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エコキャップ運動はほどほどに 08.22.2010 |
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さる新聞社の記者からの情報で、当初、食料自給率の第三話の予定だったのだが、見送ることにした。 日本中ほとんどすべての自治体で、ペットボトルの回収は行われるようになった。回収をしている自治体の人口カバー率は、ほぼ100%である。 ペットボトルの分別回収をやっている自治体でも、そのキャップは回収していないか、あるいは、その他プラスチックとして回収するかのいずれかである。 キャップの取り扱いはなかなか難しい。現在のシステムでは、ボトルと別に扱う以外にない。 なぜか。キャップを一緒に集めるというと、いくつか問題が起きる可能性があるからである。 (1)中身(飲料)を入れたまま収集に出す人が増える。 (2)キャップをきっちりと締めたまま出されると、潰してベールという形にするときに、破裂して危険である。 (3)だからといってキャップを外して一緒に集めると、ベールを作るときにキャップが落ちる。 キャップの材質は、ポリエチレンかポリプロピレンということになっている。ボトル本体は当然PET樹脂である。この両者が混じって困るということはない。そもそも蓋の一部はリング状でボトル側に残っている。これは、ボトルを破砕後、ポリエチ、ポリプロが水に浮くことを利用して簡単に分離できる。 だから、キャップも一緒に集める工夫をすれば、なんとかなるのだが、後で述べるように、量的に大したことが無いという判断から、ボトル本体とは別の収集をすることになっている。東京都の11区を含め、その他プラを回収していない地域では、当然、焼却に回る。 となると、手元に残ったキャップを見て、捨てるとゴミになると考えるのも自然のことである。人によっては、モッタイないと思うのかもしれない。 エコキャップ運動と呼ばれているようだが、キャップを集めて、さるNPOに贈ると、その売上でワクチンを買って、途上国の子どもの命が救われる、というキャンペーンが、極めて急速に、しかも学校レベルで普及しているようだ。 本日は、このキャンペーンの意味を解析してみたい。 C先生:まずは、ペットボトルの情報の整理をちょっとやって欲しい。 A君:PETボトルリサイクル推進協議会のHPが最良の情報源ですね。 http://www.petbottle-rec.gr.jp/nenji/2009/index.html B君:2008年度、ペットボトルは57万1千トンが販売され、回収率が77.9%。一部輸出されているので、その推計値を考慮すると、実質的なリサイクル率は84.9%。 A君:本数は不明ですが、ざっと推定すれば、ボトル1本30gとして、190億本を消費したことになる。1本100円で買ったとしても、ペットボトル飲料の販売額は、1.9兆円。まあ2兆円市場だと思えばよいですか。 B君:まあ、1億人が買ったとすれば、1人当り190本/年。 C先生:ざっと、ひとり年間200本を買っていると考えることにする。1日1本までは行かず、2日で1本ぐらいだが、相当な量ではある。 A君:販売量57万1千トンがPET樹脂の量と等しいと仮定すれば、101円/kgだとして、500億円以上の樹脂が使われている。101円/kgという価格はペットボトルリサイクル年次報告書2009年版から引用。 B君:ペットボトル1本あたりにすると、樹脂のコストが3円/本。これを加工してボトルにし、キャップやラベルを付けると、2〜3倍にはなるだろう。結局、500mlのペットボトル1本の価格は、7〜10円ぐらいか。 A君:飲料、すなわち中身の原価が1〜10円。コーヒーやミルクティーなどは原価が高い。水の原価は、後ほど解析するように1円以下。これに容器が7〜10円。販売流通費用が50円ぐらい。それになんのかんので100円になる。 B君:ミネラルウォータが0.5Lで100円。200円/L。一方、ガソリンは、税金を除けば、100円/Lしない。この価格の違いをなんと思うか。 A君:水の原価の話をします。水道水だと、水道管の直径によるけど、20m3/月使うとして、上水道料金2037円+下水道料金1638円=合計3675円。1リットルあたりにすると、0.2円にもならない。500mLなら0.1円。 B君:日本のボトル水は、加熱され滅菌されてから充填されている。そのためにコストが掛かるが、1リットルの水をお湯にするには、80kcalぐらいの熱が必要。灯油の発熱量が8900kcal/Lぐらいなので、熱効率を50%とすれば、20mlもあれば良い。灯油1Lの価格が18Lで、1300円とすれば、1.5円/L程度。いずれにしても、水の原価は500mlだと1円と見るのが妥当。 C先生:ペットボトル入りの水を飲むことは、水道水のコストの1000倍の水を飲むということ。一生懸命節水をするより、水道水を飲むことにすれば、効果は1000倍。 A君:毎回同じ話になりますが、水道水は、1日2L飲んでも大丈夫なように基準が作られている。1年を平均すれば、1日に2Lも水を飲んでいないかもしれない。