近年大きな進歩を遂げている「高温超伝導」研究ですが、現時点で実現している高温超伝導は液体ヘリウムや液体窒素による冷却を必要としているため、実用的な用途は非常に限られています。300K程度の室温で起こる「室温超伝導」は研究者の夢といえますが、これまでに何度も室温超伝導の達成が報告されたものの、追試で再現され室温超伝導として認定された例は今のところありません。
そんな中、注目の発見です。このほど独ライプツィヒ大学のP. Esquinazi教授らの研究グループは、グラファイト(黒鉛)の粒子を使って室温超伝導を実現したと、Advanced Materials誌で報告しました。
⇒ Scheike, T., Böhlmann, W., Esquinazi, P., Barzola-Quiquia, J., Ballestar, A. and Setzer, A. (2012), Can Doping Graphite Trigger Room Temperature Superconductivity? Evidence for Granular High-Temperature Superconductivity in Water-Treated Graphite Powder. Adv. Mater.. doi: 10.1002/adma.201202219 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
Esquinazi教授らのグループが用いた方法は、高純度のグラファイト微粒子を蒸留水の中で22時間撹拌し、その後一晩かけて乾燥するという極めて単純なものです。水による処理前のグラファイトが超伝導性を示さなかったのに対し、水処理後は300Kの室温で粒状超伝導と見られる現象が観察され、実験を繰り返しても再現しました。グラファイトが水中での撹拌によって室温超伝導体に変わるメカニズムは明らかにされていませんが、グラファイト粒子に水素プラズマを照射することによっても同じ結果が得られたことから、同グループではグラファイトの表面に水素が何らかの作用を及ぼしている可能性が高いと考えています。
同グループの推定によると、試料中で超伝導性を示した部分の収率は100 ppm以下と極めて小さく、今回の結果が直ちに実用に結びつくものではありません。さらに他のグループによる追試やメカニズムの解明も待つ必要がありますが、今回の発見が室温超伝導の実現可能性を示すものとして、研究史における重要なマイルストーンとなることが期待されます。
■ (参考)材料科学ニュースサイト・Materials Viewsの解説記事 ⇒ Doped graphite powder: room-temperature superconductors at last?
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