ADF地域フォーラム「障害者差別禁止法(仮称)の制定に向けて!」(1)

愛知障害フォーラム(ADF)
「障害者差別禁止法(仮称)の制定に向けて!」


基調報告
大阪精神医療人権センター 
事務局長 山本深雪さん

基調講演
差別禁止部会構成員
弁護士 池原毅和さん

地域からのメッセージの中で、
kyoちゃんが普通学級に入学したことの報告とお礼
来年就学予定の医療的ケアのある4人の普通学級へ入学の
応援と学習会参加呼びかけをさせていただきました。 

基調報告・基調講演ともに、大変内容の濃いお話でした。


   *   *   *

8月31日の差別禁止部会配布資料から「教育」を抜粋

「障害を理由とする差別の禁止に関する法律の制定等」に関する差別禁止部会の意見(部会三役の原案5)(各論後半)
【教育、商品・役務・不動産、医療、国家資格、婚姻・妊娠・出産・養育】より抜粋
第6節 教育

第1、はじめに

1、教育における差別の禁止
障害者権利条約は「教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、あらゆる段階のインクルーシブ教育制度及び生涯学習を確保する(第24条第1項)」としている。*1
このように教育について、条約上「この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現する」ためにインクルーシブ教育制度が確保されなければならないとしており、教育の分野において差別が禁止されることが前提とされていることに留意しなければならない。

2、一般教育制度からの排除等の禁止
その前提に立って、同条2項は、次のことを確保するとして、
1)一般教育制度から排除されないこと、*2
2)自己の生活する地域社会において、初等教育の機会及び中等教育の機会を与えられること、
3)合理的配慮が提供されること、
4)必要な支援を一般教育制度の下で受けること、
5)完全なインクルージョンという目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられることの5項目をインクルーシブ教育制度の在り方として規定し、さらに同条3項は、障害者が地域社会の構成員として教育に完全かつ平等に参加することを容易にするため、最も適切な言語、コミュニケーションの形態及び手段による盲人、ろう者又は盲ろう者に対する教育等を締約国が確保するとしている。
 

資料1
  UNESCO. The Salamanca Statement and Framework for *3 Action on Special Needs Education. 1994.(独立行
政法人国立特別支援教育総合研究所訳)

第2、分離排除から統合教育へ、そしてインクルーシブ教育

1、統合教育
障害者の統合教育に向けた先駆的な法制度として、アメリカの全障害児教育法(現在、障害をもつ個人の教育法The Individuals with Disabilities EducationImprovement Act of 2004)を挙げることができる。
 その法律には「公立や私立の教育機関、その他介護施設にいる障害をもつ子どもたちを含めて、障害をもつ子どもたちが、最大限適切であるように、障害をもたない子どもたちと一緒に教育される。特殊学級、分離による学校教育、又はその他通常の教育環境から障害をもつ子どもたちを移動することは、追加される援助やサービスの利用をもってしても、子どものその障害の性質や程度によって、教育目的を達成しえない場合に限定される
(20USC§1412)」という規定が設けられている。
 ここでは、限りなく統合された環境での教育が求められたので、統合教育という言葉で象徴されるが、世界の教育界では次第に障害者だけではなく、万人のための教育という視点から、インクルーシブ教育という考え方に発展していった。

2、ユネスコ「サラマンカ宣言」
 インクルーシブ教育という考え方を、はじめて、国際的に認知したユネスコの「サラマンカ宣言」(1994年)では、通常学級以外に就学する場合の要件として「特殊学校-もしくは学校内に常設の特殊学級やセクション-に子どもを措置することは、通常の学級内での教育では子どもの教育的ニーズや社会的ニーズに応
ずることができない、もしくは、子どもの福祉や他の子どもたちの福祉にとってそれが必要であることが明白に示されている、まれなケースだけに勧められる、*3 例外であるべきである。」とされている。


