« 危機対応について

2012.10.20

マンション販売の人が来た

「節税になるからマンションを買いませんか?」という電話が、病院にはよくかかってくる。

地域を変えながら、今まで仕事をしてきたのだけれど、マンション購入の勧誘電話は、どこでもなぜか、「大阪のマンション」を勧めてくる。だいたい6000万円ぐらいでマンションをローンで購入することで、ローンに支払うお金を経費で落とせば節税になり、なおかつマンションは誰か別の人に賃貸することで家賃収入が得られ、最終的に資産になるから、「先生が損をする可能性はありません」とたたみかけてくる。

自分はいつも、勧誘電話をすぐに切ってしまうのだけれど、人によっては話を聞いて、あとから内容を教えてくれたり、あるいは実際にマンションを買って、特に開業医の先生なんかで、マンションを4つぐらい抱えて身動きが取れなくなっている人がいる、なんてうわさ話を聞いたこともある。

本物が来た

今いる施設は、事務の段階で電話を断ってくれる。「マンション購入の勧誘です」という電話は、だから最初から回ってこない。「大学の先輩です」とか、「製薬メーカーです」と名乗って受付の突破を試みる業者も多いようだけれど、さすがに真っ赤な嘘はつけないからなのか、その「先輩」はそもそも大学にいなかったり、知らない製薬メーカーだったりして、最近はもう、勧誘の口上を聞く機会も減った。

そんな中、「製薬メーカーです。薬の説明を行わせて下さい」という電話が事務を突破し、上の先生が電話を受けた。説明会の打合せに来てもらったら、マンションだった。

病院側が期待していたのは薬の情報であって、マンションの情報ではなかったものだから、そのままお引取りいただいたのだけれど、そこにたどり着くまではけっこう大変だった。

売る側は大きな犠牲を払う

マンションを売りに来た人は、「電話を受けるなりいてもたってもいられなくなって」、「その場ですぐに新幹線に飛び乗り」、「徹夜同然の体で」、休むまもなく当院に向かったのだと。その人は明らかに地元の業者さんなのだけれど、本人は九州だかどこだかを本拠地にしていて、電話を受けてすぐに、700kmぐらいの距離を、けっこうなお金を支払ってここまで来たのだと主張した。もちろん交通費を請求するわけでもなければ領収書を見せるわけでもなく、とにかく「この素晴らしい掘り出し物の情報を、一刻も早く先生がたに伝えたかったのです」という熱意を述べていた。

その人が乗ってきたのは地元ナンバーの乗用車だったから、マンションを売りに来た人の口上は真実でないのだろうけれど、ここをそのまま否定すると、あとから結構こじれることになる。

話は通じない

「我々は薬の情報を期待していました。マンションの話はけっこうです。お引き取り下さい」で、理屈の上では話はそれで終わるのだけれど、マンション売りの人にとっては、むしろそこからがスタートだった。

「税金が節約できます。最終的に良い薬が買えます」とか、「いいマンションを購入することで経営が多角化でき、診療が安定します」とか、その論が整合していようが、破綻していようが、とにかくこちら側の断りに対して、次から次へと「じゃあこういう理由でマンションを購入するというのはどうですか?」と口上をつなげた。

話のつなぎはさすがに上手で、終始笑顔で、でも言っていることはめちゃくちゃで、話を聞く側のいらつきがだんだんと増していく中、マンション売りのその人は、むしろますます冷静に、いっそこちら側を教え諭すような空気で、「じゃあ、こういうことで買いませんか?」を繰り返した。

話を聞いたのは病院内で、病院はさすがに私的な空間だから、最終的にお引き取りを願って終わったのだけれど、これがたとえば近所の喫茶店とか、あるいは自宅にこうした人を招いたりしたら、恐らく事態はもっと厄介になったのだろうと思う。

どこかで怒るタイミングがある

そうした事例でこじれた話を聞いたこともあるし、自分もそれに遭遇したことがあるのだけれど、マンション売りの口上を乱暴に遮ったり、あるいは失礼な言葉でその人をなじったりすると、相手の態度が急変することになる。

「自分は多大な犠牲を払ってマンションを売りに来た。ただただ先生に素晴らしい機会を提供したいという思いで、苦労してここまで来たのにその仕打ちは何だ !」と、たいていはたぶん、聞く側が驚くような声で怒鳴られる。

喧嘩になったところで、たとえばじゃあ、この状況で訴訟になったら負けるかといえばそんなことはないし、相手の人が訴訟をちらつかせたりすることもたぶんないのだろうけれど、マンション売りの人が目をつけるような相手はたぶん、大抵「失うものが大きい」人で、どんな形であれ、トラブルになるとダメージが大きい。

失礼な態度を詫びれば、今度はたぶん「じゃあちゃんと話を聞いてください」に移行するのだろうし、ちゃんと話を聞いて断れば、「どうしてこれで断るんだ? あなたはちゃんと話を聞いていないじゃないか」になる。

力づくで「話を聞いてもらった」結果として、たぶん最後は「友達」になり、友人の勧めでマンションを購入するところまで行く人が、ごくまれにいるのではないかと思う。

丁寧な態度は大事

「毅然とした態度と丁寧な言葉づかい」が、結局常に正解なのだろうと思う。

相手がどれだけ間違っていようが、間違っていることそれ自体は、相手を怒鳴る根拠にならない。声を荒げたり、失礼な言葉をぶつけたりしてしまったその時点で、それをやった自分たちの側には明示的な落ち度が発生する。相手が怒鳴ろうが、あるいはしつこく居座ろうが、相手は基本的に「失うものがない人」で、カモたる自分たちの側には、失って困るものがある。

この間久しぶりに、マンション勧誘の電話を受けた。典型的な、「いつもの」節税対策電話だったから、丁寧な態度で「申し訳ありませんが電話を切らせて下さい。失礼します」と応答したのだけれど、「失礼」を言い終わる前に相手からガチャ切りされた。いくらこれ以上話しても無駄だったとはいえ、あれは失礼だと思った。

Trackback URL

Comment & Trackback

通りすがりです。

よろしければこちらを参考に
>国土交通省から消費者の皆さんへのお知らせ・注意喚起
:投資用マンションについての悪質な勧誘電話等にご注意ください
http://www.mlit.go.jp/about/oshirase_index.html

畳み掛けてくるこじつけの数々ってのを聞いてみたいものです

俺一度蹴っ飛ばして追いかけたことあるよ。
また来たけど。

そのまま診察してやれよ

Comment feed

Comment





XHTML: You can use these tags:
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>