当局は既存の通信事業者との「あうんの呼吸」による免許付与をこの際一切やめ、しっかりした制度設計のもと、通常のオークションを実施する方向へと舵を切るべきだろう。
スプリント・ネクステルのSIMを利用することで実質的にゼロになる電波利用料
ソフトバンクはスプリント・ネクステルの子会社化によって、端末や基地局の日米共同調達を行ってコストを削減したり、コンテンツ、アプリケーション、通信サービスで次々と新基軸を打ち出したりしてくるであろう。ある時には消費者をわくわくさせ、またある時には競合企業をはらはらさせるであろう。問題は当局が携帯電話キャリアの多国籍化に先んじて、競争政策、電波政策等の制度設計を変革していくことができるかどうかである。
たとえば、電波利用料に関する問題である。日本では携帯電話については年間200円の電波利用料が課せられるが、米国では年間6セントの登録料を取っているだけである。米国の場合には周波数の取得に際してはオークションが実施されているではないかという指摘があるかもしれないが、オークションのコストは事業を行う立場からすればサンクコストであり、通信料のプライシングに大きな影響を与えない。
ではもし米国子会社の携帯電話キャリアのSIMを搭載したiPadが日本で発売された場合、どうなるか。この端末に対しては日本の電波利用料は課せられないで、米国での登録料が課せられるだけである。通信料金は国際ローミングを行うため、通常割高となるが、多国籍化した携帯電話キャリアにおいて社内の経費付け替えにすぎないため、いくらでも安くできる。つまり、ソフトバンクはスプリント・ネクステルのSIMを装着したiPadを日本で発売する際に、日本の電波利用料の支払いから逃れることができるのである。
こうしたことを実際にソフトバンクが実施するかどうかは問題ではない。問題なのは、日米間に一種の裁定取引が行われるような制度の歪みがあることであり、その結果、日本政府に電波利用料が入ってこなくなることなのである。
もっとも、電波利用料財源自体は地デジ対策費がピークを越し、今後の使途を無理やり探し出さないといけないような状況である。携帯電話やスマートフォン向けの電波利用料はともかくとして、M2M(機器間通信)に対しては大幅な値下げを検討すべきである。
スマートメーターに通信モジュールを搭載して検針データを電力会社やユーザー宅で見られるようにするというのも一種のM2M応用例である。スマートメーターに通信モジュールを搭載する場合、現在の検針コストを考えると月額40円程度の通信料が望ましいとされている。ところが40円のうち17円(年間換算で200円)は電波利用料として課されることになる。
これでは携帯電話キャリアは採算割れになってしまうし、結果として、スマートメーターに通信モジュールが搭載されなくなってしまう(もっともソフトバンクの場合にはスプリント・ネクステルのSIMを装着して、値下げができる)。電力の節電、スマート化は日本全体にとっても重要な政策課題なのだが、電波利用料が足かせとなって、スマートメーターの普及を遅らせたり、低価格化を妨げたりする懸念がある。
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