社説

福島県汚職裁判/司法は捜査の検証を怠った

 1億7300万円の賄賂で起訴されたのに、一審判決が認めたのは7300万円、二審では何とゼロになった。それでもなお二審判決通りに有罪が確定することには、どうしても違和感が拭えない。
 福島県発注のダム工事をめぐり、佐藤栄佐久前知事(73)が収賄罪に問われた事件で、最高裁が上告を棄却した。二審の東京高裁判決(懲役2年、執行猶予4年)が確定することになる。共犯とされた実弟(懲役1年6月、執行猶予4年)も併せて確定する。
 賄賂の額という核心の部分で検察側の主張が崩れていただけに、最高裁は「犯罪の成立」にもっと厳格な姿勢で臨むべきだったのではないか。
 東京地検特捜部が描いた事件の構図は、佐藤前知事と実弟が共謀し、ダム工事受注で前田建設工業(東京)の便宜を図った見返りに、賄賂を受け取ったという内容だった。
 この事件の特異性は賄賂の授受が現金ではなく、土地取引によって行われた点にある。実弟経営の会社の土地(時価8億円)を、ダム工事の下請けに入った建設会社が9億7300万円で買った。その差額が賄賂と見なされた。
 東京地裁で2007年6月に開かれた初公判以来、無実を訴える被告側と検察側は激しくぶつかり合った。土地取引と賄賂との関わりはもちろん、共謀や便宜供与の有無など争点は多岐にわたった。
 東京地裁は土地代金として支払われたのは8億7300万円で、賄賂額も7300万円と判断した。二審の東京高裁ではさらに、「土地の時価は不明」となり賄賂の額は実質ゼロになってしまった。
 普通の人の感覚では二審は無罪でも不思議はなかったが、それでも「換金の利益」は賄賂として残ると判断された。最高裁もその考えを踏襲した。
 換金の利益は非常に分かりづらい。思うように売れなかった土地が、売買によって現金化されたこと自体に賄賂性があるということだ。
 判例上、賄賂の形態はかなり幅広く認められており、換金という形もあり得るのだろう。
 ただ、1億7300万円という額が根拠を失ったことを考えれば、形式的な要件にすがって判断したように思える。
 検察が主張した賄賂の額が今までの裁判で全く信用できなくなったのだから、最高裁のなすべきことは捜査の検証だったのではないか。
 裁判では現に、厳しい取り調べや供述調書の信用性が問題にされた。さらに裁判進行中の2010年、大阪地検特捜部の検事が押収証拠のデータを改ざんする事件が起き、捜査手法に不信感が広がった。
 最高裁には、有罪の証拠となった調書や取り調べの妥当性を再点検することが求められていたはずだ。換金の利益という一点で判断したのは、捜査や裁判に対する信頼回復の道を自ら閉ざしたに等しい。

2012年10月18日木曜日

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