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野田政権の体たらくは目を覆うばかりだ。外国人企業からの献金や、過去の暴力団関係者との交際を認めた田中慶秋法相が、ようやく辞任する見通しだ。田中氏に[記事全文]
華やかな未来は約束されていない。それを覚悟でメジャー挑戦をえらんだ超高校級右腕の決心を見守りたい。岩手・花巻東高の大谷翔平投手が、大リーグに挑むと宣言した。ドラフト1位[記事全文]
野田政権の体たらくは目を覆うばかりだ。
外国人企業からの献金や、過去の暴力団関係者との交際を認めた田中慶秋法相が、ようやく辞任する見通しだ。
田中氏に法務行政の責任者が務まらないことは、いくつもの理由から明らかだった。
辞任は当然のことだが、それで済む話ではない。
まず、外国人献金問題だ。この問題は昨年、当時の前原外相や菅首相らにも発覚し、前原氏は外相を辞任している。
つまり、政治資金規正法違反に当たることは、当時から分かっていたはずである。なのに今回、本紙に指摘されるまで是正を怠ってきた田中氏の脇の甘さは度し難い。
次に、過去に暴力団組長の宴席に出たり、暴力団幹部の仲人をしたりしたとの週刊誌報道の事実関係を認めたことだ。
暴力団と付き合いのある法相が、暴力団の摘発にあたる検察を指揮・監督する。たちの悪い冗談だとしか思えない。
こうした問題を野党に追及されるのを恐れたのだろう、田中氏は先週、参院決算委員会の閉会中審査を欠席した。まさに前代未聞の国会軽視である。
閣僚は、国会に答弁や説明を求められれば出席しなければならない。これは憲法63条に定められた義務である。
法相就任以来の田中氏の記者会見では、しどろもどろの答えが続いたり、質問と答えがかみ合わなかったりする場面が目立った。
こんな「素人法相」に、検察改革など喫緊の課題を任せるわけにはそもそもいかなかった。
野田首相はなぜ、田中氏を法相に任命したのか。
結局は、9月の党代表選で旧民社党グループの支援を受けた見返りに、グループ会長の田中氏を初入閣させた。つまり、能力や経験より論功行賞、党内融和を優先させた安易な組閣の帰結というほかない。
首相の任命責任は極めて重いと言わざるをえない。
もうひとつ、あいた口がふさがらないのは、民主党の側から田中氏に決算委員会の欠席を求めた経緯があったことだ。
「国会を欠席せよ」と言われて唯々諾々と従う田中氏も田中氏だが、「答弁されるよりまし」と欠席を求めた民主党の姿勢にもあきれるほかはない。
法相の問題も響き、朝日新聞の世論調査では内閣支持率が18%に下がり、初めて2割を切った。野田内閣の政権担当能力そのものに、重大な疑問符がつきつけられている。
華やかな未来は約束されていない。それを覚悟でメジャー挑戦をえらんだ超高校級右腕の決心を見守りたい。
岩手・花巻東高の大谷翔平投手が、大リーグに挑むと宣言した。ドラフト1位候補の高校生が、日本球界を経ずに米国をめざす初のケースだ。
高校生最速の時速160キロをマークした逸材には、ドジャースなど米国の10球団近くが熱い視線を送る。
下積みのマイナーリーグで勝てなければ、メジャーの扉は開かない。
日本でプロになり、実績を作って大リーグを狙うほうが現実的だし、収入も安定する。
そんな損得計算も両親の反対も、18歳は押し切った。
イチロー選手がさっそうと大リーグに登場した年に小学1年生だった世代にとっては、現実味がある目標なのだろう。
25日のドラフト会議で、日本の球団が指名しても、米国行きを阻む法的効力はない。
4年前、社会人の田沢純一投手がレッドソックスと契約した。1位指名の確実な選手が日本球界を経由せずにメジャー契約を結んだ初のケースだった。
危機を感じた日本球界は防衛策を考えた。
ドラフトを拒んで外国の球団に入ったら、退団しても高卒は3年間、大卒・社会人出身は2年間、日本の球団と契約できない申し合わせだ。
しかし今回、高校生の夢が揺らぐことはなかった。一部の球団には「契約できない期間を延長すべきだ」という意見もあるようだが、若者の可能性を邪魔する内規はやめるべきだ。
サッカー界でも近年、高校生がJリーグを経由しないで欧州のプロクラブと契約する例があるが、日本に戻ればすぐにJリーグで活躍できる。野球界も有能な人材を締め出す手はない。
大谷投手はいう。
「ずっとメジャーでやりたい気持ちが強かった。若いうちから行きたいというのもあった」
今のルールでは高校生が日本の球団に入ると、自由に契約する球団を選べるフリーエージェント(FA)権は、国内移籍で8年、海外移籍は9年かかる。国内外を問わず、FA権の取得年数を縮めてはどうか。
日本でキャリアを始めても、全盛期で米国に渡れば、峠を越す前に復帰し、再び花を咲かすケースも増えるだろう。グローバル化に逆らい、日本に閉じ込めておく発想は、捨てよう。
嫌がらせのような規制では、若者の挑戦を止められない。それを日本球界は教えられた。