IS<インフィニット・ストラトス> for Answer (七草粥)
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03 楽しい楽しい学園生活。

 時は四月。心地よい春の風が俺の頬をなでる。
 なんとも言えない良い気持ちだ。時刻は午前九時前。朝、布団からここまで眠気を引きずってきた人達にとっては悪魔の囁きといっても過言ではないだろう。時折頭を振り、舟をこいでいる姿が見られる。

「……ふぁ」

 自分自身も不覚ながら欠伸をしてしまう。
 最近あまり睡眠を取っていない所為か、気を抜くと俺まで誘惑に負けてしまいそうになる。
 この状況をどうにかできる存在……つまり、先生。早く来てくれ。 

「全員揃ってますねー。それじゃあSHR(ショートホームルーム)はじめますよー」

 俺の願いが叶ったのか。念じた瞬間、ドアが開き緑髪の女性がが入ってきた。
 恐らくは教師なのだろうが、身長が低く生徒のそれと変わらず、如何せん先生には見えない。
 印象としては「大人ぶっている少女」である。
 名前は山田真耶。黒板(のようなものに)文字が浮き上がり、自分からも名乗っているのでそうなのだろう。
 これも表示された情報だが、どうもこの先生は担任ではなく、副担任のようだ。
 因みに副担任の主な役職は担任の補助である。担任は誰なんだろう……

「それでは皆さん、一年間よろしくおねがいします」

 山田先生は一通りの自己紹介を終え、この一言で締めくくる。
だがしかし、

「…………」

 残念な事に教室の中は形容しがたい緊張感に包まれ、先生が望んだような反応は返ってこず、何とも言い難い静寂が支配する事になった。
 いやー、先生、頑張って。

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 どうにか場を取り繕って話を進めようとする山田先生。しかし、言葉とは対照的に動きはとても手馴れたものですぐに生徒の机に名前入りの角柱(ホログラム)が出現する。
 さすがに生徒たちも無言を貫くことはなく、自己紹介を始めた。
 あ……い……う……え……、と順当に自己紹介が進んでいく。
 そして「お」に差し掛かったところで俺の視線はある()に釘付けになった。
 その男、もとい少年は一人キョロキョロと不可思議な行動をしている。時折視線を横に向け、少し経って戻し、固まる。きっと体中に力が入っているのだろう。
 視線を下げ、どんよりと形容しがたいオーラが発せられている。

「織斑くん、織斑一夏くんっ」
「は、はいっ!?」

 どうも意識は別の方向にいっていたらしく、先生に大声で呼ばれ、少年は返事をするももの声が裏返ってしまっていた。同時に、辺りから笑い声が聞こえてくる。
 声を聞いてさらに少年の表情が硬くなった。どうも少年、織斑は緊張しているようだ。
 世界で唯一ISを操縦できる男と世界に報道されたため、その存在は世界中の人間に認知されているといっても過言ではない。更にその整った容姿は女子の心を鷲掴みにし、同姓だけではなく異性にも注目されてしまう。
 尤も、ここの女子の視線は所謂「値踏み」の意が篭ってはいるが。

「あの、大声出しちゃってごめんなさいね。怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑君なんだよね。だからね、自己紹介してくれるかな? お願い?」

 少年の沈黙を「怒っている」と捉えたのか、山田先生は何度も何度も頭を下げていた。

「いや、あの、そんなに謝らなくても……っていうか自己紹介しますから、先生落ち着いてください」
「本当ですか? 約束ですよ」

 少年が言葉をかけると山田先生は顔を上げ、熱心に少年に詰め寄る。その姿はさらに周りからの注目を集める結果になっているのだが、それを先生は分かっていないらしい。
 暫時少年は緊張と恥ずかしさに悶えていたが、意を決したのだろうか、少年はしっかりと足を踏ん張り、うしろ――こちらに振り向いた。
 やっとか、俺は心の中で呟いた。
 少年は視線という刃で体中串刺しにされながらも、

「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 大衆(?)を前にしっかりと発言し、礼儀正しく礼をした。実に簡潔で一般的だ。ただ、この場では少し不足だと思うが。
(やっぱり)
 案の定女子から「もっと喋れ」的な空気が発せられる。
 だらだらと冷や汗を流しながらも、少年は思い切ってこう口にした。

「以上です」

 音と共にずっこける女子を数人確認した。かくいう俺も少し拍子抜けで驚いているが。

「あ、あのー……織斑くん……」

 少年の背後から声をかける山田先生。涙声な気がするが気にしない。
 疑問符を浮かべる少年だが、教室から入ってきたスーツの女性に出席簿で殴られた。

「いっ――!?」

 盛大に顔を顰め、恐る恐る振り向く少年。そしてその姿を捉えた。

「げえっ、関羽!?」

 ズパァン!! 出席簿アタック二撃目。あまりにも強烈な攻撃のために、周囲の女子が若干引いている。

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 トーンの低い声で言う女性。態度はそっけないが、俺はその奥にある愛情のようなものを感じた気がした。

