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» 2012年10月17日 12時40分 UPDATE

なりすまし事件、想定外が油断に 警察、被害者に自白強要か (1/2)

「IPアドレスが判明すれば、捜査は半分終わったようなものだと思っていた。想定外の事態ですよ」――ある警察幹部はこう漏らす。IPアドレスという「明白な証拠」を前に、被害者に“自白”を強要した可能性も。

[産経新聞]
産経新聞

 遠隔操作ウイルスに感染したパソコンから、犯行予告・脅迫のメールや書き込みが繰り返されている事件で、TBSや、テレビコメンテーターとして知られる落合洋司弁護士(48)にメールで届いた「犯行声明」の中に、大阪や三重などの事件で逮捕された4人とは別人のパソコンも遠隔操作して犯行予告したと示唆していたことが10月16日、分かった。「被害者」は5人となった。犯行声明で関与を示唆したのは、すでに判明していた7件を含む計13件で、警視庁捜査1課などが発信者の特定を進めている。

 関係者によると、新たに遠隔操作された可能性があるのは、愛知県内に本社がある自動車部品製造会社の社員とみられる。社員の社内パソコンから8月9日、インターネット掲示板に「コミケ(コミックマーケット)で大量殺人」「天皇をライフルで殺す」などと書き込んだという。

「IP判明で捜査終わり」

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 次々に被害が明るみになるパソコンの遠隔操作による犯罪。警察・検察にとっては、想定外だったその犯罪が、冤罪を生んだ可能性が高まった。自分のパソコンがウイルス感染し、「犯人」に間違われる可能性は誰にでもあるといえる。なぜ犯罪は防げなかったのか。

 「IPアドレスが判明すれば、捜査は半分終わったようなものだと思っていた。想定外の事態ですよ」。ウイルス感染したパソコンが遠隔操作され、インターネットで相次いで犯行予告や脅迫が行われていたことが明らかになると、ある警察幹部はこう漏らした。

 IPアドレスとは、ネットに接続するパソコンや携帯電話などの機器ごとに割り当てられる識別番号のこと。データをやりとりする際のネット上の「住所」に相当し、個々の利用者にネット接続業者から割り振られる。

 警察幹部の嘆きの声は、ネット犯罪の捜査ではIPアドレスから情報をたどり、容疑者の特定につなげるケースが多いことから漏れたものだった。

 一方で、サイバーテロの捜査経験がある警視庁OBは「ネット犯罪の手口は日進月歩。ましてや相手のパソコンを乗っ取るハッキングの技術は、ネット犯罪の象徴だ。パソコンが生活の一部になるにつれて、こうした犯罪が起きてくるであろうことは十分に予想できた」と指摘。警察、検察ともに油断があった側面が浮かんできている。

否認から動機まで「供述」

 「就職試験に落ちたので、むしゃくしゃしていた。不採用の知らせを受けた当日にやった」「楽しそうな小学生を見て、自分にはない生き生きさがあり、困らせてやろうと思った」

 これらの供述は「犯行声明」によって冤罪(えんざい)の可能性が高まっている福岡市の男性(28)と明治大の男子学生(19)が容疑を認めた際のもの。2人に共通するのは、当初は容疑を否認していた事実だ。

 元検事の野口敏郎弁護士は「容疑をいったん認めさせてしまえば、もっともらしい動機はいくらでも作れるということだろう。しかし、それで冤罪までも作ったのなら、とんでもないことだ」と批判する。

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