味噌汁とかご飯を炊く水なども勘定に入れても、そんなもの。 B君:一方、ボトル入の水は、1日350〜500ml飲んでも大丈夫なように基準が決められている。要するに、水道水の方が基準が4〜5倍厳しい。それだけ水道水の方が安全だと言える。それも当然で、ボトル入の水はもともと嗜好品という位置づけなのだ。ボトル入りの水で、ご飯を炊く、味噌汁を作る、お茶用のお湯を沸かすことは想定されていないので、安全の保証はない。 C先生:さて、こんな状況のペットボトルなのだが、そのキャップはどういう状況なのだ。 A君:キャップは、ポリプロピレン(ポリプロ、PP)製、ポリエチレン(ポリエチ、PE)製など。重さは、2.5gぐらい。PETボトルリサイクル推進協議会によって、自主設計ガイドラインというものが決められている。 http://www.petbottle-rec.gr.jp/more/mo_jisyu_f.html 材質が一種類に定められている訳ではなく、水に浮くプラスチックで作ること、という意味で、ポリプロ、ポリエチのいずれかということが規定されている。これは、PET樹脂と比重を使って分ける場合に重要な条件だからです。 B君:キャップを開けると、リング状のものが、ボトル側に残る。ペットボトルをリサイクルするときには、このリング状のものを分ける必要があって、比重の違いが重要。 A君:いずれにしても、キャップだけが集まれば、最近ではポリプロで出来ているものが多いで、ほぼ同一の組成をもった廃プラになる。そして、材料レベルでのリサイクルが可能。 B君:キャップだけを集めれば、1kgあたり、15円で買い取るということができる程度の品質の廃プラになる。 A君:1個2.5gならば、400個で1kg。一人年間200本を消費すると、400個は2年分の消費量に相当。1年間で200個=500gのゴミはキャップだと気になるのかもしれないが、紙ゴミだとこのぐらいの量は簡単に出てしまう。雑誌1冊が300g。写真が多い雑誌だと800gなどというものもあるので。 C先生:新聞を3紙購読しているが、朝刊だけで、毎日700〜1200g。折り込み広告の量によるが。これをリサイクルに回すのも結構大変。 B君:1年分の200個=500gのキャップを作るのに必要な石油は、ざっくり見積もって1L。だから、1年に1回このキャップをどうするか考えるよりは、ガソリン1Lを大切に使ってもらった方が環境面からは効果的。 C先生:以上で大体のペットボトルとキャップの相場観が出たようにも思う。環境に良い悪いを議論するのならば、年間200個=500g程度のキャップの環境負荷を気にするよりは、もっと環境負荷の大きいものがいくらでもあるので、そちらを気にして欲しい。 さて、ここから通称エコキャップ活動についての検討に行こう。 A君:いくつかのNPOがあるようですが、大手と思われるエコキャップ推進協会。謳い文句は、「地球に愛を子どもに愛を」。 小さなキャップでも、分ければ資源リサイクルして価値ある材料に ゴミとして焼却処分されますと、キャップ400個で3,150gのCO2が発生します ペットボトルのキャップをみんなで集めよう400個で10円のワクチン代ができます ポリオワクチンは1人分20円20円で1人の子どもの命が救えます B君:まずは環境面からの検討か。 A君:1kgのポリエチ、ポリプロのいずれかの樹脂を燃やせば、当然CO2が発生する。その量は、軽油1.2Lを燃やした場合と同じぐらい。4トントラックの場合、国土交通省の排出原単位が0.1475 gCO2/kg・km。1kgの貨物を北海道から1000km輸送すると、そのために150gのCO2を排出する。輸送の負荷は、トラックにフルに搭載していれば、比較的少ない。 B君:輸送には燃料だけではない。ダンボールも使う。ダンボールの排出原単位が、1.76kgCO2/kg。 A君:このNPOのページを見ると、佐川急便が20枚で3150円のダンボールに入れれば、運賃を420円/1箱。ただし、1箱に6kgのキャップが入るという。こんなサービスをやっている。 B君:ダンボール箱は、恐らく、1kgのキャップの輸送に対して100gぐらいは必要。ここでも180gぐらいのCO2の発生。と同時に、ゴミが増える。 A君:輸送だけで330gCO2。それにプラスチックの再生プロセスが入る。合計500gCO2の排出まで行くかどうか。まあ、燃やすよりは、確かにマテリアルで回す方がCO2の排出量は少ないかもしれない。ただし、リサイクルの結果できるものの価値がそれほど高いとは言えないのが残念なところである。 B君:もともと、プラスチックの原料は石油なので、他の資源に比べれば希少度は少ない。言い換えれば、もともと資源的な価値は低い。なぜならば、炭素と水素との化合物なのだから。レアメタルのように、ニッケルやモリブデン、あるいは銅が足りないという話とは全く違う。プラスチックの資源的な価値は低い。もっとも、化石燃料がなくなる300年後には、炭素資源の不足が大問題になるが、今は炭素は燃やすと二酸化炭素を出すといって、むしろ邪魔者にされている。 A君:家庭からのCO2排出量は、一人当たり年間で、2200kgぐらいです。