2010年度研究会


講習会 第1回 第2回 第3回

 熱音響工学講習会

日時:10月23日(土)10:30~16:50, 場所:東北大学東京分室

協賛:(社)日本音響学会,(社)日本機械学会, (社)自動車技術会,(社)日本設計工学会,日本太陽エネルギー学会

定員:48人(申込順) 定員に達しましたので申し込みを締め切りました(10/4).

聴講料:無料

受講者の声(2011年9月27日掲載)

東北大学東京分室は,サピアタワービルディング10階です.(新幹線東京駅日本橋口−徒歩1分,東京駅八重洲北口−徒歩2分)


主 旨
 熱による音響パワーの発生や増幅に加えて,音波を使った冷却が可能になってきました.今では世界的に音波を使ったエネルギー変換デバイスの研究が行われています.これら熱音響デバイスは本質的に可動部品を必要としない点で従来型熱機関と大きく異なります.本講習会では,初学者向けに原理や開発動向を紹介するとともに,数値計算的手法による設計方法を具体的に示します.排熱利用技術やノンフロン冷凍技術の一つとして熱音響工学に興味をもつ技術者や研究者,学生の方に役立つ内容として計画しています.是非参加をご検討ください.なお,本講習会は高橋産業経済研究財団からの資金援助を受けており,聴講料は無料です.

プログラム
 10:30-11:00 様々な熱音響現象と国内外の熱音響デバイス開発動向
 11:00-12:00 熱音響現象の理解に向けて
 13:00-14:30 振動流によるエネルギー変換・輸送現象 〜熱音響理論序論〜
 14:40-16:10 数値計算に基づく熱音響デバイスの設計の具体例
 16:20-16:50 将来の展望と解決すべき課題

申込方法
  申込者1名につき,名前(ふりがな),所属,連絡先電話,電子メールアドレスの4点を電子メールで送信して下さい.
  定員に達しましたので申し込みを締め切りました(10/4).    問い合わせ先 workshop@(@以下は、amsd.mech.tohoku.ac.jp)



 第1回(通算第9回)

日時:7月10日(土),13:00~17:30,場所:東北大学東京分室


[1] 13:00-14:30【招待講演】「JAXA研究開発本部における燃焼不安定性の実験研究」立花 繁
 (宇宙航空研究開発機構 航空プログラムグループ 事業推進部,研究開発本部 ジェットエンジン技術研究センター併任)

 JAXA研究開発本部のジェットエンジン技術研究センターで実施してきた燃焼不安定性についての研究を紹介する。ガスタービンエンジンからの NOx 排出の低減化には希薄予混合燃焼方式が有力であるが、この燃焼方式では、燃焼器内で圧力変動と発熱変動のカップリングから発生する振動燃焼が問題となって いる。この問題の解決のために、燃焼器壁面の圧力変動計測と火炎の光学的計測を組み合わせた手法によって、非定常燃焼流の解析や燃焼安定化制御を実施して きた。これらの研究内容や最近のトピックについて紹介する。

参考文献:
[1] Tachibana, S., Yamashita, J., Zimmer, L., Suzuki, K. and Hayashi, A. K. (2009) "Dynamic Behavior of a Freely-Propagating Turbulent Premixed Flame under Global Stretch-Rate Oscillations", Proc. Combust. Inst. 32 , 1795-1802.
[2] 立花繁(2008)," 燃焼不安定性の能動制御における光学計測の応用",日本 燃焼学会誌, 第50巻154号,pp.297-306.
[3] Tachibana, S., Zimmer, L., Kurosawa, Y. and Suzuki, K. (2007) "Active Control of Combustion Oscillations in a Lean Premixed Combustor by Secondary Fuel Injection Coupling with Chemiluminescence Imaging Technique", Proc. Combust. Inst. 31, 3225-3233.
[4] Tachibana, S., Zimmer, L., Kurosawa, Y., Suzuki, K., Sato, H., Hayashi, A. K., Nishidome, C. and Kajiwara, I. (2007). “Active control of combustion oscillations in a lean premixed gas-turbine combustor”, Int. J. Vehicle Des, Vol. 43, Nos. 1-4, p.306-321.
[5] Zimmer, L. and Tachibana, S. (2007) "Laser Induced Plasma Spectroscopy for local equivalence ratio measurements in an oscillating combustion environment", Proc. Combust. Inst. 31:737-745.
[6] 立花 繁,ジマー・ロレント,黒澤 要治,鈴木 和雄 (2006) "二次燃料 噴射による振動燃焼の能動制御",ながれ,25巻 第3号. pp.219-227.
[7] 立花 繁,ジマー ロレント,黒澤 要治,鈴木 和雄 (2006),“希薄予混 合ガスタービン燃焼器で発生する振動燃焼の能動制御による抑制”, JAXA-RR 総 18-32.

