今回の買収でソフトバンクが手に入れる最大の資産は、約5600万人のスプリント契約者だ。イーアクセスの買収と合わせると、買収完了後にソフトバンクが確保する課金対象顧客数はのべ9600万人と、1億人に近づく。その1億人に対して高速通信サービス「LTE」による光通信並みの高速大容量(ブロードバンド)ネット接続環境を提供していくというのが今公表している戦略だ。
もちろんそれだけでも巨額の安定的なキャッシュフローを生み出せるが、それだけでは顧客基盤を生かし切ったとはいえない。この1億人に向けて有料のサービスを展開できて初めて巨額の資本投下に対してレバレッジの効いた果実を得られるといえるだろう。
継続的に巨額の設備投資が必要なのに利用者数の拡大余地が小さい先進国の通信会社は、放っておくと投資を回収するだけの会社になってしまう。このため日米欧各国の通信会社はどこも、通信サービスに上乗せする収益源の開拓を常に夢見てきた。NTTドコモは90年代から2000年代にかけて「iモード」でそれを実現した。しかし、スマートフォンの時代になってそのビジネスモデルは完全に崩壊、その後の付加価値サービスのビジネスモデルをまだ構築できていない。
これに対し、インターネット上でサービスやコンテンツを提供する上位レイヤー企業は設備投資負担が軽く、サービスの多様化や国際展開が容易なため、高い水準の利益率や成長率を追求できる。米グーグルの直近の売上高営業利益率はざっと32%。これに対し米携帯電話最大手ベライゾン・コミュニケーションズは17%。この対比が下位レイヤー事業と上位レイヤー事業の特徴をよく表している。
もしスプリント買収でソフトバンク・グループに占める通信事業の割合が圧倒的に大きくなり、そのまま通信料収入拡大を追求していけば、同社は一段と通信専業、つまり下位レイヤー企業の色彩が濃くなる。しかしそれでは逆タイムマシン経営による無線高速ネット革命の世界的推進という長期ビジョンと食い違う。
米ヤフーの創業期に出資して以来、ソフトバンクは米国の上位レイヤー事業で目立った布石を打てていない。グーグル、フェイスブックに続くネット・サービス企業のリーダー格がどんな企業になるのか、まだ見えない混沌とした状況が広がる。いろいろな新しい技術やサービスの芽をどうかぎつけ、グループに包含していくか。米国におけるソフトバンクの“目利き力”が試されるのはこれからだ。
米通信市場参入について株式市場が最終的に評価を下すのは、今後同社が打ち出すであろう上位レイヤーを含めたグローバル戦略の実効性を見極めてからになる。
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