ドイツ鉄道のサービスは世界一、という小噺をひとつ

2012年10月19日(金) 川口マーン惠美
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 ドイツでは、突然電車が止まっても、たいてい説明はない。数年前、ニュールンベルクへ行くときに嵐になり、途中駅で立ち往生したことがあった。何の説明のないまま、ほとんど1時間。そして、そのあとの突然の車内放送は、今でも忘れることができない。

 「この列車はもう動きません。全員下車してください。唯一、乗り継ぎのできる電車は、×番線、シュトゥットガルト行きです」

 エーッ!? 私たちはシュトゥットガルトから来たのだ。

「40台程度の故障は偶然で、大きな問題ではあり得ない」

 そんなわけで、ドイツ鉄道の評判は悪すぎるほど悪い。それなのに、よりによってドイツ鉄道が、常に自分たちのサービスの良さを強調しているのが、正気の沙汰とは思えない。人が集まった時、たまたま鉄道の話題になると、突然、そこにいる全員が、ドイツ鉄道のせいで自分がいかに酷い目に遭ったかという話を披露し始める。私はよく電車に乗る方ではないが、それでもトラブルの10ぐらいすぐに挙げられる。

 ドイツ鉄道は、サービスはないが、故障は多い。技術大国ドイツというのは、ドイツ鉄道を除外した話だ。

 去年の7月のこと、ベルリンからケルンに向かう特急でエアコンが故障し、団体旅行中の高校生が次々に倒れた。おりしも、異常な熱波に見舞われていたドイツでは、この日、ベルリンの気温は38度。当然のことながら、窓の開かない特急は耐えがたい暑さとなった。しかし、生徒の苦情は女車掌に無視され、生徒が倒れ始めてようやく電車は臨時停車をした。車中の温度は、その後の調べで、60度に達していたことがわかった。

 しかし、この時期、エアコンが壊れた状態で走っていた列車はこの1台だけではなかった。それどころか、1週間続いた猛暑のあいだ、48台の特急や急行でエアコンが機能しなかったらしい。気を失いかけた老人、ぐったりした妊婦、呼吸困難に陥った人を助けるため、列車の窓をたたき割る猛者、つまりドイツのあちこちの線路上で、地獄のようなシーンが繰り広げられていたのである。

 ところが、この直後にインタビューを受けたドイツ鉄道の総裁は、「他の何百という列車ではエアコンは正常に機能していたのだから、40台程度の故障は偶然で、大きな問題ではあり得ない」と述べ、大顰蹙を買った。

 今年もやはり暑い時期があった。8月に私が特急に乗っていたら、車内がどんどん暑くなった。隣の女性が「もう少しエアコンを強くしてくれないか」と頼むと、車掌は平然と言った。

 「この車両のエアコンは故障したようなので、他の車両に移った方がいいですよ」

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