[2] 14:45-15:15 「合成熱音響デバイス」大林 敦,琵琶 哲志(東北大)
 熱音響デバイスは共鳴管を用いた定在波型熱音響エンジンとループ管を用いた進行波型熱音響エンジンという「基本形」でスタートした.その後,1999年にBackhausらによってループ管に枝管共鳴管を接続したタイプの進行波型熱音響エンジンが開発された.また,熱音響エンジンと熱音響クーラーを組み合わせたダブルループ型熱音響クーラーも開発された.このように複数の「基本形」を組み合わせた「合成熱音響デバイス」の研究開発が盛んになってきた.
 我々は合成熱音響デバイスを部分系に分けて理解することを試みている.この立場からはダブルループ型熱音響クーラーは熱から音波を発生する機能を担う原動機ループ,仕事流を輸送する機能を担う枝管共鳴管,音波により冷却を行う機能を担うクーラーループという3つの部分系からなる合成系であると見なせる.ダブルループ型熱音響クーラー全体として性能を向上するためには,それぞれの部分系の機能を向上する必要がある.本研究では音響アドミタンスに着目することで,枝管共鳴管の機能を再確認し,枝管共鳴管の性能を向上することを目的とした.
 音場計測から,共鳴管がエネルギー輸送管だけではなく,異なるアドミタンスを有する原動機ループとクーラーループを接続するためのアドミタンス調整器としての機能も担っていることを明らかにした.この観測に基づいて,音響理論を適用し異なる内半径の共鳴管でアドミタンス調整機能を実現した.共鳴管の内半径を20mmから12mmに変えることで動作周波数を変化させずに装置全長を2.26mから1.58mに短縮した.また,原動機ループとクーラーループと枝管共鳴管をT字型配管で接続する新しいデザインの装置が自励振動することも確認している.

[3] 15:15-15:45 「温度勾配の急峻さがタコニス振動の安定限界に与える影響」上田 祐樹(東京農工大)
 細い気柱管の一端をヘリウム液面に近づけると「タコニス振動」が発生する.この問題はKramaersやRottが理論的に手がけ,その結果はYazakiらによる系統的な実験で検証されている.しかし最近行われたSugimotoらにより放物線型温度分布を仮定した理論的解析では,Rottの予測とはやや異なる中立安定曲線が得られている.熱音響の出発点となった基本問題であるタコニス振動に対して,今回は管の一カ所につけた直線的温度分布の勾配をパラメータとして変化させたときの中立安定曲線を数値計算的に調べた結果が示された.結果的に管全長の半分の領域に温度勾配があるようなゆるやかな温度分布の場合には急峻な場合と比べて安定限界が上昇することが示された.また,中立安定曲線は気柱の平均温度によらないことが指摘された.

