2012年10月21日

◆ PC 遠隔操作犯を逮捕するな 

 PCを遠隔操作した犯人を逮捕せよ、という声がある。だが、逮捕するべきではない。その理由を示す。

 ──
 
 PCを遠隔操作した犯人を逮捕せよ、という声がある。たとえば、読売の社説だ。

 犯人を割り出すため、警視庁、大阪府警、神奈川、三重両県警は合同捜査を行うことを決めた。
 サイバー犯罪に対処する官民の専門家のノウハウを結集して、真犯人の特定を急いでもらいたい。真犯人にたどり着けなければ、警察は今後も、コンピューターに違法侵入するハッカーに甘く見られるだけである。
 一連の事件は、PCの「住所」であるIPアドレスを根拠に、PCの持ち主を犯人視することの危険性を明白にした。過去の同種事件の捜査に誤りはなかったのか。その検証も忘れてはならない。
( → 読売新聞 2012年10月21日
 警察の問題もある、と指摘しているが、それは副次的になっている。しかし、本当の問題は、今回の犯人ではなく、警察そのものなのだ。
 今回も、次の状況があった。(上の社説から。)
 逮捕された4人は当初、いずれも容疑を否認したが、警察は耳を貸さなかった。
 小学校の襲撃を予告したとして神奈川県警が逮捕した大学生のケースでは、「楽しそうな小学生を見て困らせてやろうと思った」とする動機など、具体性のある自白調書まで作成された。
 「鬼殺銃蔵」との名前について、「鬼殺は日本酒の商品名。13が不吉な数字だからジュウゾウにした」との“供述”もあった。
 (しかし)このメールにより、警察は誤認逮捕を認めざるを得ない状況に追い込まれたと言えよう。
 つまり、問題の根源は、あくまで警察なのだ。警察にこのような「捏造」という体質がなければ、大学生は 逮捕 長期拘留されなかったはずだし、退学するハメにもならなかったはずなのだ。
      右記リンクを参照。→ 逮捕後に潔白である証拠を無視
 そもそも、「IPアドレスだけで決める」という方法も稚拙だし、パソコン本体の分析能力が決定的に欠けていたという点(報道による専門家の指摘)も問題だ。

 考えてみれば、今回の犯人は、社会に害悪をもたらしていない。せいぜい掲示板に悪戯書きをした程度だ。便所の落書きと同程度のことである。そんな無意味な悪戯書きを信じる人も阿呆だが、そんな無意味な悪戯書きを真に受けて捜査する警察も阿呆だ。
 今回の犯人がやった(真の)悪は、唯一、「警察の威信をずたずたにしたこと」だけである。社説から引用すれば、こうだ。
 神奈川、三重両県警は誤認逮捕を認めて謝罪した。警視庁も誤認逮捕を認めた。
 PCを遠隔操作した真犯人に翻弄され、捜査がずさんで、相次いで冤罪を引き起こした。警察・検察の信頼は大きく失墜した。
 だから、警察がやっきなって逮捕しようとしているのは、「自分のメンツをつぶされた仕返し」ということだけだ。
 「本当は警察はどうしようもない無能の阿呆で、無辜の市民を傷つける悪党ぞろいなのだが、これまでは警察は正義の味方だというフリをして、真実を隠蔽することができた。ところが、この犯人のせいで、警察の無能さと悪質さが、白日の下にさらされた」
 警察はこういうふうに思っているから、必死になって仕返しをしようとする。しかし、それは方向が逆だろう。国民としては、むしろ、この真犯人を「義賊」として見る方がいい。「悪は悪だが、ある意味、大義のあるヒーローだ。この犯人のおかげで、社会は大幅に改善された」というふうに。実際、犯人は「検察に醜態をさらさせたかった」と語っている。( → TBSへのメール
 そもそも、この犯人は、何も利益を得ていない。彼がやったことは「警察の無能さと悪質さを、白日の下にさらした」ということだけだ。その意味で、通常の犯罪者や愉快犯とはまったく異なる。むしろ、かなり知性や良心を感じる。
 TBSへのメールでは、「遊んでくれてありがとう。また遊びましょうね」という文言があったことで、警察は「警察もなめられたものだ」と怒り狂っている。だが、ここでは、「犯罪によって警察をコケにすることで喜ぶ愉快犯だ」と見るよりは、「遊んでくれてありがとう」という言葉を向けて警察をからかう知識人、という感じがする。ウイルスによる犯罪そのものよりも、警察に言葉を向けて楽しむ、という感じだ。
 
