伊 地震の“安全宣言”で専門家ら有罪10月23日 4時16分
3年前にイタリア中部で起きた地震を巡って、地震の発生前に国の委員会が安全宣言とも受け止められる情報を流し被害を拡大させたとして、専門家ら7人が過失致死などの罪に問われている裁判で、イタリアの裁判所は被告側の過失を認め、全員に禁錮6年の有罪判決を言い渡しました。
この裁判は、2009年にイタリア中部のラクイラを中心に300人余りが犠牲になった地震を巡って、地震の6日前に国の委員会が「近く大きな地震が起きる可能性は低い」という安全宣言とも受け止められる情報を流したことから、少なくとも住民37人が避難せずに死亡したとして、専門家ら7人が過失致死などの罪に問われているものです。
裁判では、検察側が、「地震の予知ができなかった責任を問うのではなく、状況の分析と情報の伝達が慎重に行われなかったことが過失に当たる」として被告全員に禁錮4年を求刑したのに対し、被告側は、「あくまでも可能性を示しただけだ」として、無罪を主張していました。
ラクイラの裁判所は22日、被告側の過失を認め、7人全員に検察側の求刑を上回る禁錮6年の有罪判決を言い渡し、判決理由については、90日以内に裁判所から被告側に伝えられることになっています。
判決を受けて被告の防災庁の幹部は、「すべての責任を委員会に押しつけ、防災に携わる仕事を危うくする」と批判したほか、被告側の弁護士も、「あらゆる点で極めて不当な判決だ」と述べ、全員が控訴する意向を明らかにしました。
一方、裁判所には地震で肉親を失った遺族のグループも訪れ、有罪の判決を聞いて抱き合って喜ぶ姿も見られました。
このうち、地震の前に国の委員会の見解を聞いて避難を見合わせ、結果として妻と娘を亡くしたという49歳の男性は、「妻と娘が助かることができたかも知れないと思うととてもつらい。この判決を受けて今後、同じような悲劇が繰り返されないことを期待する」と話していました。
ラクイラを中心に大きな被害
イタリア中部のアブルッツォ州に大きな被害をもたらした地震は、2009年の4月6日未明に起きました。
地震の規模を示すマグニチュードは6.3で、住宅など多くの建物が倒壊し、中部の都市ラクイラを中心に、合わせて308人が死亡したほか、およそ1600人がけがをしました。
大きな被害が出た背景には、地震が住民が就寝している未明に発生したことに加え、耐震性に問題がある建物が多かったことなどが指摘されました。
また、この地震を受けてその年のG8サミット=主要国首脳会議の議長国だったイタリア政府は、被災地の復興を後押ししようと開催地を急きょ被災地ラクイラに変更し、首脳会議を開催しました。
問題視された6日前の会合
検察側が問題視したのが、地震が起きる6日前の2009年3月31日に開かれた国の委員会の会合でした。
会合は、当時この地域で数か月にわたって小規模な群発地震が続いていたことから、規模の大きな地震が起きる可能性があるかどうかを評価するために開かれました。
委員会では、地震の予知はできず、継続して注意を払っていく必要があるとしながらも、「短期的には、大地震は起きそうにない」という見解が示されました。
また、委員会のメンバーだった防災庁の幹部がテレビ局のインタビューに応じ、「専門家は小規模な地震でエネルギーの放出が続いており好ましい状況だと確認した」などと述べ、住民に対して家にとどまってよいという事実上の「安全宣言」と受け止められる発言をしました。
裁判の中で検察側は、「地震が予知できなかったことを問題にしているのではない」としたうえで、「委員会は住民に対して慎重に地震の可能性を伝えるべきなのに、科学的な根拠のない表現によって住民に避難の必要はないと感じさせたことが被害の拡大につながった」として、過失があったと主張していました。
事前に地震予知を巡る“混乱”も
2009年にイタリア中部を襲った地震を巡っては、発生の1週間余り前に、個人の立場で地震を研究している国立研究所の技師が、「地中から異常な量のラドンガスが排出されており、この地域で大地震が起きる危険性が高い」として、住民に周知する活動を始めました。
これを受けて住民の間に急速に不安が広がったことから、国の防災当局は、この予知について科学的な根拠がないと否定し、地元の自治体もこの技師に対してこうした情報を広げるのをやめるよう命じました。
国の委員会としては、「地中からのラドンガスの排出量によって地震を予知できることは科学的に証明されていない」として、住民の不安を打ち消すためにより強い表現で「近いうちに大きな地震が発生する可能性は低い」という情報を流し、誤解を招く結果につながったとも指摘されています。
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