3、インクルーシブ教育
 障害者権利条約にあるインクルーシブ教育システムは、上記のような経過を踏まえたものであるため、特別学校における教育は原則としてインクルーシブ教育とは言えないことを前提として議論がなされた。


4、日本における原則分離の教育
 一方、我が国は、障害の種類と程度によって定められた基準に該当する場合には、原則として特別支援学校に就学先を決定する仕組みになっていることから、少なくとも、先に述べた障害者権利条約第24条の第1項及び2項に抵触していると言わざるを得ない状況である。そこで、本法においても、この条約を踏まえて、この分野における不均等待遇や合理的配慮の不提供が障害に基づく差別であることを明確にして、これを禁止することが求められる。


第3、この分野において差別の禁止が求められる対象範囲

1、差別が禁止されるべき事項や場面
1)入学の拒否、条件の付与
 教育の分野においては、障害があるとして地域の小学校に入学が認められず兄弟姉妹とはわかれわかれになるといった事例、保護者が一日中教室に付き添わなければ入学を認めないとされた事例、他の児童生徒に介助を求めない等の確認書に捺印しなければ就学通知を出さないとされた事例など、入学を巡る事案は多数存在する。

2)授業や学校行事への参加制限
 地域の学校に入学はできたものの、障害を理由に、たとえば、希望しない特別支援学級に籍を置かれたり、プールに他の児童、生徒と一緒に入れなかったり、調理実習、運動会は見学するだけであったりなど、特定の授業に参加できないとされた事例、遠足に保護者が同行しないと参加できなかったり、参加できたとしても見学コースに一緒に行かずにバスで待機しなければならないといった事例、さらには保護者の同行なしには修学旅行には連れて行ってもらえないといった事例もある。
 したがって、教育の分野において差別が禁止されるべき事項は、入学、学級編成、転学、除籍、復学、卒業に加え、授業、課外授業、学校行事への参加など、教育に関するすべての事項である。

2、差別をしてはならないとされる相手方の範囲
 教育分野において、差別をしてはならないとされる相手方としては、学校教育法第1条に定められている学校、すなわち、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校の設置者(同法第2条)である。


 なお、教育機関ではあるが上記に該当しない設置者により設置された幼稚園、認定子ども園、専修学校、各種学校、職業訓練校、予備校、私塾、または、教育機関には位置づけられないが同世代の子どもたちを対象とした保育園について、本法における教育の分野の対象とするか、【役務】【雇用】の分野で対応するのか、整理が必要である。

第4、この分野で禁止が求められる不均等待遇

1、不均等待遇の禁止
 先に述べたとおり、教育の分野においては、入学、学級編成、転学、除籍、復学、卒業に加え、授業、課外授業、学校行事への参加に関して、障害又は障害に関連した事由を理由とする区別、排除または制限その他の異なる取扱いは、不均等待遇として禁止されるべきである。
 ただ、人生の岐路にあってその選択に責任を持てるのは、本人もしくは本人にもっとも身近な関係者であるべきであるので、特に教育の分野においては、本人・保護者が望まない場合を不均等待遇の前提にすべきである。
 したがって、たとえば、入学に関して言えば、障害者または保護者が学校等の教育機関への入学を求めたにもかかわらす、障害を理由に拒否することは、不均等待遇として差別に該当することになる。


障害者又は保護者が特別支援学校への入学を希望する場合もあるが、これは不均等待遇には当たらない。

2、不均等待遇を正当化する事由
 総則で述べたとおり、当該取扱いが客観的に見て、正当な目的の下に行われたものであり、かつ、当該取扱いがやむを得ない場合には、不均等待遇を正当化する事由があるとして、差別の例外となる。
 もっとも、教育の分野において、当該取扱いがやむを得ないと言えるためには、学校及び学校設置者等が合理的配慮を尽くしても障害者の教育目的を達成しえない場合でなければならない。
 それは、先の述べた「障害をもつ個人の教育法」にあるように「追加される援助やサービスの利用をもってしても、子どものその障害の性質や程度によって、教育目的を達成しえない場合」あるいはサラマンカ宣言にあるように「通常の学級内での教育では子どもの教育的ニーズや社会的ニーズに応ずることができない、
もしくは、子どもの福祉や他の子どもたちの福祉にとってそれが必要であることが明白に示されている」場合だけに限定されている趣旨と同じである。