 結局、この犯人は、たいして悪いことをやっていない。やったことは、他人を通じて、掲示板(など)に悪戯書きをした(させた)ことぐらいだ。
 一方、それにともなって「誤認逮捕」というひどい被害が発生して、被害者は大迷惑をこうむったが、それは、この犯人が理由ではなく、警察そのものが間違った体質を持っていたことによる。そして、そのことは、先の厚労省の事件からずっと続いている。読売社説も指摘した。
 厚生労働省の村木厚子さんを冤罪に巻き込んだ郵便不正事件の教訓は、全く生かされていないのではないか。
 こういう過去の大失敗があるのに、警察は何も反省・改善していない。マスコミがいくら指摘しても、ちっとも直そうとしない。だから今回の事故が起こった。
 一方、今回の事件では、警察内部に「問題を是正しよう」という動きがある。メンツを丸潰しにされたのだから、それも当然だろう。つまり、日本中のマスコミがよってたかって「改善しろ」と言ってもできなかったことを、今回の犯人は一人でやり遂げた、とも言える。一種の英雄だ。
 とすれば、今回の犯人をことさら逮捕する必要はない。それによる真の被害者は、警察だけだからだ。
 一方、警察によって誤認逮捕されて冤罪の被害をこうむった人はいるが、それは、今回の犯人のせいではなく、警察のせいである。また、今回の被害者数人は「氷山の一角」にすぎず、他にも山のようにたくさん冤罪の被害者がいる。(たとえば、痴漢冤罪の被害者は、ものすごくたくさんいる。)
 
 そもそも、警察には「犯罪を捏造する」という体質がある。読売・社説にもこうある。
 逮捕された4人は当初、いずれも容疑を否認したが、警察は耳を貸さなかった。
 小学校の襲撃を予告したとして神奈川県警が逮捕した大学生のケースでは、「楽しそうな小学生を見て困らせてやろうと思った」とする動機など、具体性のある自白調書まで作成された。
 「鬼殺銃蔵」との名前について、「鬼殺は日本酒の商品名。13が不吉な数字だからジュウゾウにした」との“供述”もあった。
 脅すような尋問によって、警察・検察が描いた構図通りの供述を強要する取り調べがあったとしか思えない。
 こういう体質を是正することこそが、何よりも大切だ。犯人を逮捕することなどは、二の次なのだ。たかが悪戯書きの犯人を逮捕することに血道を上げるよりは、そこいらの駐車違反でも摘発する方がよほど有効だろう。(それは確率的に人命を救うことにもつながる。駐車違反が原因で交通事故死が発生することはときたまあるからだ。)
 また、大量の刑事を投入するなら、尼崎の連続殺人にでも人員を投じる方がいい。
  → 尼崎連続殺人の相関図

 一方、今回の犯人の逮捕のために、大量の刑事を投入しても、何の意味もない。犯人は、地上にいるのではなく、ネット上にいるからだ。
  → 朝日の謝罪と読売の謝罪 の 【 追記 】

 そして、ネット上にいる犯人を逮捕するために必要なのは、刑事ではなくて、IT専門家なのだ。
  → サイバー犯罪への対策

 ところが、IT専門家を使っても、このような犯人のシッポをとらえることは、非常に困難である。たぶん、失敗に終わる。たかが悪戯書きの犯人ぐらいで、海外のサーバーを調べることもできないだろうから、失敗は目に見えている。……しかも、それは、専門家を使った場合だ。現状のように、「IPアドレスを調べれば犯人がわかる」と思い込んでいたり、「パソコン本体の消去済みファイル」をまともに調べる能力もないようでは、今の警察はあまりにも素人じみている。こんな警察が、かなり頭のいい今回の犯人を捕らえることは、失敗するに決まっている。

 要するに、今の警察のIT能力はあまりにも貧弱なのである。IPA との連携さえもできていない始末だ。こんな状態のまま、「犯人の逮捕に全力を尽くす」という方針を立てれば、「全力を尽くしたあとで敗北しました」という結果が白日の下にさらされるだけだ。「警察の敗北」と大々的に報道されるだろう。警察は、なめられたあげく、さらに大量の模倣犯を生み出すかもしれない。
 だったら、最初から勝てぬ相手とは戦わない方がいい。かわりに、「おめこぼしをしてあげた」というフリをする方がいい。その上で、「組織の体質を抜本的に改善します。今は犯人逮捕よりも組織の改善に尽くします」と言えば、国民から拍手されるだろう。「馬鹿も馬鹿なりに反省できるんだな」と。

