WEDGE REPORT

尖閣危機 「石原都知事が引き金」は思うツボ 反日デモは戦前から
WEDGE11月号特集

中西輝政 (なかにし・てるまさ)  京都大学教授

1947年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。ケンブリッジ大学大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、現職。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。近著に『日本の悲劇 怨念の政治家小沢一郎論』(PHP)がある。

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ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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 第3の柱は、すぐにでもできる安全保障体制の強化である。まずは既述のように集団的自衛権の行使へ向けて憲法解釈を変更する。次に、海上保安庁と海上自衛隊の能力向上や法制整備がある。領海、領域警備をシームレスに行えるよう、法体系を早急に整備しなければならない。そして国際広報体制の整備。また、少し時間や資金を要するが、国際情報の収集、深度化のためのインテリジェンス機関の整備も必要だ。とりわけサイバー戦能力の向上は、もはや待ったなしだ。

 そして、日本はより中長期を見据えた戦略も描いておかなければならない。

 まずは防衛費の大幅な増額が必要だ。中国、ロシアが急激な勢いで防衛予算を増額している中、この20年の間、日本はこうした周辺諸国の潮流に全く逆行して防衛費を減らし続けてきた。当面は社会保障を効率化させることによって生み出す予算から3000~4000億円でも防衛装備に充当できれば、周辺地域での日米同盟の抑止力は大幅に向上する。

 また、対外経済戦略の見直しも必要だろう。この20年、日本企業はこぞって「13億人の市場」と喧伝され雪崩を打って中国へ向かったが、今回の中国での深刻なリスクの浮上を重大な教訓として、ベトナムやミャンマー、インド、さらにはロシアや東欧など、中国以外の地域にも日本企業が進出の可能性を広げられるよう、政府主導での「チャイナ・パッシング(中国通過)」という国家戦略の推進が不可欠だ。

 今後も中国や北朝鮮との間で有事は頻発するだろう。ベルリンの壁崩壊後、日本人だけが、「今後、世界は画期的に安定し、新興国も含めて世界各地が経済発展して、国連を中心とした平和が維持される」というムードに包まれたが、この20年、日本は時代観を決定的に誤っていたのだ。こうした愚行とも言える時代認識を今こそ、大きく転換する必要がある。

 そのとき忘れてはならないのは、世界に通用する普遍主義の旗を高く掲げることである。無用な争いを避け、「法の支配」と自由な価値観に守られた国際社会を打ち立てるため、中国の今の体制ややり方はおかしい、と声を上げ、中国人の人権や民主化の必要を世界に訴え、日本自身も正しい歴史認識を持った自由主義の先進国として世界に認められるよう努力しなければならない。

◆WEDGE2012年11月号より

 

 

 

 

 

 
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著者

中西輝政(なかにし・てるまさ)

京都大学教授

1947年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。ケンブリッジ大学大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、現職。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。近著に『日本の悲劇 怨念の政治家小沢一郎論』(PHP)がある。

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