ドイツ鉄道のサービスは世界一、という小噺をひとつ

2012年10月19日(金) 川口マーン惠美
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 実は、私も困った。ちょうどその時ポツダムにいて、夕方にはベルリンから帰路につくはずだった(ベルリン~シュトゥットガルトも特急で6時間弱)。ところが、シュトゥットガルト中央駅は完全に封鎖されているという。しかし、駅で聞いてもおそらく正確な情報はないだろうと瞬間的に思った。ドイツ鉄道で情報が流れないのは毎度のことだ。

 案の定、ポツダム中央駅の案内所で尋ねると、担当の女性は何も知らない。「えー?」と言って、最新の情報がプリントアウトされた紙の中から、ようやく1枚をつまみ出し、読み上げてくれた。目下のところ、周辺都市の3駅が臨時の終着駅となっているらしい。でも、電車が遅れたとして、夜中にそんなところで降ろされたら、どうやって家までたどり着けばいいのだ? しかし、振り替え輸送の有無など、この女性が知っているはずもない。

ドイツでは、突然電車が止まっても、たいてい説明はない

 ドイツ鉄道は、サービスが悪い。というか、サービスがない。案内をするはずの人間が何も知らないというのは、珍しいことではない。たとえば2年前、シュトゥットガルトからフランクフルト空港へ行こうとした時、なぜかダイヤが大混乱していた。駅では列車が発着している様子もない。いったい何があったのだ? 

 構内のあちこちに案内のために動員された駅員が立っていたので、フランクフルトへの行き方を尋ねてみた。すると、彼女は即座に言った。

 「あ、それはだめよ。今日はだめ」

 このときの私の怒りを読者に伝えることは難しい。私は言った。

 「だめって、どういうこと? 私は、飛行機に乗りたいのよ!」「でも、あっち方面の特急は全部停まっているもの」「普通でマンハイムに行ったとして、その先が繋がらない?」「あ、だったら、この電車がマンハイムに行くわ」「その先は?」「わからない」「この電車はいつ出るの?」「わからない。もうすぐ出ると思う」・・・。

 結局、いろいろな人に聞いて、ベストと思われる鈍行電車に乗り込んだが、そこでのシーンがまた印象的だった。1席だけ空いていた席に座ると、隣の年配の男性が話しかけてきた。

 「あなたが今、ハイデルベルクに行くと断言してくれたので、安心しましたよ。本当に行くのだろうかと、不安な気持ちでいたもので」

 私はその直前、他の乗客に「この電車はハイデルベルクに行きますか?」と訊かれ、「行きますよ」と答えていたのだ。しかし、びっくりしたのは私だ。そこで、「ハイデルベルクには行きますが、いつ発車するかがわからない。あなたは、もう長く待っているのですか?」と尋ねると、その人は静かに、「ええ、すでに永遠ほど長く」と答えた。

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