ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
週刊 上杉隆
【第18回】 2012年10月18日
著者・コラム紹介バックナンバー
上杉 隆 [(株)NO BORDER代表取締役]

ジャーナリズムの基本原則が
日本でも徹底されるために

1
nextpage

 「人間は間違いを犯す動物だ。しかも繰り返し犯す。我々の働く新聞とはしょせんその人間によって作られているものだ。だから新聞は絶対的に間違いから逃れられない。よって、重要なことは、間違いを犯さないことではなく、犯した間違いを率直に認めることだ。そしてそのミスを隠そうとする誘惑に負けてはならない。それは嘘をつくことになる。その瞬間、キミのキャリアは終わりだ」

 ニューヨークタイムズで働き始めたばかりの頃、当時のハワード・フレンチ東京支局長にこう言われたことは、いまだ私の脳裏にはっきりと残っている。そしてそれはいまなお私がジャーナリズムについて考える時の重要な指針になっている。

 だからというわけではないが、私はミスに関しては、努めて寛容な姿勢を貫いてきた。それは自他を問わない。自分に対してもそうだが、他人を間違いで責め続けるということはまずない。

 そうした思考は、ゴルフというほとんどがミスで成立するといっていいストイックなスポーツを30年近く続けてきたことも影響していようが、やはり、フレンチ氏の当時の言葉が大きかった。

 実際、私は日本のメディアで働きだしてからも、ミスを恐れず、多様な情報をどんどん発信すべきだ、と同業の仲間たちに丁寧に叱咤激励してきたという自負がある。

 実際、日本の臆病な大手メディアの社員に対しては、何も報じないでミスを犯さないよりも、どんどん報じて訂正していった方がいいと訴え続けてきた(もちろん、間違えろと言っているわけではない。本当はこんなことは断らずともわかるはずだが、幼稚な言論空間しか持たない日本では、いちいちこう書かないと読解力のない評論家やジャーナリストが挙げ足をとるためにあえて記した)。

 さて、私のそうした姿勢については、過去の私の担当編集者たちや友人たちならば納得するところであろう。

 だが、3.11以降、そうした雰囲気は変わった。

 社会の避けられぬ事象であるはずの「ミス」や「訂正」を容認する空気が消え、窮屈さを感じざるを得ない雰囲気に包まれ始めたのだ。

1
nextpage
Special topics
ダイヤモンド・オンライン 関連記事


DOLSpecial

underline
昨日のランキング
直近1時間のランキング

話題の記事


上杉 隆 [(株)NO BORDER代表取締役]

株式会社NO BORDER代表取締役。社団法人自由報道協会代表。元ジャーナリスト。1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。テレビ局記者、衆議院議員公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者、フリージャーナリストなどを経て現在に至る。著書に『石原慎太郎「5人の参謀」』 『田中真紀子の恩讐』 『議員秘書という仮面―彼らは何でも知っている』 『田中真紀子の正体』 『小泉の勝利 メディアの敗北』 『官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』 『ジャーナリズム崩壊』 『宰相不在―崩壊する政治とメディアを読み解く』 『世襲議員のからくり』 『民主党政権は日本をどう変えるのか』 『政権交代の内幕』 『記者クラブ崩壊 新聞・テレビとの200日戦争』 『暴走検察』 『なぜツイッターでつぶやくと日本が変わるのか』 『上杉隆の40字で答えなさい~きわめて非教科書的な「政治と社会の教科書」~』 『結果を求めない生き方 上杉流脱力仕事術』 『小鳥と柴犬と小沢イチローと』 『永田町奇譚』(共著) 『ウィキリークス以後の日本 自由報道協会(仮)とメディア革命』 『この国の「問題点」続・上杉隆の40字で答えなさい』 『報道災害【原発編】 事実を伝えないメディアの大罪』(共著) 『放課後ゴルフ倶楽部』 『だからテレビに嫌われる』(堀江貴文との共著)  『有事対応コミュニケーション力』(共著) 『国家の恥 一億総洗脳化の真実』 『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』 『大手メディアが隠す ニュースにならなかったあぶない真実』


週刊 上杉隆

芸能・スポーツから政治、原発問題まで、(株)NO BORDER代表・上杉隆が鋭く斬り込む週刊コラム。

「週刊 上杉隆」

⇒バックナンバー一覧