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 ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)は、現生人類(ホモ・サピエンス)の近縁種として知られているが、謎の多い種でもある。最近、目覚ましく発達した分析技術により、ネアンデルタール人の秘密が徐々に明らかになり始めた。
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ソース: ネアンデルタール人の謎、解明進む ナショナルジオグラフィック

 例えば、現代の人間のDNAに残るネアンデルタール人の痕跡を分析した最新の研究によると、ネアンデルタール人は、3万7000年前まで現生人類と異種交配を行っていたという。また、別の研究では、アジア人と南アメリカ人に、ほかの地域と比べてネアンデルタール人と共通する遺伝子要素が多いことが判明した。

 イギリスにあるロンドン自然史博物館の古人類学者クリス・ストリンガー氏は、「両種の間にこれほど複雑な関係が存在したとは、2〜3年前には予想もしなかった」と話す。

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 かつては「野蛮なネアンデルタール人」と「洗練された現生人類」といったイメージが固定化していたが、今や両者の境界はかなり曖昧になってきている。

 アメリカにあるニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の考古学者ジョン・シェイ氏は、「ライフスタイルの違いを挙げるのはますます難しくなっている。どちらも同じように氷河期を懸命に生きていた」と話す。

 ネアンデルタール人のゲノム解析が進み、現生人類との遺伝的共通点が見つかると、「両種の間で異種交配があった」という説が登場した。しかし、「共通の祖先から受け継いだものだ」という反論の声も上がる。ドイツのライプチヒにあるマックス・プランク進化人類学研究所のスヴァンテ・ペーボ氏が率いる研究チームは、両仮説を検証するため、現代のヨーロッパ人のDNAに残るネアンデルタール人の各痕跡の長さを分析、その遺伝子要素が現生人類に混入した時期を特定した。その結果、遺伝子流動の発生が8万6000〜3万7000年前であり、特に6万5000〜4万7000年前の可能性が高いことが明らかになった。

 現生人類がアフリカを離れ、中東からユーラシアに移動を始めたのは6万年前だ。ペーボ氏は、「やはり異種交配は実際にあったはずだ」と結論付けている。

 新たな地を訪れた現生人類にとって、異種交配は思いがけない恩恵をもたらしていたようだ。現生人類は、ネアンデルタール人の遺伝子要素を通じて、ユーラシア土着のウイルスと戦う免疫系を獲得したと考えられている。

「ネアンデルタール人は部分的には私たちの祖先なのだ」とペーボ氏は話す。「親戚関係を持たない現代人2人の遺伝コードを比較すると、数百万単位で異なる部分が存在する。ところが、ネアンデルタール人と現生人類のゲノムには、平均でおよそ10万カ所しかない」。

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 当時のネアンデルタール人は、どのような感性を持っていたのだろうか?

 この点ついても、「野蛮」という定説を覆す研究が現れ始めている。例えば、イギリス領ジブラルタルにあるジブラルタル博物館の研究チームは、南ヨーロッパ各地の遺跡で、鳥の翼の化石を大量に発見している。特に黒色の大きな猛禽類の羽をむしり取って身に着けていたと考えられ、場合によっては宗教的な装飾に使われていた可能性もある。

 前述のシェイ氏は、「黒みがかった鉱物顔料を好んでいたという。彼らにとって黒色は重要な意味があったのだろう」と話す。

 また、別の研究では、スペイン北部のエル・カスティージョ洞窟に描かれた壁画の年代が、4万800年以上前と判明した。まだ絶滅に至っていないネアンデルタール人が描いた可能性が浮上してきた。ただし、既にこの地に到達していた現生人類が描いた可能性も残っている。

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 さまざまな感性に恵まれていたネアンデルタール人は、能力も優れていたようだ。

 顔料以外にも、アクセサリーや複雑な道具を作っていた可能性がある。前述のストリンガー氏は、「遺体を土に埋めていたことも判明している」と話す。また、アメリカのスミソニアン研究所の研究チームは、さまざまな植物が含まれている食事や穀類の加熱調理を示す形跡を発見している。

 アメリカ、ウィスコンシン大学マディソン校の古人類学者ジョン・ホークス氏は、「もちろん原始的な方法で、おそらくは葉に包んで焼いたのだろう。鍋はまだないからね」と話す。

「完全に別物と考えられてきたネアンデルタール人と現生人類だが、互いの距離は着実に縮まっている。特に狩猟採集民とネアンデルタール人は区別が難しい」。

 しかし、複雑な文化を発展させ地球全域に広がっていった現生人類に対し、ネアンデルタール人は消え去った。この謎はまだ解き明かされていない。

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