 というわけで、今回の犯人は、逮捕しない方がいいのである。(どうせ逮捕できないのだから。)
 そして、かわりに、自分たち自身の冤罪発生体質の解消に、努力する方がいい。今回の犯人を逮捕しても、逮捕者はたったの一人だ。一方、冤罪で犯人に仕立て上げられた人を救えば、過去分と将来分を合わせて、多大な数の人々が救われる。その方がはるかに有意義だ。

     《 注記 》

     変に誤読している人がいるので、注意しておこう。
     本項の趣旨は、「犯罪者をおめこぼしせよ」ということではない。そのことは、すぐ上の紫色の着色部を読めばわかるはず。



 [ 付記1 ]
 ついでに、朝日の社説を紹介しておく。こちらは、読売と違って、警察の問題を強く指摘している。
 《 誤認逮捕―捜査が甘すぎる 》
 警察の捜査技術や人員が、日々進歩するインターネット技術に追いつかない。一見すると問題はそこにあるように見える。そうした側面もあるのは確かだろう。
 しかし、捜査のいきさつが明らかになるにつれ、別の疑念がわいてくる。そもそも捜査の基本を尽くしていなかったのではないかということだ。
 東京の幼稚園などを襲うという予告メールが送られた事件では、警視庁は「発信元」のパソコンをウイルスチェックしないまま、持ち主の逮捕に踏み切っていた。送信された時間帯のアリバイも調べていなかったという。
 何より深刻なのは、警察がこのうち二つの事件で、逮捕した人から容疑を認める供述を引き出していたことだ。
 たとえば、横浜市のサイトに「小学校を襲う」と書き込まれた事件では、犯行予告に「鬼殺銃蔵」というハンドルネームが記されていた。
 「銃蔵」は不吉な数字である「13」をもじった。神奈川県警に捕まった学生は、警察への上申書でそう「説明」したとされる。しかも予告の詳しい中身は公表されていないのに、上申書には同じ文言が使われていた。
 どんな取り調べ方をすると、やってもいない人がこんなことを書けるのか。
( → 朝日新聞デジタル:誤認逮捕―捜査が甘すぎる
 しっかりした指摘だ。本項を書きはじめた途中で、朝日の社説を見たのだが、きちんとした内容なので、感心した。
 今回の問題の本質は、犯人よりも、警察にあるのだ。そのことを深く理解するべきだ。

 ※ そのことは、私も先に指摘した。 
    → 「ウイルスで誤認逮捕」の本質
  
 [ 付記2 ]
 最近は TorとかI2Pと呼ばれるソフトウェアが登場して、足跡の痕跡を消す技術が高まっているらしい。米国政府機関も摘発が困難になっているそうだ。
  → サイバー犯罪への対策 (コメント欄)
  
 こういう状況では、赤子のような日本の警察は、下手に努力するべきではあるまい。まるでダルビッシュの球を打とうとする小学生のようなものだ。おのれの無能をさらすだけ。
 
 [ 付記3 ]
 下記の 【 関連サイト 】 に、犯人のメールがある。そこには、次の文章がある。(抜粋)
■私の目的
「犯行予告で世間を騒がすこと」
「無実の人を陥れて影でほくそ笑むこと」
などではなく、
「警察・検察を嵌めてやりたかった、醜態を晒させたかった」という動機が100%です。
( → 出典



 【 関連サイト 】

 本項と似たような趣旨で、いろいろと情報を出しているサイトもある。
  → 真犯人からのメール全文が公開中、最大の問題点は何か? - GIGAZINE

 このページに「ダウンロード違法化」の問題が指摘されている。この件は、本来は問題ではないのだが、警察が過剰な違法行為をすれば、問題となる可能性がある。
 
 また、「児童ポルノの単純保持の違法化」も、なりすまし犯によって非合法ファイルが送りつけられる危険がある。そのあげく、無実の罪で逮捕される。(そのあと退学とか大赦とか。)
 
 いずれにせよ、警察がまともならば問題ないが、今の警察の体質だと、冤罪による被害者が多発しかねない。(何しろ無能なアホぞろいですからね。警察は。)



 【 関連項目 】
 話の根源としては、「冤罪を生む警察の体質」がある。それは「自白に頼る」という体質のことだ。
 それは「証拠よりも自白」ということだから、「証拠もなしに長期拘束で虚偽の自白をさせる」ということだ。
 その本質は? 「証拠もなしに長期拘束」ということ、つまり、「保釈の制度がない」(実質的にない or できない)ということだ。この件は、下記で述べた。
  → 「ウイルスで誤認逮捕」の本質
 要するに、警察がダメなだけでなく、警察の暴走を止める裁判所もダメだ。日本の司法システムそのものが狂っている。市民の権利が無視されている。非民主的。
  