「あ、織斑先生。もう会議終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 声質反転。トーンの低い声から優しい声へと変化した。

「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと」

 山田先生ははにかみながら若干熱っぽい声と視線で返答している。涙声どこいった?
 女性はフッと少々表情を崩した後、すぐに精悍な顔つきに戻し、こちらを向き言い放った。

「諸君、私が織斑千冬(おりむらちふゆ)だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが私の仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

「キャ――――! 千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「お姉様! 抱いてください!!」

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 周囲の女子から発せられる黄色い声援に織斑先生は心底鬱陶しそうに振舞う。
 まぁ、もっとも、

「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように(しつけ)して~!」

 一部の女子(変態)達には逆効果のようだが…… 
 まぁ、あれだ。元気なのはいい事だ。うん。

 今現在、女子はブリュンヒルデ(最強)との出会いに感激し、少年(織斑一夏)は驚いているが、俺はその二つにも当てはまらなかった。
 織斑……織斑ねぇ。なるほど、そういうことか。
 高圧的ともとれる発言だが、実績を残しているのだから、誰も言う事はない。
これが資料にも書いてあったブリュンヒルデ……これが最強の戦士(IS操縦者)か。
 こちらに同調してくれたらいいのだが、難しそうだ。

「で、挨拶も満足にできんのか、お前は」
「いや、千冬姉、俺は――」

 同時に教室内に響き渡る音。本日三撃目の出席簿アタック。オールドキング辺りが「六千万」とか言いそうだ。

「織斑先生と呼べ」
「はい……織斑先生」

 この発言から二人が姉弟の関係であるということを理解した。
 そして、周囲にも姉弟という事実が知りわたることとなる。

「え……? 織斑くんって、あの千冬様の弟……?」
「それじゃあ、男でISが使えるのも……?」
「羨ましいなっ。代わってほしいなぁっ」

 混沌を極める教室。織斑先生は軽く咳払いをした後、

「もうすぐSHRが終わる。全員は自己紹介は無理のようだな、では代表して……高城、お前がやれ」
「はい」

 なんと俺を指定してきた。拒否する理由も無いので返事をして席から立ち上がる。

高城(たかしろ)(ゆう)です。趣味は読書と映画鑑賞。ISに関しては素人ですが、精一杯頑張ろうと思います。皆さん、よろしくお願いします」

 発言の後、織斑と同じく礼儀正しく礼をする、ついでに笑顔も忘れない。まぁ当たり障りはない内容だろう。だいたいテンプレ通り。
 因みに兎さん(束博士)細工(ハッキング)の結果、俺は「高城優」として日本に所属していることになった。博士曰く、「そっちの方が後々動きやすくなるから」だそうだ。

「……イケメン……」
「織斑君とは違うタイプのイケメン……」
「やばい、ストライク……」

 女子から嬉しい言葉が返ってくる。伏せていたからあまり顔が見えてなかったのか。叫ぶ事がないのはこちらとしても都合がいい。
 前の方に座っていた織斑もまるで救世主を見るかのような目で俺を見ている。
 いい機会だから、後で織斑とでも話をしてみるか。

 そんな事を考えているとチャイムが鳴った。

「さぁ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 織斑先生のこの言葉で授業、SHRは締めくくられる。
 俺は席に座り制服のネクタイを緩めながら、「さて、何を報告しようか」と心の中で口にするのだった。



*


 SHRが終わり、俺を待っていたのは休み時間ではなく、授業だった。
 講座名はIS基礎理論。内容は字の通りだった。
 前のほうでは織斑がどんよりとした状態で授業を受けていたが、俺は何も頭に入っていないだろう。まったく、これじゃあ先が思いやられる。
 俺は何の問題もなく授業を終えた。

 そして今は休み時間。
 俺は周囲の視線にさらされながら俺は教室のある場所に向かった。

「改めて、高城だ。よろしくな織斑君」

 場所は無論もう一人の男の所だ。

「織斑一夏だ。一夏って呼んでくれ」
「じゃあ俺も優でいい。一緒に頑張ろうぜ」
「おう!」

 一夏は元気良く返事をする。その顔は輝いていたと言ってもいいだろう。よっぽど不安だったんだろうな。

「いやー、優がいてくれて助かったよ。俺一人じゃこの状況どうにもできそうにないからな」
「俺も同じ境遇の奴がいて良かったと思ってるよ。けどさ一夏、こんなもんでビビッてたらこの先どうすんだよ? この状況が三年間続くんだぞ?」
「うっ……まぁそうだけどさ、ってなんで優は平気なのさ」
「平気……っていうか、割り切ってるだけさ」
「その精神がうらやましいよ。ほんと」

