アニメビジネスの今・アニメ空洞化論その2:米国アニメ産業はアウトソーシングで空洞化したか (3/3)
シンガポールがライバルに?
アニメ空洞化については競争力を失った実例やデータなしに、懸念が先行して語られることも多い。しかし、現実には韓国や中国のアニメが海外市場で強力な競争相手になっている事実は現状ではない。アジア諸国の実例を見ていると、どこの国でもライバルは米国である。
さらに、現在のアジアではむしろアニメに対する投資や優遇制度を整えつつあるシンガポールの方がライバルとなる可能性がある。9月24日から秋葉原UDXで行われた「アニメビジネス・パートナーズフォーラム」では、海外連携についてシンガポールに希望を見出す話が多かった。
ダックビル・エンタテイメントの椚山(くぬぎやま)英樹代表取締役が行ったセミナーでは、テレビ東京で放映された『あらしのよるに』は当初製作資金のめどが立たず、知人の紹介でシンガポールの政府系組織にセールスに行ったところ、一発でファイナンスが決まったという。
また、カードゲーム事業を営むブシロードの木谷高明社長に至っては、シンガポールの魅力を熱く語った上で「将来そちらへの移転も考えている」と示唆したのだが、さすがにこれにはビックリした。シンガポールの人口はわずか500万人だが、いつまでも一緒に仕事ができない中国よりはパートナーとなる可能性が高いかもしれない。
ただ、アウトソーシングがあっても海外にライバルは育っていないかもしれないが、問題は前回記事の(2)で述べたように日本で後継者が育つ環境になっているかである。11月6日公開予定の次回記事ではその点について検証していきたい。
増田弘道(ますだ・ひろみち)
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
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