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ソバの花「吐きそうなほど臭い」 作付け急増で住民困惑も
(2012年10月18日午前7時02分)
かれんな花を付けるソバ。人間には臭く感じるにおいは、多くの虫を呼び寄せる工夫という=17日、福井市内
転作田を彩る秋の風物詩、ソバの花。純白でかれんな花々は今月末にも、香り高い福井県産ソバの実を付ける。でもその花のにおいは例えるなら―糞(ふん)肥料。県内の作付けは近年急速に拡大し、全国3位の面積となっており、そのにおいに戸惑う住民も出ている。専門家によると、ソバは食用作物のなかでも特に受粉が難しい仕組みで、においは「虫を呼ぼうと必死に頑張っている」結果なのだとか。
「先月末くらいから、自宅周辺に鶏糞のようなにおいがするようになった。畑で肥やしをまいているか、合併浄化槽が原因かと思ったら…」
越前市の郊外に住む男性の自宅近くには、ソバの花がじゅうたんのように広がる。市役所に問い合わせ、初めて花が原因だと知った。「昨年まで作付けはなかったと思う。今年は、特に晴れた日は吐きそうなくらい。妻は窓も開けられないほど」と困惑顔だ。
県水田農業経営課によると、県内では昨年度、3950ヘクタールでソバが作付けされた。5年前のほぼ倍、信州そばで知られる長野県を上回る。
転作田で大麦収穫後に栽培する作物として、梅雨時に種をまく必要がある大豆に比べ、ソバはお盆前ごろでよく、取り組みやすいという。「本年度は4千ヘクタールを超える見通し」と同課。収量の半分以上が関東方面に出荷されており「県産ソバは特に香りがいいと評価が高い」と胸を張る。
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一般には印象が薄いが、関係者の間でソバの花の臭さは常識だ。筑波大の大澤良・生命環境系教授(植物育種学)は「原因は蜜(みつ)と考えられる。めしべ、おしべの根元に複数の蜜腺があり分泌されている」と説明。「人間にとっては臭くても、虫にとってはごちそうの香り」と付け加えた。
「ソバは一株に小さな花を600個前後付けるが、そのうち実を付けるのは1、2割」と話すのは、県農業試験場でソバの栽培条件を検討する和田陽介さん。「イネやムギが同じ個体(花)の花粉で受粉できる『自家受粉』なのに対し、ソバは別の個体の花粉でないと受粉できない『他家(たか)受粉』。受粉は蜜を目当てに来る虫頼りで、安定しない」のだという。
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さらにハチでもハエでもアブでも集めなければならない事情がある。和田さんが続ける。「一般的なソバは、同一品種にもめしべが長い『長柱花』と、短い『短柱花』が半々程度の割合で含まれている。別の個体であっても長柱花同士、短柱花同士では受粉できない仕組みで、通常の他家受粉より確実性が低い」
文献によれば、大豆やトウモロコシなども含めた食用作物の中で、これほど極端な他家受粉の性質を示すのはソバだけという。
10月半ばまで1カ月にわたり、毎朝少しずつ花を咲かせるソバ。一つ一つの花の寿命はせいぜい数日だ。においは、限られた時間に虫を呼ぶ努力で、それが滋味豊かな新そばにつながる―と考えれば、少しは気が紛れる、かもしれない。