- 熱音響冷却システム(PDF書類) - 2010年10月現在
フロンなどの地球温暖化ガスを使わないクリーンな次世代の冷却システム
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熱音響現象とは? | 熱音響現象の歴史 | ループ管の仕組み | 冷却のメカニズム
熱音響現象とは?
熱音響現象とは、音と熱が関わり合う現象であり、エネルギー変換とエネルギー輸送という2つの側面があります。
一般的な音波の場合
通常、音波が自由空間を伝搬するとき、音波の伝搬媒質である流体の圧縮・膨張のサイクルは非常に短く、 また、近傍に熱の散逸要因がないため、流体は断熱的に変化します。
熱音響現象を引き起こす音波の場合
音波がスタックの流路のような波長の3千分の1程度の狭い流路をゆっくり伝搬する場合、
流体の圧縮・膨張のサイクルは長くなり、流体は等温的に変化し、スタックの流路壁と流体において熱交換が行われます。
この熱交換によって、音エネルギーならびに熱エネルギーのエネルギー変換やエネルギー輸送が行われます。
この、熱エネルギーや音エネルギーのエネルギー変換やエネルギー輸送が熱音響現象です。
身近な熱音響現象には、岡山市の吉備津神社で現在でも神事に使われている「吉備津の釜」やパイプオルガンをバーナーで修理しているときに音が鳴る、ということが知られています。
熱音響冷却システムは、熱音響現象のエネルギー相互変換を利用しています。
熱エネルギーを音エネルギーにエネルギー変換し、そして、この音エネルギーを熱エネルギーに再変換することにより、冷却を行うというものです。
熱音響現象の歴史
熱音響現象には歴史がある。
我が国で最も古くから知られていた熱音響現象には、1776年に出版された上田秋成の『雨月物語』に「吉備津の釜」として登場する釜鳴り現象がある。
また、西欧においても同時期である18世紀末に、パイプオルガンをバーナーで修理する際に音が鳴った、という報告がある。
このように古くから知られている熱音響現象ではあるが、研究の対象としては19世紀頃から注目されたものであり、最近ではさまざまな分野で応用されている。
特にオイルショックが起きた1970年頃から、エネルギー問題に関心が集まるようになり、エネルギーの効率的な活用が可能なスターリング機関に関心が集まった。
1979年にはCeperleyによって可動部のない熱音響システムが提案された。
可動部のない熱音響システムの実現は難しいと考えられていたが、1998年になってYazakiらがプロトタイプの製作に成功した。
そして今現在、エネルギー問題に関心が集まり、再び脚光を浴びつつある熱音響冷却システムは、いくつかのグループで研究が進められているが、実用化には至っていない。
そこで本研究グループでは主に熱音響冷却システムの一つである、ループ管の実用化に向け研究を行っている。
ループ管の仕組み
熱音響冷却システムであるループ管は、熱音響現象のエネルギー相互変換を利用しています。 熱エネルギーを音エネルギーにエネルギー変換し、そして、この音エネルギーを熱エネルギーに再変換することにより、冷却を行います。 ループ管内には、スタック(蓄熱器)を2つ設置し、それぞれプライムムーバーとヒートポンプとします。
プライムムーバーは、熱を供給する熱交換器Aと循環水を用いて基準温度に保たれた熱交換器Bで上下を挟みます。 廃熱などの熱源から熱エネルギーを供給することで、プライムムーバーのスタック内には急激な温度勾配が形成され、熱音響自励振動である音波が発生します。 つまり、熱エネルギーから音エネルギーのエネルギー変換が行われるのです。
音エネルギーはそのままループ管を伝搬し、ヒートポンプに到達します。
ヒートポンプは、片側を熱交換器Bにより基準温度に保ち、反対側をクーリングポイントとします。プライムムーバーから伝搬した音エネルギーが、熱エネルギーに再変換される際、クーリングポイントの温度が大きく低下します。
冷却のメカニズム
冷却部のスタック内の作業流体の流体要素に注目して冷却メカニズムを解明しました。
流体要素はスタック壁と熱交換を行いながら、変位・圧縮ならびに膨張を繰り返します。流体要素の変動を4分の1周期ごとに、模式化すると・・・
●第I周期(加熱)
1→2
- 音圧:変化なし
- 変位:下から上
- 熱量:スタック壁から作業流体へ、Q1移動
第I周期では圧力を保ちながら変位します。スタック壁には温度勾配が形成されているため、変位に伴い、 流体要素は近傍のスタック壁より低温になり、スタック壁よりQ1吸熱します。
●第II周期(圧縮)
2→3
- 音圧:増加
- 変位:なし
- 熱量:作業流体からスタック壁へ、Q2移動
第II周期では変位せず、圧縮されます。
圧縮された流体要素は近傍のスタック壁と比較して高温となり、
スタック壁にQ2放熱します。
●第III周期(水冷)
3→4
- 音圧:変化なし
- 変位:上から下
- 熱量:作業流体からスタック壁へ、Q3移動
第III周期では圧力を保ちながら変位します。
スタック壁には温度勾配が形成されているため、変位に伴い、流体要素は近傍のスタック壁より高温になます。
スタック壁にQ3放熱します。
●第IV周期(膨張)
4→1
- 音圧:減少
- 変位:なし
- 熱量:スタック壁から作業流体へ、Q4移動
第IV周期では変位せず、膨張します。
膨張した流体要素は近傍のスタック壁と比較して低温となり、スタック壁よりQ4吸熱します。
このように,スタック内の流体要素は,温度勾配のあるスタック壁に沿って熱交換しながら往復運動を行うことによって第I〜IV周期の過程を繰り返します。
つまり、TCにて吸熱し、TRにて放熱を行うサイクルを繰り返すのです。 このサイクルを繰り返すことにより、音エネルギーは熱エネルギーに変換され、冷却が行われます。