 ──

 警察が何をするべきかは、ここに書いてある。
  → サイバー犯罪への対策
 つまり、「逮捕するぞ」と言葉に出して息巻くことではなく、逮捕するための専門組織を創設することだ。現実には、サイバー犯罪を摘発するための専門組織が存在しない。だからこそ今回のような初歩的な失敗をするハメになる。
 サイバー犯罪摘発のための専門組織を創設せよ、というのが私の提言だ。(上記)
 そして、そうすれば、今回のような失敗もなくせるだろう。「IT技術と証拠によって犯人を見つける」というふうにすれば、「冤罪と自白によって(ニセの)犯人を見つける」ということもなくなるろう。
 
 ──

 この問題についてのジョーク記事。
  → ジョブズ、爆弾設置容疑で逮捕
  


 【 追記 】
 けっこう誤解している人が多いので、念のために、以下で解説しておく。( ※ 本項をきちんと理解できた人は、読まなくてもよい。)

 本項で言っていることは、次のことではない
 「悪いのは警察だから、真犯人を逮捕しなくてもいい」

 また、次の見解もあるが、勘違いである。
 「警察も悪いし、真犯人も悪い。どっちも悪いのだから、どっちも是正するべきだ。警察の方が悪いということは、真犯人が逮捕を免除される理由にならない」

 私が言っているのは、次の二点である。
  ・ 今回の犯人のやったことは、悪ではあるが、小さな悪だ。
   (便所の落書き程度のことだ。ただの悪戯書き。)
  ・ 今回の犯人を逮捕しようとしても、逮捕できるはずがない。

 従って、結論は、次のことではない
 「逮捕しようとすれば逮捕できるが、見逃してやるべきだ」

 かわりに、結論は、次のことだ。
 「悪戯書きのような小さな悪を摘発するくらいなら、人命に関わる駐車違反を摘発せよ。そっちの方がずっと重要だ。さっさとミニパトやチャリンコに乗って、駐車違反の切符を切れ!」(それよりもはるかに下らないことのために、140人もの警察官を投入するな! どうせメンツのためだろうけど。)
 「また、IT犯罪の犯人を捕らえたいのであれば、140人もの警察官を投入するかわりに、IT犯罪の専門組織別項)を創設せよ。素人ばかりを大量に投入しても、敗北するだけで、無意味だ。『負けるとわかっている戦いでも、戦うことに意義がある』なんて、オリンピックじゃないんだから、やめてほしい。血税の無駄になるだけだ。」
  
 実は、ITの知識のない素人警察官ばかりを大量に投入したから、今回のように、「自白頼みで犯人を見つけよう」という方針となった。それゆえ、冤罪が起こった。
 ここが根源だ。 
 なのに、「犯人を逮捕せよ」とばかり煽り立てて、IT技術者のない警察官を大量に投入すれば、さらにまた冤罪が起こるだろう。
 本項を読んで、「犯人逮捕のために警察は努力せよ」なんて主張している人々は、「冤罪をまた起こせ」と言っているのも同然だ。
 犯人逮捕のために必要なのは、無知な警察官の努力ではない。IT技術のある専門家の投入だ。ここを勘違いしてはならない。
 私は、「無意味な警察官の大量投入をやめよ」とは言っているが、「IT犯罪の専門組織を創設するな」とは言っていない。むしろ、「創設せよ」と言っている。その意味は、「何でもいいからとにかく犯人を逮捕せよ」という現行方針のかわりに、「冤罪の犯人のかわりに真犯人を逮捕せよ」ということだ。
 ここまで読めば、私の趣旨が「犯人を見逃せ」ではないと、明らかだろう。
 誤読せずに、きちんと読んでほしい。(人は先入観にとらわれると、やたらと誤読しがちだが。)
   
posted by 管理人 at 12:59 | Comment(3) | コンピュータ_03 このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2012年10月21日 20:56
全取調べの可視化をしてない自白は証拠として認めないようになれば冤罪は減ると思います
Posted by linu at 2012年10月22日 01:32
 記事の転載。
 ──
大学生はその際、「県警の取調官に『認めないと少年院に行くことになる』と言われた」「検事に『認めないと長くなる』と言われた」と話した。取調官は県警の調査にこの発言を否定しているという。

http://www.asahi.com/national/update/1022/TKY201210210455.html
Posted by 管理人 at 2012年10月22日 07:17
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