仕事情報誌ドカント

菅田 俊 菅田 俊

大学卒業後、名優・菅原文太氏に弟子入りし、役者デビューを果たした菅田俊さん。強面のヤクザや刑事役からコミカルな役柄まで、幅広くこなす個性派俳優として活躍中だ。ハリウッド映画「キル・ビルVol.1」「ラストサムライ」にも出演。その菅田さんの出演映画「地球でたったふたり」が話題を呼んでいる。作品紹介とともに、世界を舞台に仕事をする役者の人生哲学を徹底分析!!

Interview/内埜さくら Photo/大駅寿一


---出演されている映画「地球でたったふたり」(内田英治監督)について聞かせて下さい。本作はじわじわと人気が出て、地方上映が続いているとか。
アンケートでは、10〜20代や団塊の世代が共感してくれているらしいですね。泣ける作品なので、女性にも人気みたいです。口コミでいい評判が流れるのは、本当にありがたいですよ。


---どのような話なんですか?
暴力団に追われる少女2人を、冴えない中年の元ヤクザが助けて3人で擬似家族を作る話です。家族を持たない人間同士が、束の間の生活を楽しむっていう。僕は、元ヤクザの谷田役を演じています。


---元ヤクザ役というと、青春期にテキ屋で働いた経験を持つ菅田さんなら、役作りも楽だったのでは?
そうですね(笑)。僕が青春を過ごした70年代前半ってヤクザ映画が流行っていて、若者は皆不良だったんですよ。僕もそういう世界に憧れて、18〜21歳まで大きなテキ屋組織の兄貴分を師事していました。その時の先輩たちの中に、うだつの上がらないヤクザの人がたくさんいたんです(笑)。人が良くて三枚目だけど、ケンカやシノギの時には、親分のために体を張るんです。当時、目の当たりにした人たちが、今回のモデルになっています。


---昭和の任侠稼業の人がモデルということですね。
谷田は、昭和のヤクザのダンディズムを持っている男ですからね。今の若い人たちには、そういったダンディズムがまるっきりないですよね。だから自分が演じるのであれば、日本男児としての、忘れられているカッコ良さみたいなものは出して、伝えていきたいという気持ちはありました。


---本作には、菅田さんとご縁の深い菅原文太さんが、谷田の父親役でご出演されていますよね。
僕も宇梶(剛士)も、菅原のオヤジの弟子なんです。芸名も菅原のオヤジから一文字を頂きまして。この作品の監督が菅原のオヤジの大ファンで、『出てくれるかな』みたいな話をしていたものですから、お願いをしてみたんです。僕からお願いするのは初めてだったんですけど、快く二つ返事で引き受けてくれました。ただ、僕が出演しない沖縄のシーンで『お前が付き人で来るのが条件だ』と言われて、自腹でついて行きましたよ(笑)。


---久しぶりの付き人はいかがでした。上手にこなせましたか?
メイク道具は大体揃えて持っていきましたし、沖縄の旨い店をリサーチして現場入りしましたんで、完璧でした(笑)。


---来年1月24日には、主演映画「ポチの告白」(高橋玄監督)も公開されます。これはどのような話ですか。
不撓不屈の精神を持つ巡査が警察内部の犯罪事件に巻き込まれて悪徳に染まり、自滅するまでの物語です。巡査の何年間をも追った作品なので、年齢の幅を出すことに苦労しました。


---主演ということで、プレッシャーもあったと思いますが。
いや、主演は脇役より明らかに楽ですよ(笑)。責任はありますけど、自分の意見が言いやすいですし。


---菅田さんは、監督に意見を言うタイプなんですか?
作品は監督のものという通念がありますけど、作品は役者のものでもありますから。思ったことは言うようにしています。


---作品の見どころは。
ラストの独白シーンですね。10分間ぐらいあるんですけど、僕の意見を反映させてもらいました。アンダーグラウンドな芝居ですけど、見応え抜群だと思います。



---菅田さんは、公開待機作も含めハリウッド映画に出演されていることでも注目を浴びていますよね。
最初は『キル・ビル』でしたね。クエンティン・タランティーノ監督に夜、ホテルに呼ばれて『大した役じゃないけど北京まで来てくれるか』と言われたんです。監督は、そこで僕のモノマネをしてくれました(笑)。僕みたいな男に声を掛けてくれるっていうのが不思議でしたけど。


---海外の監督は、日本の作品をよく観ているからでは。
そうですね。だから、1本1本の作品を大事に演じていくことが、外国から声を掛けてもらうことに繋がっていると、自分では思っています。


---日米合作の主演映画「さくら」もハリウッド作品ですよね。
脚本家がクエンティンの弟分なんですよ。で、以前に千葉真一さんが出演された『ワイルドスピード×3 TOKYO DRIFT』も書いていて、それにも呼ばれたんですけど、スケジュールの都合で出られなくて。だから今回、呼んでいただけたのではないかな、と。


---ハリウッドで大活躍ですが、役者としての始まりは菅原文太さんへの弟子入りなんですよね。
当時3年間は、菅原のオヤジと24時間ほぼ一緒にいましたよ。ずっと現場について、目で見て盗む作業の繰り返しでした。


---なぜ3年で辞めたんですか?
付き人時代、撮影現場で(高倉)健さんに呼ばれて『付き人は一生付き人だぞ』と言われたことがあって。ずっと頭にその言葉が残っていたんでしょうね。ある日、オヤジとケンカして破門されちゃったんです…。


---大学を卒業後、一般企業に就職した経験もありますよね。
ええ、不動産屋に。すぐに上司とケンカして、ゴルフ場に左遷されましたけど(苦笑)。ハッキリと意見を言う下っ端が気に食わなかったんでしょうね。