 一夏は苦笑いを浮べる。あまり裏表がない奴だという事がこの行動から読み取れる。
 暫し一夏と談笑と続けていたが、向こうから一人の少女が歩いてきた。
 (あれは資料にあった……)
 束博士からもらった資料。その中の「最重要」と赤字で記されている人物の一人のこの少女が載っていた。
 それに、勇気を出して(?)やって来たんだ。俺は邪魔だな。

「まぁ、まずは慣れろ。話はそれからだ……っと客だぞ一夏」
「え?」
「……ちょっといいか」

 背後から呼びかけられ、一夏は後ろを向く。

「……箒?」
「…………」

 箒、篠ノ之箒。ISの開発者であり天才技術者である篠ノ之束の妹。黒髪ポニーテールで、すらりと整ったプロポーションをしている。
 一夏はちらりと俺に目を配る。

「いってこい、一夏」

 笑顔で一夏にGOサイン。一夏は頷きながら返答した。

「わかった。箒、廊下でいいか?」
「早くしろ」
「お、おう。優、あとでな」

 篠ノ之箒、結構グイグイいくな。一歩リードか?

 箒と一夏は教室から出て行った。その際に他の女子たちが進んで道を開け、ひそひそと何かを呟いていた。
 一夏は出て行き、教室内に残るは俺一人。猛禽類を思わせる視線が俺に突き刺さる。
 今まで分散されていた視線が一つに集まったのだ。更に他のクラス、学年の女子も集まっているだけに量だけは凄まじい。

「あの……高城くん?」

 篠ノ之妹の行動に触発され、ある女子が勇気を振り絞り俺に話しかけてくる。
 一夏と比べて、社交的でありたい。ここはもう一人の男子として職務を全うするとしよう。

「なんだい?」



 これは余談だが、休み時間が終わり、一夏()先生()から本日四度目になる出席簿アタックを受けていた。 ……八千万!!



*



「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法により罰せられ――」
 慣れた動作ですらすらと教科書を読み進め、授業を進めていくのは山田先生。ISの基本的なことは事前に全て頭の中に入れているから別に聞かなくても何ら問題ないが、蓄えた知識から考えるに、山田先生の教え方はかなり上手い部類に入ると思う。最初はただの教科書リーダーかと思っていたが、所々に補足を入れたり、重要なところは解るように丁寧に説明している。
 優秀だ、これだけの説明を聞いて理解できない奴なんかいないに違いない。
 俺はチラリと前のほうを見る。そこには教科書を無意味に捲りながら頭を抱える男子がいた。
 訂正だ。ISについて少々の予備知識を備えていれば、理解できるに違いない。
 
「織斑くん、何かわからないことはありませんか?」

 途中頭を悩ます一夏が気にしてか、山田先生が話しかける。一夏も自分に話が振られるとは思ってなかったようだ。「あ、えっと……」などともごもごと口を動かしている。

「わからないところがあったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」

 教え子の状態を把握するのも教師の勤めである。山田先生の行動はとても模範的なものだと思う。

「ほとんど全部わかりません」

 一夏の発言。元気よく発言するのはいいことなのだが、如何せん内容が内容だった。これのフォローは難しいと思う。俺が先生だったら、もうお手上げだろう。

「え……。ぜ、全部、ですか……?」

 山田先生の顔が引きつる。表情から「困っている」ということが用意に読み取る事ができる。
その後先生が「今の段階でわからない人~」などと生徒たちに聞くが、誰も手を上げない。

「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 教室の隅に立ち、様子を伺っていた織斑先生が見るに見かねて一夏に話しかけた。

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 因みにこの直後、先生の十八番(おはこ)である出席簿制裁を食らう一夏であった……一億!!

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」
「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと……」
「そうか……無理と言うか……じゃあ高城に聞いてみよう。おい高城、お前はどれだけかかった?」

 SHRと同じく、俺へと会話を振ってくる織斑先生。先ほど一夏も正直に答えたので俺も正直に答えることにする。

「そもそも参考書が届いたのが入学前日なんで、一晩ですかね?」

 これは真実だが、束博士に作ってもらった住所に参考書が届いたのはつい先日だ。
「前日にこんな参考書(爆弾)を送ってくるのか、IS学園は!?」と呆れていた記憶がある。まぁ既に束博士のレクチャーでISについての知識は十二分に入っていたから問題なかったが(ちゃんと参考書には目を通した)。
 ふと、先生の表情を見ると、頬が少しばかり引きつっているのが確認できた。
 この表情を見て、自分がどんな常識はずれな発言をしてしまったのかを理解した。そして、先ほどの俺の発言が一夏の首を絞める結果になってしまったということも。

「だそうだ。これで言い訳はできんぞ。織斑」
「で、でも――」
「ほう、一週間では長すぎると。いいだろう。それでは高城と同じ一晩にしよう」
「……一週間でお願いします」

 がっくりと肩を落とす一夏であった。



統合版。
古王の「一億!!」発言がやりたくて仕方が無かったんです!
次回はイギリスのお嬢様が登場!!


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