[4] 16:00-17:00 音速シリーズ「第5章 温度変動とエントロピー変動」富永 昭(殿物理研究所)
 19世紀初頭にフーリエの方程式が提唱されました。局所平衡の仮定のもとに、流体系のエネルギー保存則を議論すると、フーリエの方程式はエネルギー保存則の表れであることが判ります。逆に、フーリエの方程式が成り立つことは局所平衡の仮定を支持する実験的根拠です。エネルギー保存則にはエネルギーに着目した表現とエントロピーに着目した表現とがあります。エネルギー保存則を使って、管内音波に伴う温度変動とエントロピー変動を線型・長波長近似で議論します。管壁の温度が時刻に依らないという境界条件のために熱緩和時間が重要です。最後に、エネルギー保存則を使って、質量保存則を議論します。

[5] 17:00-17:30 その他 参加者全員
次回研究会について,ほか



 第2回(通算第10回)

日時:12月11日(土),13:00~17:30(予定),場所:東北大学東京分室

東北大学東京分室は,サピアタワービルディング10階です.(新幹線東京駅日本橋口−徒歩1分,東京駅八重洲北口−徒歩2分)


[1] 13:00-14:30 【招待講演】「音波の非線形現象と衝撃波に関する理論の基礎」矢野 猛(大阪大学)
 音は私たちにとってとても身近なものである。それゆえに、音の増幅・抑制・制御およびその有効利用は重要な課題であり、古くから多くの研究の対象となってきた。音にともなう媒質の振動はとても小さいので、音の研究の長い歴史の大半は、線形問題の研究であったといってよい。しかしながら、自然界にも人工物や工学装置においても、大振幅の音は確かに存在する。とくに、工学装置において音のエネルギーの効率のよい利用を模索する際、大振幅の音を扱いたいと考えることには少なくない。そのとき、大振幅の音に必然的にともなう非線形現象を扱わねばならなくなる。本講演の目的は、大振幅の音にともなう非線形現象に関する理論的研究の基礎的な部分について、概要を述べることにある。
 気体や液体中の音に関わる現象のほぼすべては、数10MHz 程度の高周波数まで、通常の流体力学に支配される。流体力学はすでに確立された学問領域であるが、その非線形性や、渦や熱などの流れの多様性のために、個々の現象に対する流体力学的理解を構築することは、必ずしも容易ではない。本講演では、理論研究の基礎的な部分に話題を制限することによって、あまり複雑すぎない音の非線形現象に対する理解の組み立て方を解説したい。実際の現象は、ここで述べる現象よりもはるかに難解ではあるが、基礎的な要素への理解の積み重ねが、難解な現象に対する理解の足がかりとなることを期待するからである。ただし、本講演では、非一様な温度場に強く支配される現象には踏み込まないので、低温工学の脈絡においては、少々物足りないと思われるかもしれない。

講演の内容
(1) 流体力学と音(2) 非線形平面進行波の厳密解
(3) 衝撃波(4) 高調波と音響流
(5) 強非線形問題(6) 定在波と共鳴
(7) 共鳴管内の衝撃波(8) 共鳴管内の音響流
(9) まとめ


[2] 14:50-15:30 「往復振動流中の作動ガスと固体壁の間の熱伝達率」小清水 孝夫(北九州高専)
 近年,スターリングエンジンおよびスターリング冷凍機,パルス管冷凍機のみならず熱音響発振器および熱音響冷凍機に関する非定常圧縮性流体の保存則を直接解く数値解析が実施されるようになってきた.流体の運動を2次元流や3次元流とみなした数値解析も実施されているものの,設計等への利用を考えると1次元流とみなした数値解析が非常に便利であり,またこのことが,これまで1次元流の数値解析が多く実施されている理由である.数値解析を実施するためには,作動ガスと固体部分の熱交換を考慮する必要があり,1次元流の数値解析においては,熱伝達率を考慮することでその熱交換を定義するのが一般的になっている.しかしながら,往復振動流における熱伝達率の値が現在までのところ不明確なため,実験結果との定量的一致は完全には得られていない.本研究では,熱伝達率の値を使用せずに作動ガスと固体部分の熱交換を考慮できる円筒2次元流の数値解析から熱伝達率の値を逆算することを試みた.さらに,1周期中の作動ガスと管壁の交換熱量を求め,熱伝達率に対する影響を調査した.その結果,熱伝達率の値が無限大の値を示すことがあり,非定常数値解析で使用するには大きな問題があることがわかった.しかし,ガスと固体壁の交換熱量の値を何らかの物理量で導出できれば数値解析における熱的条件が設定できると考えられる.

