インフィニット・ストラトス~因果地平の番人~ (まぐお)
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1話 IS学園
宇宙進出を目的に開発されたマルチフォーム・スーツ。
インフィニット・ストラトス。通称ISはとある事件により世界に広まった。
ISの持つ唯一の欠陥、女性にしか操れないという事から世界は一気に女尊男卑に変わった。
そんな女尊男卑の世界で、一人の男がISを起動させた。
織斑一夏、ブリュンヒルデ織斑千冬の弟だ。
彼は藍越学園への受験の際に迷子になり、誤ってIS学園の受験会場に行ってしまったのだ。
そこで見つけたISを興味本位で触り、起動させてしまった。という事だ。
「全てこちらの筋書き通り。という事だな、束」
「うん。これで計画はファーストフェイズを迎えた…これからだね」
移動型ラボ『我輩は猫である(名前はまだ無い)』の中で男と女がモニターを見ながら話す。
女、篠ノ乃束が電子キーボードをに指を躍らせるたびにモニターの中の映像が変わる。
その画面には日本の倉持技研が開発した第二世代IS打鉄をカスタマイズしたISが映されている。
「クォヴレーにはこのISで行ってもらうよ。さすがにアストラナガンは使えないからね」
「ああ、わかっている」
男、クォヴレー・ゴードンは束の言葉に頷く。
束はにっこりと微笑み、クォヴレーに言う。
「クォヴレー、IS学園入学おめでとう!」
俺、織斑一夏は今人生で一番とも言える窮地に立たされている。
彼我およそ30対1の戦力差。完全な
俺以外のクラスメイトは全員女子。当然だ。
俺は、IS学園にいるのだから。
ありのままに話すぜ。
俺は藍越学園を受験する筈がISを動かしてしまいIS学園に入学した。
頭がどうにかなりそうだった。
偶然とか奇跡とかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。
もっと恐ろしいものの片鱗を…
「……くん。織斑一夏くんっ」
「はっ、はい!」
余計なことを考えていた一夏はこのクラスの副担任山田真耶が自分の名を呼んでいることに今気が付いた。
対して真耶は驚いた一夏の様子を見て、
「あ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい!お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね! でもね、あの、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」
と涙目状態で少々パニック気味だ。大丈夫なのだろうか。
そして一夏は自己紹介を始める。
世界初のISを動かせる男性。そしてかのブリュンヒルデ織斑千冬の弟。
その男の自己紹介は…
「織斑一夏です。よろしくおねがいします」
そう言い、少し間を空ける。
そして、深く息を吸い、
「以上です」
終わった。
他の女子は全員その多大な期待を見事に裏切られずっこける羽目になった。
場の空気を完全に
その影は手を振りかざし、狙いを一夏に定める。それに気付く者はいない。
そして…
パァン!
頭部に訪れた衝撃と痛み、その元凶を振り向き確認した一夏は驚いた顔で思わず叫ぶ。
「げぇ!関羽!?」
パァァン!
「誰が三国時代の戦神だ、馬鹿者」
本日二回目となる衝撃が一夏の頭に直撃する。
一夏の後ろに居る女性、織斑千冬は呆れた顔で一夏を見る。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
一夏に対する態度と打って変わって優しげな様子で話す千冬。
関雲長は何処かへ行ってしまったようだ。
「い、いえ、副担任ですから、これくらいはしないと……」
真耶は少し熱っぽい視線を千冬に送りながら答える。
全世界に名を知られている初代ブリュンヒルデで、元日本代表だ。それが当然の反応なのだろう。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は若干十五歳を十六歳までに鍛えぬくことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
と、どこの軍隊だと言いたくなる様な物言いをする千冬。
ここは兵器であるISの事を学び訓練する学校な為あながち間違ってはいないのだが。
そんな千冬に生徒達は先ほどの真耶の様子を上回る盛り上がりを見せた。
「キャ~~~~~! 千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」
教室にいる全ての女子生徒からの黄色い声。
それはとても大音量で一夏は耳を押さえているし、真耶も驚いたのか少し涙目だ。
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、お姉さまのためなら死ねます!」
そんな女子の甲高い声に鬱陶しそうに千冬は女子生徒達を見ている。
「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」
恐らく本心であろうその言葉に、更に反応する女子生徒達。
「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして!」
最近の女子は何かアブナイ嗜好でもあるのか、上げられる言葉はとても危険だった。
千冬は再び一夏の方を向き、
「で、お前は満足に挨拶もできないのか」
「い、いや千冬姉…ぐぁっ!?」
いつもの呼び方をする一夏の頭を机に叩き付けた。
「ここでは織斑先生だ」
「はい…織斑先生」
そんな光景を見た女子生徒達は一夏と千冬の関係に気が付いたのか、騒がしくなる。
「え…?織斑君って千冬様の弟?」
「もしかして世界で初めてISを動かせたのもそれが?」
「いいなぁ…私と変わって欲しい!」
一夏は内心で千冬の生活を見たら彼女達はどう思うだろうか、などと考えていたがその間に千冬は話を進める。ちゃんと先生やってんだなぁ、と一夏はぼんやりと考えた。
「では、諸君には半月でISの基礎知識を学んでもらう。その後の実習だが、基本動作は半月で身体に染み込ませろ。いいな?良くなくても返事はしろ」
はい!という女子生徒達の返事がよく教室に響いた。
そんな時、教室のドアが開いた。
「織斑先生、俺を忘れていないだろうか」
「ん、ああ。すまないな」
入ってきたのは銀髪でやや目つきの鋭い
クラスの全員が呆気に取られる中、銀髪の男は自己紹介を始める。
「俺はクォヴレー。クォヴレー・ゴードンだ。これからよろしく頼む」
「ゴードンはお前たちと歳が離れているが、諸事情で1年生としての入学となった」
クヴォレーの登場に、一夏と篠ノ乃箒は何故!?と驚き、イギリス代表候補生セシリア・オルコットは男が増えた事に顔を顰め、之仏本音は楽しそうに笑っていた。
因果地平の番人はIS学園に入学した。
遠い遠い場所で蠢くものがあった。
それらは、贋作でしかなく、本来持ちえていた信念や思いをなくしている。
欠けているのはそれだけ。
他はなにも変わらない。何もだ。
そう、たとえば地球を襲うこととか。
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