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記事 上杉隆

「がっつくビジネスパーソン」のための新聞の上手な読み方−上杉隆氏のように笑われないために - 石井 孝明

アゴラ

2012年10月16日 12:21

一面に掲載したのに「新聞は伝えていない」

「新聞は真実を伝えていない」。このような趣旨の主張を繰り返した上杉隆氏への批判が広がっている。この人物は放射能と原発をめぐるデマを流し続け、福島の風評被害の震源になった。その行動があまりにひどかったので、批判と是正の動きは当然だ。

彼の行動は不思議だ。昨年の原発の水素爆発、福島の放射線量の話を新聞が伝えていないと述べた。(Naverまとめ「上杉隆のデマや怪しい発言など」)ところがこれらは大量に報道されている。水素爆発の写真はすべてのメディアの一面に掲載されていた。上杉氏は新聞を読んでいないし、幻想の世界に生きているようだ。

新聞は構造的にさまざまな問題を抱えると私は思う。しかし、その批判にエネルギーを割くのは、社会の大半の人にとって無意味だろう。 新聞は情報を伝える道具だ。そして情報(=インフォメーション)は、解釈・加工を加えた「インテリジェンス」になって意思決定に用いることで、初めて意味を持つ。「道具」をとやかく言ってもしょうがない。それを使いこなすことが、合理的な行動ではないだろうか。

新聞という基本的な道具を使わずに情報を語ると、上杉隆氏のように社会に恥ずかしい姿を晒すことになる。

記者の体得した新聞を使いこなすノウハウ

私は通信社記者を振り出しに、現在16年間記者として活動している。修行中の身であるし、別に優秀ではないが、自分の仕事を高めたいと思い努力を重ねてきた。そこで新聞は情報収集のとても有効な道具であると確信を持っている。今でも、新聞を5紙以上、雑誌を毎週3紙以上、速読している。そのノウハウを少し紹介してみたい。

1・早く大量に読む。そのために見出し、リードを拾い集める。

私は駆け出しのころ日銀記者クラブで末席記者を務めた。そこで新聞の切り抜きが担当だった。新聞を隅から隅まで読んで記事を選んだが何時間もかかった。それで新聞をため、キャップに怒られた。そこで新聞の読み方を教わった。また読み方のノウハウを盗んだ。それを伝えてみよう。

まず自分の関係する単語を流し読みする。そして、それが記されていた記事のリード(冒頭部分を読む。ここには普通の新聞は、5W2Hの情報を入れている。Who(誰が) What(何を) When(いつ) Where(どこで) Why(なぜ)したのかの「5H」が書かれている。さらにHow(どのように)、経済記事ではHow Much(いくらで)が入る。この7つでどれが柱かは記事により違う。

熟読量を減らすと、短時間で大量の情報を取り入れられるようになった。「量は質に転じる」。情報の場合には、絶対にこの格言が当てはまる。そして慣れると読む量が早くなる。必要な物はあとでゆっくり読めばよい。

2・新聞を信じないで参考にする。複数読み比べ、批判的解釈。

ただし新聞を信じてはいけない。読者の皆さまは、自分の働く業界を描写する新聞や雑誌記事で、間違った内容に憤りを覚えたことがあるだろう。残念ながら、これは永遠に消えない問題だ。記者はやや詳しい素人にすぎない。「記事はそういうものだ」と割り切り、信じないことが重要だ。

惑わされないため、新聞を複数読み比べ「情報のダブルチェック」をするべきだ。新聞は当然、論調、社風、執筆者が違う。一つの物事を描写するにあたっても、扱い方、文章、着目点が異なる。複数の新聞を読むと、それが見えてくる。そして批判的解釈のための鍵も得ることができる。

3・情報の意味を考える。誰が発したか。そして意図は何か。

1と2が進むと、情報の意味を深く考えられるようになる。記事がなぜ掲載されたのか。誰がどのような意図で情報を流したのか。書かれてはいない情報は何か。社会にどのような影響を与えるか。こうした背景を考えるようになる。私は自分が書き手なので、その点に注目する。ところが読者はなかなかこれを考えない。