[3] 15:50-16:50 音速シリーズ「第6章 管内音波の分散」富永 昭(殿物理研究所)
 一様温度の管の中を管の軸方向に伝わる音波について、エントロピー変動が有限の場合を議論します。エントロピー変動については局所平衡の仮定のもとにエネルギー保存則を使います。こうすると一様温度の管内音波に関わるキルヒホッフ理論(1868年)が再現されます。キルヒホッフ理論から予想される分散は広い範囲でYazakiらの実験と一致します。従って、Yazakiらの実験結果は管内音波について局所平衡の仮定を支持します。

[4] 17:00-17:30 今後の研究会について 参加者全員



 第3回(通算第11回)

都合により、第3回研究会は中止致しました.
日時:3月26日(土)13:00~17:30,3月27日(日)9:00~12:20
場所:京都市国際交流会館 研修室


3月26日
[1] 13:00-13:40「閉円管内で生じるタコニス振動の数値解析」白井 宏一郎(名古屋大)
 流体の入った細管壁が軸方向に大きく温度変化している場合,管内の流体が管壁との熱的相互作用で自発的に振動することがある。この現象は熱音響自励振動と呼ばれている。特に液体ヘリウムの液面上に細管を立て,細管の軸方向に大きな温度変化を与えることで生じる熱音響自励振動は,その現象の発見者Taconisに因んでタコニス振動と呼ばれている。タコニス振動に関する研究は熱音響現象の基礎的な理解に不可欠であり,これまで数多く報告されている。
 特に低温部に対する高温部の長さ比ξを0.3とした場合,Yazakiらの実験において複数の振動モードが観測されている。しかし,実験では管内の様子や温度比依存性を調査することは難しく報告がない。そこで本研究ではξ=0.3とした場合,また基本的な振動モードが観測されたξ=1.0とした場合の細管内の解析を行い,振動の温度比依存性や各振動モードの存在領域を調査することを目的とした。
 本研究では,Yazakiらの実験と同様な両端を閉じた円管内の流れ場を計算対称とした。管壁の温度分布としては中央部を低温TC,両端部を高温THとし,低温部と高温部の温度比θ(=TH/TC)を変化させた。管壁にある値以上の温度比を管壁に与えたのち,十分時間が経過すると管内に軸方向の振動が発生した。
 以下に本研究の結果を示す。ξ=1とした場合,管内には管長を1/2波長とし,管端部に圧力振幅の腹をもつ反対称モードの振動が観測された。振動状態を観測した温度比領域をRottの理論解析により得られる静止/振動の臨界温度比と比較すると,両者は概ね一致した。しかし本計算では,理論解析では静止状態となる領域で,振動状態が観測された。これはRottが理論解析をする際に用いた仮定が実際には満たされていなかったことが原因と考えられる。
 ξ=0.3とした場合,管内の境界層が比較的薄いとき,温度比を増大していくと初め反対称モードが励起された。その後さらに温度比を増大していくと,圧力波形は歪んでいき,やがて衝撃波が形成された。また,境界層が厚い場合には,管長を1波長とし管端部が同位相で振動するモード(対称モード)を観測した。対称モードの振動は理論解析における反対称モードの静止領域,かつ対称モードの振動領域で観測された。一方,衝撃波は理論解析における反対称・対称モードの振動領域が重複する領域において観測された。

