オスプレイ――固定翼機でも回転翼機でもなくなる「魔の瞬間」
FREE

オスプレイ――固定翼機でも回転翼機でもなくなる「魔の瞬間」

2012/07/09 17:21

 米海兵隊が沖縄に配備を予定している新型機V-22オスプレイが、モロッコに続きフロリダでも、訓練中に墜落事故を起こした。米軍によれば、パイロットの操作に関わる「人為的なミス」が原因で、「機材に問題はない」と言われている。

 オスプレイは、ヘリコプターのように垂直に離着陸することができ、飛行中は、固定翼航空機として高速で、したがって同じ燃料でより長距離を飛行することができる。ヘリコプターとプロペラ機の両面を備えた「すぐれもの」で、海兵隊の多様な作戦ニーズにも適応している。

 ヘリコプターは、回転翼を回して揚力を得る。固定翼機は、推進力によって発生させた高速の気流を翼にぶつけて揚力を得る。いずれも、十分な揚力がなければ、空中には上がらない。空中で揚力を失えば落下する。

 オスプレイは、離陸のとき、回転翼によって浮上し、徐々に回転翼を傾けて速度を増し、十分な速度になったところで回転翼を真横にしてプロペラとして使用し、固定翼によって揚力を保つ仕組みになっている。着陸の時は全く逆の動作が行われる。

 そういう仕組みの飛行機にとって最大の問題は、回転翼から固定翼へ、またはその逆の転移がスムーズにいくかどうかだ。特に、着陸時の速度コントロールは、どんな飛行機でも難しい。早すぎれば着陸できないし、遅すぎれば失速して揚力を失う。オスプレイの場合、そこに、回転翼の角度を水平から垂直に変える操作が加わるため、難しさが倍増する。

 最近の事故例は、いずれも、低高度を低速で飛行中に、ということは、おそらく固定翼から回転翼に転移する過程で、何らかの姿勢変化をしようとして失速し、墜落したものと思われる。

 このような事故は、マニュアル通りの操作をすれば防ぐことができる。だが、実際の飛行では、急な風向きの変化がある。編隊飛行では、僚機の予期しない姿勢変化への対応も必要となり、マニュアル通りの操作では済まない場合がある。

 普通の機体なら、そうした不意の操作への許容度があるが、オスプレイが、固定翼から回転翼に転移する過程においては、理論上、固定翼機でも回転翼機でもなくなる「魔の瞬間」があるため、不意の操作に対する許容度は少ない。まして作戦行動となれば、天候や風向きを選ぶわけにはいかず、想定されない敵の銃撃など、通常の離着陸とはかけはなれた運用が要求されるため、「人為的ミス」の確率は大きい。

 それでも米軍は、機体に問題はなく、パイロットによる人為的ミスだったことを強調する。だが、人為的ミスは、必ず起きる。機体に問題がないのであれば、安全性の説明は、「人がミスを起こさない」ことを証明しなければならず、理論上不可能だろう。仲井真沖縄県知事が言うように、「専門家の軍人(パイロット)が操作しても事故を起こすなら、(それは、機体の設計自体に)問題がある」わけで、世間では、そういう飛行機を「欠陥機」と言う。

 普天間基地の離着陸経路の下には多くの民家がある。「世界一危険な基地」と言われるゆえんだ。そこに、「世界一危険な飛行機」を配備することは、日米同盟を破綻させる意図があるとしか思えない愚行だ。

 日本政府は、米軍の配備を拒否する権限がないと言う。だが、それは、東電の原発事故調査における自己弁護と同じ論理だ。

 問題は、権限の有無ではなく、不安を抱える地元に対する誠意だ。昨年、石川県小松基地の自衛隊機が部品を落下させた事故の際には、地元に拒否する「権限」がないにもかかわらず、半年近くにわたって飛行を停止した。

 ちなみに、小松基地の飛行を止めたのは、「素人」の一川保夫大臣だった。政治家であれば、アメリカに対して、「配備の強行は、日米同盟に禍根を残す」くらいの捨て台詞を言ってほしいところだが、なまじ安保に詳しい「学者」大臣には難しい、ということなのだろうか。

栁澤協二 やなぎさわ・きょうじ 国際地政学研究所副理事長 元内閣官房副長官補)