いずれにしても、200個=500gのキャップをどうしたところで、たとえ、年間1.6kgの二酸化炭素の発生を抑制したところで、環境負荷面からのメリットは、余り大きくはない。だから、環境のためにエコキャップ活動を推進するということは、大きな要素には成り得ない。 B君:この運動をしている人の心理を推定すれば、ペットボトルを多消費しているということに対して、多少の贖罪をしている、という気持ちは余り無い。どうせ燃やされるゴミを集めて、世界の子どもの役に立つ。多少、世界の子どもたちに対して貢献したかもしれないという気持ちは持てる。 A君:しかもお金は掛からない。 B君:ただし、これで、環境負荷の大きな行為(=ペットボトルを使う)の免罪符に使われてしまっては、環境面からみても逆効果。キャップを集めるために、ますますペットボトルを買いたくなったら、なんとも。 A君:特に、水道水の1000倍のコストを払っている、そのために、ペットボトルという環境負荷を出しているという評価。言い換えれば、贅沢をきちんと評価して欲しい。 C先生:お金は掛からないという発言があったが、本当にお金が掛からないのか。さらに、総費用に対して、真水の効果はどれだけか、これが問題。 A君:エコキャップ推進協会のHPによれば、6kgのキャップを送るのに、輸送料420円、ダンボール158円。合計578円。これでワクチンの寄付金額が60円。効率は10%。 B君:この金銭的効率が最大の問題かもしれない。578円すべてを寄付した方が、遥かに効果的。 A君:同協会のHPによれば、これまでのキャップ回収の総数は、2、182、679、311個。 B君:22億個か。6kgあたり578円の輸送費用が掛かっているとすると、その輸送費用の合計は6億万円程度と推定される。 A君:寄付金は、 第1回目 平成19年12月 236,060円 第2回目 平成20年6月 654,542円 第3回目 平成20年10月 2,235,300円 第4回目 平成21年5月 5,378,000円 第5回目 平成21年11月 10,100,000円 第6回目 平成22年6月 15,000,000円 計 33,603,902円 期間:平成19年8月〜平成22年6月 B君:3300万円の寄付と聞くと、かなりなものだとは思う。しかし、総数22億個で、1kgあたり10円の寄付とすると、5500万円の寄付になっていないといけないのだが、その6割しかない。準備金になっている可能性もあるが。 A君:廃プラの価格が下がったのかもしれない。供給過剰になって。 B君:とにかく、想定される輸送費の合計が6億円と聞くと疑問に思う人も多いだろう。効率は6%ぐらいで、10%まで行かない、ということになるので。 A君:どうみても、提携先の佐川急便のような運送事業を支えるのがこのエコキャップ運動の最大の効果かもしれない。 B君:この団体の経理報告を見る限り、団体が使っている費用はかなり少ない。その点では、まあまあ良心的とも言える。 A君:とにかく運送費がモッタイない。その費用を含めて、寄付をするという仕組みを開発することが社会的に重要なのではないだろうか。 B君:しかし、日本人には、寄付をするという習慣が無い。これが最大の問題なのではないだろうか。 A君:キャップの運送費なら出せるが、寄付金は出せない。これはやはり妙なのではないでしょうか。 C先生:いずれにしても、このエコキャップの話は、そのストーリーが日本人のセンチメンタリズムにぴったりとマッチしていて、見事なものだ。美しい童話の世界とも言える。 これを若干変形して、何か新しいストーリーを作って、運送費にではなく、ちゃんとした寄付金が集まるような仕組みに変えることが、日本という国にとって、もっとも重要なのことではないだろうか。 A君:400個で寄付金が6〜10円。輸送費は100円。この輸送費を加えたぐらいの金額を寄付金としてなんとか集める。 B君:やはり自治体か学校が関与するのが良いのではないだろうか。 A君:個人あるいはグループでキャップを貯めて、その数が100個あったら、100円以上を付けて自治体か学校に持って行くと、寄付をした証明書を貰える。これがもっとも簡単。 B君:自治体あるいは学校は、受け取った金額をユニセフにでも寄付する。ユニセフからの受領証をどこかに飾る。キャップはリサイクル事業者に400個5円ぐらいで売る。これを振込費用とか証明書発行などの事務費にする。 C先生:そんなところが妥協的な解決策なのではないだろうか。本当は、寄付を行うという習慣をもっと身につけるべきだとは思うが、なかなか基本的な態度というものが変わらない。 今回、この話を書いてみて、寄付という行為に、どのぐらい手間が掛かるものなのだろうかを知りたくて、取り敢えずユニセフに4000円ほど寄付をしてみた。 クレジットカードを登録すれば、インターネットから極めて簡単に寄付が可能であることが分かった。しかし、クレジットカードなどを持たない子どもが参加するには、やはり、どこか支援をする組織が必要なのかもしれない。 となると、上の提案のようなものが良いのかもしれない。 |
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