---左遷されて辞めようとは?
う〜ん…特に。そこのゴルフ場は地位ある方が会員なのに掃除も行き届いてなくて、僕が掃除しようと提案したんです。でも、誰も手伝ってくれなかったから、朝4時に起きて1人でやっていました。あと、実験場で殺されてしまうウサギを全部引き取って、ウサギと遊ぶ企画を立てて大当たりさせたこともありましたよ。売れない土地を墓地にして売り切ったり。


---それはすごい企画力ですね!
だから辞めようと思った時には、上司に止められました。掃除も皆、徐々に手伝ってくれるようになったし。そこで感じたことは、『周りの人間は必ず見ているし、自分からやればいつか共感してもらえる』ということ。辛い時に辞めると後悔するから、少し待ってみたのも良かったんだと思います。


---菅田さんは精神が強い感じがしますが、今の若い人をどう思いますか。
自分大好きな人が多い気がしますね。世の中は人と人との繋がりですから、人に対する思いやりの方が大事なんですけど。


---思いやり…大切ですよね。
僕は高校時代の歴史の先生に『彼はなぜそうしたか』と考えるのが歴史の基本と教えられて、相手の立場に立って物事を考える癖がつきました。人を思いやることが苦手な人は、相手はなぜそうしたかを常に頭に置いておくといいかも知れませんね。


---今まで目上の方から言われて、印象に残っている言葉なども教えて下さい。
27歳で唐十郎さんの赤テントに入った頃、石橋蓮司さんに『板の上で胸を張っている人間だけが役者として売れる』と言われた時は衝撃を受けました。それぞれの土俵で、胸を張っている奴だけが成功できるということです。あとは、結核の詩人と呼ばれた竹内てるよ先生を師事していた時期に、『若いうちは、部屋で本を読んだり日向ぼっこをしたりボーッとしている時間が一番大事。そのうち嫌でも忙しくなるんだから』と言われたことを覚えています。


---ありがとうございます! 最後に今後の目標を聞かせて下さい。
役者としては、声を掛けてもらえればどんな役でもやっていきます。それと、菅原のオヤジからの破門はもう解かれていて、この前『今後は畑を作るぞ』と言われたんです。先の楽しみを作ってもらえた気がします。
INFORMATION
◆映画「地球でたったふたり」

地球でたったふたり

誰からも愛されることなく育ったユイ(寉岡瑞希)とアイ(寉岡萌希)の姉妹。中学生になった時、ふたりは家を飛び出した。東京の路上で生きるふたりは、あるきっかけから暴力団に追われることになる。逃げ場のなくなった彼女たちを助けたのは、冴えない中年の元ヤクザ谷田(菅田俊)だった。追っ手から隠れて過ごす中で、姉妹と谷田の間には、まるで家族のような関係が生まれていくが…。監督/内田英治 出演/寉岡萌希・寉岡瑞希・忍成修吾・菅田俊ほか 配給/彩プロ
(C)2007 MACROPHASE COMMUNICATIONS

◆映画「ポチの告白」
ポチの告白

昨今多発する日本の警察犯罪事件の実例をモデルに、良識ある巡査(警官タケハチ=菅田俊)が警察の犯罪機構に巻き込まれながら悪徳に染まり、やがて自滅するまでを描いた社会的エンターテイメント大作。ジャーナリト寺澤有氏の資料と原案協力を得て、完成から3年、いよいよ解禁!監督/高橋玄 出演/菅田俊・野村宏伸・川本淳市・井上晴美・井田國彦・出光元ほか 配給/アルゴ・ピクチャーズ 09年1月24日より新宿K's cinemaにてロードショー
(C)2008 GRAND CAFE PICTURES Corporation


PROFILE
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菅田 俊/すがた・しゅん

菅田 俊

1955年2月17日生まれ 山梨県出身
数多くの作品で抜群の存在感を発揮するベテラン俳優。近年はハリウッド作品にも出演し、世界を舞台に活躍する名バイプレイヤーとして知られる。東京経済大学卒業後、一度は就職するが俳優を目指し東映の門を叩く。菅原文太の「菅」、鶴田浩二の「田」、東映のプロデューサー俊藤浩滋氏の「俊」を拝借し、芸名を菅田俊とする。テレビドラマなどで活躍の後、唐十郎率いる劇団状況劇場に入団し、舞台に活動の中心を移す。劇団唐組の創立に参加した後、87年公開の映画「あぶない刑事」出演を期に映像の世界に復帰。以降、映画、ドラマ、オリジナルビデオ作品など、多くの作品で活躍する。03年公開の「キル・ビル vol.1」(クエンティン・タランティーノ監督)、「ラストサムライ」(エドワード・ズウィック監督)以降は海外の作品への出演も増え、国際派俳優としてのイメージも強い。また、01年に旗揚げした劇団「東京倶楽部」を主宰し、年1回の舞台公演も行っている。出演映画は今年公開に限っても「魁!!男塾」「泪壷」「JOHNEN 定の愛」「休暇」「カメレオン」「地球でたったふたり」「東京残酷警察」があり、最新作は11月29日封切りの「うん、何?」。公開待機作に09年1月公開予定の「禅 ZEN」「ポチの告白」、第65回ヴェネチア国際映画祭に出品した「INJU」、日米合作の主演映画「さくら」、ハリウッド映画「BUNRAKU」などがある。10月にアメリカ・テキサスで行われた第15回オースティン国際映画祭で主演映画「Lost&Found」がグランプリを受賞。09年度のNHK大河ドラマ「天地人」に柴田勝家役で出演する。
公式HP


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