[2] 13:45-14:25 “The frequency dependant positional reversal of the hot and cold sections of a coaxial travelling wave thermoacoustic heat pump”,Adhika Widyaparaga(九州大)
  Two previous experimental and numerical studies regarding coaxial thermoacoustic refrigerators obtained opposite hot section and cold section positions at the regenerator. To verify whether or not it is possible to trigger a positional reversal such as this experimentally and investigate the causes, we have constructed and tested a travelling wave thermoacoustic heat pump using a coaxial configuration. Between the test frequencies of 100 Hz to 400 Hz, a positional reversal of the cold and hot sections was obtained. As the thermoacoustic effect is a combined effect of the travelling wave components and the standing wave component and due to the fact that a forward and backward travelling waves are involved, it is thus necessary to conduct a spatial-temporal decomposition of the wave. Decomposition of the pressure wave obtaining the positive (w(+)) and negative (w(-)) travelling waves and SWR reveal that a directional change of the dominant travelling wave is involved in the positional reversal. As the reversal does not require moving parts, this feature in coaxial traveling wave devices has tremendous potential for applications such as air-conditioning.

[3] 14:30-15:10「同軸二重管型音波クーラーの音場計測」森井 隼(東北大),琵琶 哲志(東北大)
 細管内に音波が伝播すると,管の軸方向にヒートポンプ効果が現れる.この効果を応用したパルス管冷凍機では,蓄熱器内の圧力と流速の間の位相差を調節するオリフィスやイナータンスチューブ等の機構を設けることにより,冷凍出力が向上した.近年提案されたループ管を用いた音波冷凍機は,ループ管により位相差の調節を行うと同時に,仕事流のフィードバックを可能にした.このおかげでこのタイプの音波クーラーは高い効率を実現できると期待されている.本研究では,ループ管に代わる新たなフィードバック構造として同軸二重管型の音波クーラーを提案する.フィードバックの可能性を検証するためには,内管と外管に挟まれた円環領域において仕事流を正確に決定する必要がある.LDVを使ってこの円環領域における速度分布を明らかにし,圧力と同時計測を行って仕事流を幅広い周波数範囲で決定した.この結果をもとに同軸二重管型の音波クーラーの有効性を実証する.

[4] 15:20-16:00「相変化を利用した熱音響エンジンの発振温度差」野田 大輔(農工大)
 

[5] 16:05-16:45「熱線流速計と圧力センサを用いた仕事流測定」山田 智成(農工大),上田 祐樹(農工大)
 

[6] 16:50-17:30「直管型多段増幅熱音響機関の音響インピーダンス分布と熱効率に関する基礎的検討」
  山口 剛史(東海大),長谷川 真也(東海大)

 直管型熱音響機関にはループ構造が存在しない為に循環質量流の発生が少ない.よって局所的進行波位置に蓄熱器を設置することが出来れば,高い熱効率を実現可能である.しかし直管型は一般的に音響インピーダンス分布(実数)の頂点が急峻であるために局所的進行波位置に蓄熱器を設置することは難しい.そこで直管型熱音響機関を対象に数値計算にて蓄熱器の設置位置を決定し,定在波と進行波を組み合わせた多段増幅を行うことによる高効率・低温発振の実現を試みる.また加熱器温度を変更した際の音響インピーダンス分布,熱効率を実験にて求め理論計算と比較する.

終了後,懇親会(会場:京都国際交流会館内 ルヴェソンヴェール岡崎店)


3月27日
[7] 9:00-9:40「熱音響システムの実用化に向けて -Phase Adjuster動作メカニズムに関する基礎検討- 」
  佐橋 一輝(同志社大),坂本 眞一(滋賀県立大),柴田 健次(同志社大),渡辺 好章(同志社大)

 ループ管方式熱音響システム(ループ管)の実用化に向けて,ループ管の有する2つのエネルギー変換部におけるエネルギー変換効率の向上が必要である.我々は,ループ管のエネルギー変換効率を向上させるデバイスとしてPhase Adjuster (PA)を提案する.PAをループ管に設置した際の,ループ管のエネルギー変換効率の大幅な向上に伴い,PA設置部分で音響インテンシティ減衰量の大幅な変化が確認される.今後エネルギー変換効率のさらなる向上に向けて,PAによるエネルギー変換効率向上要因の理解が必要となる.そこで本報告では,PAをループ管に設置した場合におけるエネルギー変換率向上の要因を探るため,ループ管の管材質を1部アクリルに変化させ,音響インテンシティ減衰量の変化がエネルギー変換効率に与える影響について検討を行った.結果,アクリル設置部において音響インテンシティ減衰量が変化し,エネルギー変換効率の向上が確認された.従って,PAをループ管に設置した場合にエネルギー変換効率が向上する要因として,PA設置部に形成される音響インテンシティの大幅な減衰が大きな役割を担っていることが予想される.