このエントリへのコメント: 3

3
つーさん
2012/08/28 12:19
オスプレイ配備の本当の意味は何

航空戦術遂行には指揮官から兵まで陸地の地形が頭に入っていることが第一の要件です。
オスプレイは配備に際して、訓練のため日本沿岸を隈なく飛び回ります。
その結果、米軍の操縦士も戦術航空士も海兵陸戦隊員もその他の米軍人も自分の庭のように、地形を熟知してしまいます。実践部隊にとって航空写真から判断する地形は詳細なものでもヒント程度にしかなりませんが、現地踏査まがいのことができればしめたものです。
 そして、いずれは米軍人が教官、自衛隊員が訓練生の立場でオスプレイの操縦を習うような羽目になるんでしょうね。操縦が困難な機種だけに、延々と先生と生徒の関係で、心身ともに自衛隊員が牛耳られていく様子がありありと目に浮かびます。
 現状も、似たようなものかもしれません、陸自は米国で指揮装置によるロケット砲の射撃訓練をして、イージス艦の電子機器はほとんどがおそらくブラックボックス、肝心の操作は米兵に教えてもらいながら、合同訓練を実施しているという状況ではないのか、そうでじゃないように祈るばかりです。むかし、「合戦用意、夜戦に備え」、「撃ち方用意」、「撃て」と号令をかけていたのが、もはやそれらは死語になり、自衛隊の訓練では「レディー!」「ファイア!」と号令をかけているとか、アメリカンスクール軍事部門の優等生、自衛隊。
 経済だけではなく、軍事的にもアメリカのシステムに組み込まれていく、最後の戦術の詰に入っているような気がします。
 
 

 

2
onosadakurou
2012/07/10 23:23
オスプレイは危険なのか?

垂直離着陸輸送機のオスプレイ。
攻殻機動隊の公安9課が使ってそうな格好良い機体ですが、安全性を論じる前に思う事が有ります。
オスプレイは決して自衛隊に供与されている機体では無く、海兵隊というアメリカ国民によって構成されている部隊に供給されている兵器です。
つまり、事故が発生した場合にはアメリカの銃後の家庭が政府を強力に突き上げてくる筈。
日本国民が如何に不平不満を開陳しようと馬耳東風を決め込む事を可とするホワイトハウスも
自国民の息子達が無駄な血を流す事は許容しない筈。
それでも配備を強力に進めているのだから、世間的に信じられているよりもオスプレイの信頼性は高いのではないでしょうか?

1
Feが趣味
2012/07/10 03:05
尖閣列島に最適。

オスプレー配備ですか。
尖閣列島での作戦に最適な航空機ですね。スピード早くて航続距離長い。
尖閣列島は元々米軍の射爆場だったのですから、オスプレーの訓練をしていただけば、中国抑止と一石二鳥かもしれません。
これに、中国が苦手らしい海兵隊との組み合わせですから、鬼に金棒かもしれません。
離着陸ですが、滑走路を使って安全に離着陸できるそうですから民家の近い所では安全に運用していただいては如何でしょうか。無理して、垂直離着陸しなくても好いように思います。

国民必読!! TPPは本当に国を滅ぼすのか? フォーサイト電子書籍「TPP反対論のデタラメをを糺す」(山下一仁・元農水省GATT室長)
20年間にわたり良質な情報をお届けしてきたフォーサイトが、会員の皆様とともに作り上げるサイトです。

20年間にわたり良質な情報をお届けしてきたフォーサイトが、会員の皆様とともに作り上げるサイトです。

初めての方へ お申込み(会員登録)ガイド
フォーサイトの更新情報を週1回お届けします。 フォーサイトメールマガジン 登録はこちら
フォーサイト公式facebookページ
フォーサイト公式Twitter
Foresight Forum
注目トピック
国内
2012/10/17 10:06
2
 日本政府は米兵を日本の法律で裁くべく米国と最後まで腰砕けにならず交渉できるであろうか? また、アメリカ大使にとっても厄介な…
最新のコメント
  • 占領期の繰り返し
    昭和20年から日本各地で「体の大きな男」―米兵とは書けなかった―が民家に押し入り乱暴狼藉…
    2012/10/20 18:51
  • どこの国にもクズはいる。問題なのは公平な裁きがないことだが……
     どこの国だろうと、軍隊であろうとなかろうと、生身の人間の集団には一定数のクズがいるのは…
    2012/10/19 21:18

最近1週間のランキング

最新コメント

スマートフォンに最適化したスマートフォン用Foresightができました