熱と音波との間ではお互いにエネルギーをやりとりする作用があり、管の一端を加熱すると内部に音が発生したり、
管内に音を入れると管内で冷凍作用が発生したりするが、通常これらを熱音響効果と呼んでいる。特に後者の音で
冷凍する現象は熱音響冷凍と呼ばれ、20年位前*から主に超低温(-150℃位)を作る技術の一つとして注目され研究されて
きたが、最近ノンフロン代替技術である自然冷媒利用の一つとして関心がもたれるようになった。
図1 熱音響冷凍の原理
熱音響冷凍機の基本構造は、図1に示すように、管の一端に音波を発生するスピーカをつけ、管の反対側を閉端とし、
管の内部の閉端に近い側にスタックとよばれる沢山の細かい平板や細管でできた熱交換器を挿入する。スピーカを丁度
管内で共鳴するような音波でならして管内に音を入れると、管内に1/4波長の定在波ができて、スタックの左側が温度が
下がり、右側が上がる。これは、スタック内の気体の小さな部分に注目すると、気体塊は音波により圧力の高い右側に
移動させられ圧縮されて体積が小さくなる。このとき断熱圧縮で温度が上がるが近くのスタック壁に放熱して温度が少し
下がる。その気体塊は再度音波により左側の圧力の低い側に移動させられ、このとき断熱膨張し温度が下がる。先ほどの
温度が高い側でスタック壁に放熱して温度が下がった分だけ周囲より温度がより低くなる。この微少サイクルがスタック
壁に沿って連なってバケツリレーで熱を運び、結局スタックの左端が最も低温に、右側が最も高温になる。これは
丁度ほかのガスサイクルが着たいの圧縮と膨張を利用しているのと同じだが、音波のため非常に短い時間で圧縮・膨張
を繰り返しているのが特徴である。
このため熱サイクルとしての効率は、必然的にガスサイクル(ブレ
イトンサイクル)であるため、まだ当初期待したような従来サイクル
に匹敵する高い熱効率は得られていないが、現状では米国で少容量域で
蒸気圧縮式より優れスターリング冷凍機並の成績係数が得られてる。
海外で既に大がかりな装置が稼働している1)とはいえ、管から
直接冷風が得られるなどのまだ新しい現象が見つかりつつある若い研究分野であり、
また従来サイクル並の効率が理論的には可能であるとする報告2)
もあり、今後構造簡単で潤滑油不要な本方法の特徴を生かして、熱サイクルの
改良や冷熱の直接利用などの今後の研究開発が期待されている。
1)N.Hamill,Mechanical Engineering,ASME,120(3),p.76-847(1998)
2)B.L.Minner et al.,Proc,of 2nd Conf.of Applications for Natural Refrigerants p.173-183(1996)
*「最近気になる用語」
学会誌「冷凍」への掲載巻号一覧表