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【誰がために・上】知事「明日は我が身」

2012年10月20日

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 東日本大震災で発生した膨大な災害廃棄物(震災がれき)。今月15日、岩手県久慈市の仮置き場のがれきは、一通りの仕分けが終えられたところだった。

 住宅の柱などの角材や金属類、廃タイヤ……。分別され、山積みされている。津波で流されて使えなくなった漁網を重機などで切る作業が進み、別の場所では作業員が金属板に張り付いたウレタンをはぎ取る。

 「津波の直後はとにかくがれきの量が多くて面食らった。ようやく落ち着いた今は、やれることをやるだけ」。同市生活環境課の夏井正悟課長が淡々と語る。

 仮置き場の中でもひときわ量が多い土砂に混ざった可燃物は、同県滝沢村の民間施設で細かく分別され、広域処理の対象となる。「三重県が協力してくれるのならば、処理量が増してゴールが見えやすくなる」

■被災地に期待感

 県が「条件の整った市町から実情にあった協力をする」との内容で、震災がれきの受け入れに関する「合意書」を市長会、町村会と交わしたのは4月20日。

 三重県は独自の焼却施設も最終処分場も持っていない。鈴木英敬知事は「がれきを県内で処理するならば市町の協力が不可欠」と合意書の意義を振り返る。

 合意から7日後には岩手、宮城両県との間で、がれき受け入れに向けて責任を明確にする「確認書」を締結。岩手県の松本実・災害廃棄物対策課長は「当時、三重県が『協力したい』と手を挙げたのは、全国的にも早かった」。被災地では期待感が高まった。

 環境省から8月、三重県にあった広域処理をめぐる要請で、三重県が受け入れるがれきの搬出元は久慈市に決まった。だが、県内で受け入れる場合に使う焼却施設は、「合意」から半年経った今も決まらないままだ。市町長からは「合意段階で『うちは受け入れない』とした市町は、検討もせずに話を終わらせてしまった」との声も上がる。

■もし浜岡原発で

 がれきの広域処理に消極的な姿勢を示す市町もある中、県が受け入れを積極的に推し進めているのは、「被災地のためだけでなく、将来の県民のためでもある」と考えるからだ。

 ひとたび南海トラフ巨大地震が発生すれば、県内の沿岸部では東日本大震災と同じように大量のがれき発生が予想される。特に、大きな津波が襲来するとされる熊野灘沿いの市町では焼却施設の能力も高くはない。広域処理をお願いしなければならない立場になる可能性も高い。鈴木知事は「明日は我が身という思いもある」と説明する。

 がれきの県内受け入れに反対する市民団体などからは、放射性物質の影響を懸念する声が強い。これに対し、県幹部の1人は「もしも中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)で何かあった時に、他地域から『三重のがれきの受け入れには協力できない』という事態になってはならない」と力を込める。

 爆発事故で放射性物質が飛散した東京電力福島第一原発から久慈市までは約300キロ。一方、浜岡原発から三重県境までは約100キロ。県の担当者は、滝沢村を訪れるたびに、広域処理に出される選別後のがれきに含まれる放射性セシウム濃度を測定している。これまでに検出された事例はない。(井上翔太)

     ◇

 県、市長会、町村会の3者で交わした震災がれき受け入れの「合意」から20日で半年。だが、実際に「がれきを受け入れるのか」は決まっていない。いま一度、原点を見つめ直すべきではないか。「誰のために」行動しているのかを。

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