例えば「再生可能エネルギーは素晴らしい」という情報が社会にあふれている。その元資料をたどると経産省が熱心に拡散していることが分かる。これは同省が原発事故で評判が失墜したため、この分野をエネルギー政策の立て直しの突破口にしようとしていると、簡単に推量できる。

実際に経産省の人事を見ると、最優秀と折り紙付きの人材が担当部局に投入されている。さらに、FITをはじめ、多額の予算をこの分野で獲得している。経産省の人も「再エネ振興は、国民との和解の手段」とオフレコで認めている。

また自然エネルギーに楽観的な情報を流し続けた飯田哲也氏は、自然エネルギー事業の経営にかかわる。FIT(再生可能エネルギーの買取制度)ができた後、私の見る限りでは経産省、環境省批判を止めている。

新聞を使い、立ち止まって考えれば物事の裏が見えてくる。

4・情報機器を使う。

私はフリー記者になって困った。会社にあった新聞が読めなくなったためだ。地元の公共図書館を利用したが、朝から退職者らしい人が陣取り、新聞が読めない。またiPhoneで新聞や雑誌写真を撮影すると怒られる。そのため森ビルが東京・平河町に置く有料図書館の会員になった。そこを仕事場にして、さらに置かれた新聞、経済誌を読み込むことにした。出費は痛いが…。読者の皆さまは組織に属しているなら、その組織の新聞を活用するべきであろう。

また情報機器を使うようにしている。グーグルリーダーは、単語検索とRSSを組み合わせると、自動的に新聞サイトからある単語の載った記事をクリッピングする。「Reeder」というアプリを使う。それでiPhoneで見出しを読み、「Pocket」というウェブ読書アプリに飛ばして読み、必要な記事はクラウドサービスの「Evernote」に保存して、すぐに検索できるようにしている。一日2000~2500ぐらいの記事をさばく。

5・新聞を読みすぎる弊害に気をつける。描写されない情報、時間の制約、体系化されない問題。

ただし、新聞記事を読みこなすことは必要だが、これには問題が3つある。

第一の問題は、新聞には情報の漏れがあるということだ。尊敬する旧通産省の元高官に、こう言われたことがある。「記者が一生懸命努力しても、問題に必要な情報の4分の1しか得られないでしょう。情報源の大半が官庁や企業の組織だから。けれども、私は官庁にも、企業にもいたけど、どんなに頑張っても、権力を使っても、必要な情報の半分は得られない。残りはどうしても手探りになる」。これはその通りで、「知らない危険」は常につきまとう。それを認識し、情報の穴を探すことが必要だ。

第二の問題は、情報収集に時間がとられすぎる危険があることだ。だから新聞を読む際にチェックする単語を絞るなどの工夫が必要だ。前述のように「インテリジェンスに加工する」という目標を持てば取捨する情報も限定され、時間も節約できる。

第三の問題は、新聞情報だけでは、知識が体系化されないということだ。真面目に仕事をして、問題を知っているのにピントのはずれた記事を書く記者がある。情報を知っていても、背景の学問や理論を知らないためだろう。経済学者のケインズが次のような名言を残す。「どんな実務家も過去の奇妙な経済学者の奴隷である」。こうした弊害を避けるために、視野を広げ専門家の知見を参照して情報を整理することが必要だ。

新聞への「批判」と「使いこなし」、どちらが得か?

このように新聞を使いこなせば、多くの読者にとって見える世界が違ってくるだろう。残念ながら今、新聞が読まれなくなっている。こうした使い方があり、仕事や人生を豊かにするのに、とてももったいないと思う。

新聞の向き合い方では、上杉隆氏のように、新聞を読まずに新聞を語り、天下に恥をさらす行動がある。新聞を道具として使いこなし、自分の力にする使い方がある。どちらが合理的であるか、言うまでもない。ちなみに、今週(10月15日から)は新聞週間だ。

(参考)知の怪人、佐藤優氏のベストセラー「読書の技法」(東洋経済)でも新聞の使い方が掲載されている。「がっつくビジネスパーソン」という表現はそこから使わせていただいた。私のノウハウと似ているので参考にしてはいかがだろうか。

石井孝明 経済・環境ジャーナリスト ishii.takaaki1@gmail.com

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