方の特徴をそなえる。
ティルトウイングは元来、主翼を立てたときに抵抗が大きく、特に加速の際に大きくなるという欠点があった。一方、純粋のティルトローターは主翼上面にダウンウォッシュが当たって揚力の効果が妨げられる。そこでアグスタ社のアイディアは双方の欠点をやわらげ、揚力を10%余り増やすことが可能。したがってローター直径は小さくてすみ、小さければ速度を上げることができるので、最大巡航速度は650km/hになるという。
また主翼外側を7°傾ければ通常の滑走離着陸もできる。エンジンは主翼内側の固定部分に取り付けられる。
欧州ではもうひとつ、ユーロコプター社を中心とする「ユーロティルト」計画がある。1990年代初めのユーロファー構想を受け継ぐもので、エンジンは主翼に固定したまま、ローターだけが変向する。したがって変向のためのエンジン改造の必要がない。また変向重量が少なくなるため、主翼の構造も簡単になる。ユーロティルトは19席で総重量10トン。速度550km/hで航続1,500kmという。
これら2種類のティルトローター構想を、アグスタ社とユーロコプター社はそれぞれ別個に欧州委員会に提出し、研究と試作のための資金援助を申請した。その結果、昨年末、両社共通の計画にまとめてはどうかという示唆があり、目下その話し合いがおこなわれている。
話し合いの結果は間もなく出る予定だが、おそらくは総重量10トン、乗客20〜25人乗りになるもよう。高翼主翼とT型尾翼をもち、エンジンはRTM322クラス。試作機が飛ぶのは2005〜2006年頃、実用化は2008年が目標と伝えられる。
かくてティルトローターは近い将来、日本を含めて世界中に普及し、軍用と民間を問わず、さまざまな分野で使われるようになるであろう。
ティルトローターの将来需要
アメリカ政府は1992年、民間ティルトローター開発諮問委員会を設置、ティルトローターの民間利用の可能性について調査研究をおこない、その結果を95年に答申した。その報告書の中にティルトローター機に関する世界の需要予測がある。
それによると、旅客40人乗りのティルトローター機の需要は次表の通りとなっている。
地 域
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需要予測機数
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北米
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385〜525機
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欧州
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300〜400機
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日本
| 300〜400機
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オセアニア
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100〜125機
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合 計
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1,085〜1,450機
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ほかに貨物機として75〜150機の需要を予測しており、総計では1,160〜1,600機になる。したがって日本1国だけで欧州全域と同じだし、北米とも余り変わらない。いかに日本が期待されているかが分かる。
余談ながら今から10年ほど前の1989年、当時のチェイニー国防長官がV-22の開発打ち切りを宣言した。そのとき議会は逆に予算をつけて、開発を続行した。この結論に至るまで、米国議会でティルトローターの開発を打ち切るかどうか賛否を問う議論がおこなわれた。その中で議員の1人は、今ここでティルトローターの開発を中止すれば、これまでの長年の努力が無駄になるばかりか、残った成果を日本に買い取られ、先端技術が日本に流出するだけでなく、アメリカは将来、日本からティルトローターを輸入しなければならなくなる。自動車に次いで航空機でも日本に負けていいのかという議論があったらしい。
日本の地形は確かにティルトローター向きであり、アメリカからも欧州全域と同じレベルで期待されている。それに応える必要があるかもしれない。
(西川渉、『別冊航空情報ヘリコプターのすべて』、2000年7月刊掲載に加筆)
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