第5、この分野で求められる合理的配慮とその不提供

1、合理的配慮とその不提供の禁止
 合理的配慮の不提供が差別として禁止されるものであり、過度の負担が生じる場合にはその不提供に正当化事由があるとして差別禁止の例外となることについては、総則において述べたとおりである。

2、この分野で求められる合理的配慮の内容
 合理的配慮は、その状況に応じて個別的に判断されるものではあるが、教育の分野に求められる合理的配慮としては、障害者が、授業や課外活動等の教育活動に完全に参加するために教育方法や内容を変更したり、調整したりすることが求められる。たとえば、授業等に関して、
1)障害特性に適応した情報伝達手段を用いた授業
2)障害特性に適応できる態様の授業
3)障害特性に応じて利用可能な形態の教科書、教材の提供
4)利用可能な物理的環境の提供
5)必要な人員の配置
6)その他必要な変更及び調整
  

などをあげることができる。
 特に、1)については、点字、拡大教科書及びデジタル教科書等の個々の障害に応じた教科書や教材の提供がある。また、手話での教授や手話通訳者又は要約筆記者の配置等もこれに含まれる。
 また、2)は知的障害や発達障害のある児童、生徒及び学生について、授業の内容をわかりやすく構造化して示したり、使いやすい教材の工夫が求められる。
以上のほか、試験では、試験時間の延長をしたり、筆記が難しい場合には解答欄を大きくする、パソコンで試験を受けられるようにする等が必要になる。特に、入学試験については、個別の障害に応じて合理的配慮が提供されるべきである。
 なお、教育における合理的配慮は、障害者本人に提供されるものだけではなく、保護者に障害がある場合も含むべきである。とりわけ、子どもの授業参観や学校行事に参加できないことがあれば、その子どもに対して教育的な影響があるからである。

3、合理的配慮の不提供を正当化する事由
 合理的配慮を提供することが過度の負担であると認められる場合、これを提供しないことに正当化事由があることになり、差別の例外に当たることになる。
 その際、特に義務教育においては、そもそも、その条件整備はこれを提供する側の責務であること、合理的配慮がなければ、実質的に誰でも保障される義務教育の機会が十分に保障されないことに鑑みると、その例外は極めて限定的である必要がある。
 
また義務教育に関して、私立学校については私学助成として公的な助成が行われており、過度な負担であるかどうかについての判断は、これを踏まえたものであるべきである。

第6、その他の留意事項

1、合理的配慮の実現のプロセス
 合理的配慮の実現に関しては、学校設置者が、障害者または保護者の求めに応じて、必要な変更や調整を行う義務を負うことになるが、具体的には、関係者による話し合いを経て、内容を決定するのが妥当である。

2、内部的紛争解決の仕組み
 教育行政の現状においては、司法救済や行政不服制度以外の救済の仕組みがないため、障害者及び保護者と学校及び学校設置者と意見が一致しない場合に、調整するための機関は設けられていない。
 意見が一致しない場合でも、まずは、内部的な解決が望まれるが、障害者及び保護者が学校に対し対等な立場で意見を述べる事が困難であるという点に鑑みると、障害者及び保護者の立場を支援する第三者が参加しながら意見の調整が図られる仕組みが必要である。

3、高校進学
 高等学校への進学率は98.1%であると言われており、実態的に義務教育と同様になっていることから、知的障害者も高校での教育の機会が保障されるべきである。
 定員を満たしていない高校も存在している現状を考慮すると、知的障害者の高校進学の機会をどう確保していくかについて、政府において検討し、必要な措置を取ることが求められる。

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