大阪と三重で発覚した、パソコンがウイルス感染で何者かに乗っ取られ遠隔操作された可能性。今回のケースでは、誰もが知らないところで犯人に仕立て上げられ、逮捕・起訴までされてしまうネット空間の危うさがあらわになった。
情報セキュリティー会社「ネットエージェント」(東京)の杉浦隆幸代表によると、他人のパソコンを乗っ取り、遠隔操作できるようする「なりすましウイルス」は、海外で1999年ごろに登場。08年ごろから急激に進化して英国を中心に広まり、現在では世界各国で被害が確認されている。
日本では遠隔操作を意味する「リモートコントロールソフト」という名前で知られる。昨年、三菱重工業など日本の防衛産業メーカーがサイバー攻撃を受けたり、衆議院と参議院のパソコンがウイルス感染したりした事件でも、同種のなりすましウイルスが使われ、海外から攻撃を受けていたとみられる。
しかし、今回のように乗っ取られたパソコンから日本語で書き込まれるなど、日本人の犯行とみられるケースは珍しいという。ネット事情に詳しいフリーライター、渋井哲也さんも「他人にパソコンを完全に乗っ取られ、気付かないまま犯罪行為をして起訴までされたケースは初めてではないか」と指摘する。
杉浦代表は今回の事案が明るみに出た経緯について、「政府などへの大規模なサイバー攻撃の調査で、捜査機関の調査能力が上がったため、見つけられたのではないか。今後も同様のケースが明らかになる可能性は高い」と推測する。
感染の方法は、勤務先の上司の業務連絡を装ったウイルスを添付したメールを送りつけたり、特定サイトを閲覧させたりするなど巧妙で、所有者が感染に気付くことはほとんどない。
パソコンを乗っ取れば今回のような殺人予告だけでなく、パソコン内の情報を盗み見することもできる。
杉浦代表は「ウイルス対策ソフトを入れていれば、少しはいいかもしれないが、今のところ絶対的な対策はない。スマートフォン(高機能携帯電話)でも今後、被害が出てくる恐れもある」と話した。
一方、堀部政男一橋大名誉教授(情報法)は「捜査機関は誤認逮捕防止のため、捜査手法を検討し直す必要がある。誰もが容疑者にされ得る非常に恐ろしい時代になったことを社会全体が認識し、議論を始めるべきだ」と指摘した。
copyright (c) 2012 Sankei Digital All rights reserved.