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誰かの妄想・はてな版

2012-10-01

報知新聞記事に見る1931年当時の公娼制度に対する見方

Apemanさんが、

鹿児島県会の廃娼決議が公娼制を「人身売買」「奴隷制度」と非難していたことを梁澄子氏が紹介したところ、会場から「ホォ……」という大きなリアクションが起きた

http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20120924/p1

と紹介していましたので、これに類する事例の紹介をば。

1931年4月5日付けの報知新聞に「国際信義と公娼廃止」と題した高島米峰氏の記事があります*1

日本帝国は、最初、この条約(婦人児童の売買禁止に関する条約)に加盟しながら、しかも、二十一歳という年齢の制限について、留保を求めて調印したのであった。それは今でも現に行われて居る、「娼妓取締規則」には、娼妓の年齢が、十八歳以上と規定してあるがためであったことはいうまでもない。しかし、その年齢留保を、文明国としての汚辱であるとして、当時、官民有志の間に、速にこれを撤廃すべしという主張横溢し、ついに、今日では、日本もまた、この国際条約の、完全なる加盟者となったのである。

完全なる加盟者とはなったのであるが、それはただ、単に条約に調印したというだけであって、毫も条約を実行してはいないのである。即ち、条約に調印して以来数年を経たる今日、依然として、「娼妓取締規則」の、十八歳以上の婦娘は、売淫してもよいという条項に対して、何等の改正も撤廃も行われず、十八歳以上二十一歳以下の婦娘が、彼等の中の大多数であるという事実をそのままに放置して、何等、国際信義を重んずるという国家的正義が、現れて居ないことを慨かざるを得ないのである。

今や、国際連盟は、極東方面における、婦女売買の状態を、極めて仔細に調査研究するために、調査委員を派遣することに決し、そのために、ロックフエラー財団より十二万ドルの寄附を受け、既に、三名の調査委員は、支那までやって来て居る。日本に来るのは、五月下旬か六月上旬かというのであるが、彼等が、事実上の人身売買であり、事実上の奴隷制度であって、五万有余の女性が、牢獄にもひとしい座敷に押し込められ、動物にもひとしい醜悪なる非人道なる所行を、強要せられて居る実状を調査した時、自ら称して日東君子国といって居る日本にも、また、かかる残忍非道の世界あるかに、驚き且つおそれることであろう。

否、それよりもむしろ、彼等は、婦女禁売の国際条約に、加盟調印したる世界の一等国たる日本が、全然その条約を履行せざるのみならず、かえって、これを蹂躪して、いささかもはづるところなき、厚顔と不信と不義とに憤るであろう、あきれるであろう、そうして、従来、日本を買いかぶって居たことを後悔するであろう。そうした後悔は、ついに、彼等をして、日本に対する軽侮の風を、世界にみなぎらしめるにも至るであろう。

1931年当時において、売春は当たり前のことではなかったことがわかりますし、条約の趣旨を全く守ろうとしない政府を厳しく非難しています。

そして公娼制度を「事実上の人身売買であり、事実上の奴隷制度であって、五万有余の女性が、牢獄にもひとしい座敷に押し込められ、動物にもひとしい醜悪なる非人道なる所行を、強要せられて居る実状」と評しています。

売春は合法だよ。何がいけないの?」というカマトトぶった発言は、1930年代当時には悪意ある冗談以外の何物でもなかったのです。

*1神戸大学附属図書館 新聞記事文庫 婦人問題(4-017)

タカ派の麻酔科医タカ派の麻酔科医 2012/10/02 11:25 紹介された文章の前半は、年齢を問題にしている様な印象があります。文章の中で問題とされているのが管理売春であることは明白ですが、売春として一般化するならば、現在でも禁止されているのに、実際には様々な国でまかり通っていることである事実と矛盾してしまいます。

通りすがり通りすがり 2012/10/02 14:19 >タカ派の麻酔科医さん
全く矛盾していないと思うんですが。
ある社会的事実が存在するということと、それを望ましくないと考える社会的合意が存在することは全く次元の異なる問題なんですけど。
あなたのロジックは、殺人は許されないという倫理、すなわち社会的合意はあっても実際には殺人は起こり続けているから殺人は許容されると言っているに等しい暴論だという自覚はあるんですかねぇ。

usi4444usi4444 2012/10/03 19:05 >タカ派の麻酔科医さん
アメリカから日本は人身売買が未だに横行していると批判されますが
今の日本の価値観で人身売買はあってはならないこととされていると矛盾するわけではありません。
タカ派の麻酔科医さんの価値観とは別なのかもしれませんが。

ApemanApeman 2012/10/03 20:57 「国家が人身売買の防止に尽力しているが取り締まりきれていないこと」と「国家が人身売買の防止に十分な努力をしていないこと」と「国家が人身売買の防止を怠っていること」と「国家が人身売買を積極的に利用していること」とはそれぞれ別のことで、順に国家が負うべき責任は重くなる……なんてことは、そんなに理解するのが難しいことなんですかね。

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