[8] 9:45-10:25「熱音響消音システムに関する研究 -音波の増幅効果と減衰効果を比較することによる消音メカニズムの考察- 」
  小林 徹也(同志社大),坂本 眞一(滋賀県立大),塚本 大地(同志社大),柳本 浩平(同志社大),渡辺 好章(同志社大)

 熱音響現象を応用させた技術の一つに熱音響消音システムがある.熱音響現象は熱と音の相互エネルギー変換を表す.熱音響現象を実現するデバイスとして,スタックと呼ばれる狭い流路を多数有するデバイスを用いる.システムにおける音波の減衰作用はエネルギー変換,スタック内の粘性損失およびスタックにおける音波の反射が要因により引き起こされる.だが,現状としてこれらの要因は分離出来ていない.本報告では,消音効果を引き起こす要因の評価を目的とした.音波の減衰効果と増幅効果をスタック通過前の音圧値に対するスタック通過後の音圧値をそれぞれ用いて比較することによりエネルギー変換と粘性散逸を考察した.減衰効果と増幅効果はスタック両端の温度差を反転させることでそれぞれ得られる.結果として,スタック両端の温度差を小さくすることで,スタックからの反射波の影響は抑えられ,エネルギー変換による音波の減衰効果が高くなった.このことは流路壁面温度によりスタック流路内に形成される粘性境界層領域が異なり,境界層を考慮に入れた透過流路径が異なることにより引き起こされると考えられる.

[9] 10:30-11:10「フィードバック制御による熱音響自励振動の抑制」井原 拓真(東北大),琵琶 哲志(東北大)
 ボイラーやガスタービンなどのダクトを有する燃焼機器においてしばしば気柱の自励振動が観測される.液体ヘリウムを取り扱う低温実験室でも,室温部と低温部をつなぐ管路内で局所的に大きな温度勾配が生じることで,同様の自励振動が起こる.これら熱音響自励振動は液体ヘリウムの液面計や熱から音波へのエネルギー変換デバイスとして利用価値がある一方で,燃焼器や低温機器の円滑な運転の障害となる迷惑な現象でもある.本研究では,燃焼反応を伴わない点でより単純な系である,スタック(多孔質体)を含む気柱共鳴管で生じる熱音響自励振動系を実験対象とし,フィードバック回路を介して外力を加えることで振動抑制を試みた.フィードバックのパラメータとして時間遅れD ,ゲインG を用い,系の安定領域(振動抑制状態)と不安定領域(振動領域)の境界をD-G平面上で調べた.さらに,どのようにして振動抑制にいたるかをエネルギー流の観点から調べるために,音響強度の計測を試みた.講演ではこれらの結果について発表する.

[10] 11:20-12:20 音速シリーズ「第7章 拡張キルヒホッフ理論」富永 昭(殿物理研究所)
 19世紀中頃にソンドハウス管やレイケ管のような熱音響自励振動現象が報告されました。管内音波に関わるキルヒホッフ理論(1868年)は、平均圧力だけでなく 平均温度も一様と仮定されているので、熱音響現象には適用できません。この仮定を緩めて、平均温度については流路断面内でだけ一様としたのが拡張キルヒホッフ理論(1949年)です。拡張キルヒホッフ理論を定式化したクラマースはタコニス振動の必要条件を議論しました。クラマースを継承したのがテルハールとロットです。矢崎らの実験結果(1979-80年)はロットの計算結果を支持しました。拡張キルヒホッフ理論は熱音響現象を理解し記述するための最初の手がかりです。