■研究紹介

 現在私たちの暮らしは沢山の産業によって支えられています。また移動や輸送の要である自動車も生活を豊かにするために欠かすことの出来ないものです。しかし現在、工場、自動車、工業機械などが使用しているエネルギの内、65%以上は排熱として未利用のまま捨てられています。もしも工場や車両において発生している膨大な排熱や、太陽光のエネルギを高効率で回収し使うことが可能であれば、地球温暖化や資源枯渇問題を解決するための切り札となります。これらのエネルギを回収し、動力化するために私たちは「熱音響機関」に関する研究を行っています。

■研究の目的

● 300℃以下の産業排熱、自動車排熱で20%の熱電変換効率を有する熱音響発電機の実現を目指しています。
● 300℃以下の産業排熱、自動車排熱で-100℃を達成する熱音響冷凍機の実現を目指しています。

■どうして動くの?

 可動部品が無いのにどうやって動くのでしょうか。実は空気の振動、「音」を使って動いています。 狭い筒の片方を加熱して、片方を冷やすと、筒の中の空気が不安定になり振動を開始します。この振動がピストンの代わりとなり、熱音響機関はエネルギ変換を行います。 パイプと狭い筒(ステンレスメッシュを重ねて用います)を使って簡単に音を出す実験を行うことが出来ます。 ステンレスのパイプの中にステンレスメッシュを重ねて入れ、ガスバーナーで加熱すると、とても大きな音が鳴ります。ステンレスメッシュ以外、何の仕掛けもありません。以下の動画をご覧ください。

上の動画では音が鳴るだけですが、振動で発電可能なリニア発電機を接続すれば音を電力に変えることが出来ます。研究室で作成した試作機の映像をご覧下さい。熱音響機関で発生した音波をリニア発電機を用いることで電力に変換し、LEDを発光させています。 この装置の効率と出力を高めれば、次世代の熱電変換システムとなりうる可能性があります。

■熱音響機関の動作原理

 下の図のようにパイプの中に、とても小さな流路を持つパイプの束(蓄熱器と呼びます)を設置します。蓄熱器の左端を冷却水で冷やし、右端をヒーターで加熱します。小さな流路を持つパイプの束(蓄熱器)を用いることが熱音響機関のポイントです。通常音波が空間中を伝わるときは周りに何も無い為に熱の授受はありません。しかしとても狭いパイプの中を音波が伝わる場合は状況が変わります。蓄熱器の流路はとても狭いので瞬間的に蓄熱器の壁面温度と気体の温度を同じにすることが出来ます。この蓄熱器に左側から音波を入力すると当然、蓄熱器内の気体も振動を始めます。この時以下に示す熱力学サイクルが蓄熱器内で実行されます。その結果入力した音波が増幅され蓄熱器右側から出力されます。これが熱音響機関の動作原理です。

■熱音響発電機 ~捨てる熱を電気に変える~

 熱音響機関は音波を出力します。音波、即ち「空気の振動」を「電力」に変換するためには直線運動を電力に変換するリニア発電機が必要です。リニア発電機と熱音響機関を連結することで熱を用いた発電が可能になります。 熱音響発電機は現在の熱電変換素子を大幅に超える高効率(30%以上)を実現可能です。現在、工場、自動車、工業機械などが使用しているエネルギの内、65%以上は排熱として未利用のまま捨てられています。熱音響機関は産業排熱、自動車排熱、太陽光エネルギなどあらゆる熱エネルギを回生することが可能である為、捨てているエネルギを高効率で回収する次世代熱電変換デバイスとなる可能性を有しています。また、パイプのみの簡易な構成ため安価かつ量産が容易であるという特徴を持つために、社会への普及は容易です。

■先端の研究内容

 熱音響機関は高効率であるという特徴を有しますが、一方で動作温度が500℃程度の高温であるという問題点を有します。この問題を解決するために、左図のような蓄熱器を多段直列接続した多段熱音響機関が提案されています。当研究室では多段熱音響機関を用いることで、熱源温度100℃程度の動作を実現しています。 現在は300℃の熱源温度で20%の熱効率を有する熱音響機関を実現するための研究を行っています。

■熱音響冷凍機 ~捨てる熱を冷熱に変える~

 熱音響機関は温度差から音波を作りだす装置です。よって音波を入力すれば、逆に温度差を作り出すことが出来ます。図の左側の熱音響機関で音波を発生させ、右側の熱音響機関を駆動することで、可動部を全く持たない新しいノンフロン冷凍、ヒーターを実現することが可能です。産業排熱や自動車排熱を用いた電力を使わない冷凍、昇温システムを実現することが出来ます。また太陽光を集光し駆動することで、半永久的に動作する冷蔵設備を構築することも可能です。

■先端の研究内容

 当研究室では上図のような蓄熱器を多段直列接続した多段熱音響機関と熱音響冷凍機を連結した装置を構築し、熱源温度250℃で-40℃の冷凍を実現しています。
 現在は-100℃を超える冷凍能力と、カルノー効率に漸近する熱効率を実現する熱音響冷凍機の研究を行っています。

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