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[FT]もはや手遅れ 華為技術を締め出す米国

2012/10/12 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

(2012年10月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 ワシントンが今週、中国の通信機器メーカーに浴びせた痛烈な批判に目を通すと、我々は別の世界に住んでいるように思える。そこでは通信網はAT&Tやフランス・テレコム、ブリティッシュ・テレコム(BT)などの国営独占企業によって構築され、部外者は入ってこない。

■締め出しは20年前の手段

記者会見に臨んだ米下院情報特別委員会のロジャーズ委員長=左=ら(10月8日、ワシントン)=ロイター

記者会見に臨んだ米下院情報特別委員会のロジャーズ委員長=左=ら(10月8日、ワシントン)=ロイター

 しかし、我々の世界は違う。

 別の選択肢の方がひどいという理由で米国の政治家が居丈高にフランスの企業を支持するのは、状況が悪くなった知らせだ。華為科技(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)を米国市場から締め出せばそうなるだろう。両社は中国政府および人民解放軍のフロント企業であると見なされている。

 両社を排除すれば、2006年に米ルーセントとフランス企業の問題含みの合併で誕生したアルカテル・ルーセントの助けになる。ルーセントの起源はオハイオ州クリーブランドのウェスタン・エレクトリックで、1881年にAT&Tに買収された。時代は移り、今では中国南部の深センを本拠とする華為とZTEが新たなウェスタン・エレクトリックだ。

 華為とZTEに対し米国内での契約獲得や米企業との合併の禁止を求めた米下院情報委員会は、過去の世界に生きている。防衛産業のように、通信は戦略的な保護産業だと宣言すべきだったのは20年前だ。今は取引すべき時である。

■ネットワークにわなを仕込む疑い

 「華為とZTEは新時代を象徴している。かつての第三世界の国が先進国の技術を生んでいるのだ。米国の企業心理では、この状況にうまく対処できない」。上海の中欧国際工商学院のジョン・クェルチ学部長はこう語る。

 両社を盛んに非難してきた下院情報委員会は、明らかにうまく対処できなかった。同委員会は、1987年に解放軍出身者によって設立され、スウェーデンのエリクソンと業界トップの座を競うまで成長した華為を特に激しく攻撃してきた。

 解放軍が抱くサイバースパイの野望や、米国の軍事・産業機密を狙う中国人ハッカーの大規模な活動を考えると、ファーウェイの成り立ちは怪しく見える。2009年に米連邦破産法11条の適用を申請するまで華為のライバルだったカナダ企業ノーテル・ネットワークスの元幹部は、2000年代に中国から絶えずハッキングされていたとこぼす。

下院情報委員会はファーウェイを激しく攻撃してきた(広東省深セン市のファーウェイ本社)=ロイター

下院情報委員会はファーウェイを激しく攻撃してきた(広東省深セン市のファーウェイ本社)=ロイター

 「多くの国が経済スパイ行為に関与しており、最も成果を上げているのが中国だ」。米国家安全保障局(NSA)の元局長で、現在はコンサルティング会社ブーズ・アレン・ハミルトンの副会長を務めるマイク・マコネル氏はこう話す。「研究開発には多額の費用がかかり、盗んだ方が安い」

 調査報告が挙げた主な嫌疑は、ファーウェイがAT&Tやベライゾンのような通信会社向けにネットワークの構築を認められたら、同社はソフトウエアとハードウエアにわなを仕込むというもの。共産党の友人はそれを使ってデータベースに進入したり、戦争になればネットワークを止めたりできるというわけだ。

■両社の排除で問題は解決せず

 通信網に潜むセキュリティーホールを放置するのは愚かだ。NSA自身、米国のネットワークを経由するやりとりを監視し、米国および外国のインターネット通信を偵察したと非難されたことがある。

 だが、中国企業を排除しても問題は解決しない。アルカテル・ルーセントは中国で上海ベルと合弁会社を設立しているし、エリクソンなどが使う装置の大半は中国で生産されている。もし共産党と解放軍がこっそり行動したければ、こうしたところに手を加えるだろう。

 調査報告に華為とZTEの不正を示す直接的な証拠は見当たらない。報告の一部は機密扱いではあるが。一方で委員会は両社が特許を侵害し、低利融資の形で中国から支援を受けていると主張する。

 どちらも事実かもしれないが、通信の秘密保護の懸念というより、通商・知的財産を巡る問題だ。委員会は、中国の競合を排除するためにはどんな言い訳でも使うという印象を与えることで、自らの主張を弱めてしまっている。

■シリコンバレーを敬う新興企業

 当の企業側の対応もよくなかった。華為は数年前まで取締役の名前さえ公表しなかった閉鎖的な会社だ。会長の孫亜芳(スン・ヤーファン)氏はかつて中国国家安全部で働いていたとされる。その他多くの企業と同様、社内には役割が不明瞭な共産党委員会がある。

 それでも華為は、単なる政府の手先と見るのは難しい。同社は国営企業ではなく(ZTEは広東省と密接な関係がある)、1990年代に深センの経済特区で花開いた新興企業の1社だ。今でも非上場で、株式は100%従業員が所有すると主張している。北京に拠点を構えるコンサルタント、ダンカン・クラーク氏は「華為は独立した、かなり傲慢な会社だ」と言う。

 ある意味で華為は、後押しすれば欧米の利益になる中国の象徴だ。中国政府は2006年に、通信は7つの戦略産業の1つで、国営企業が「絶対的な支配権」を握るべきと宣言した。だが、華為を創業したのはシリコンバレーを称賛する起業家だ。

 バーンスタイン・リサーチによると、華為は欧米の競合企業より安く機器を生産して再編の波を起こし、世界市場の20%を獲得した。競争が事実上制限された米国では、エリクソンとアルカテル・ルーセントの2社が市場を押さえている。

■強力な安全策を講じて取引を

 米国の消費者にとって一番いいのは、安全策を講じた上で華為とZTEを認めることだ。英国では、華為の機器はBTが使う前に情報機関の元職員の検査を受ける。米国や、計画中の通信網から華為を排除したオーストラリアは、もっと踏み込んだ措置を取ってもいい。

 米国は、会社の所有者を明らかにするために華為にロンドンかニューヨークへの上場を求めることができるし、NSAへの技術提出の義務付けや、防衛企業のように米国事業の分離を要求してもいい。社内の共産党委員会の解散も要請できるだろう。米国にできないのは過去を作り直すことだ。

By John Gapper

(翻訳協力 JBpress)

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