8日、野田佳彦首相は、自民党、公明党のトップと会談し、3党合意を踏まえての消費増税関連法案の早期成立で合意したことを明らかにした。マクロ経済の視点で見れば、いま消費税引き上げを決め、1年半かけて経済を立て直していかなければ、日本は立ちゆかなくなる。我が国の将来を見通しながら、消費税のあるべき姿を大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏に聞いた(聞き手は、伊藤暢人)。
「消費税増税はやむを得ない」と覚悟をした人が増えつつある印象ですが、本当に、増税は必要なのでしょうか。
熊谷:「やむを得ない」と言うと、必ず、「増税の前にやることがある」と反論されます。ただ、実は、この議論は、1979年に当時の大平内閣が一般消費税の導入を検討したときから、30年間以上にわたって繰り返されているのです。「増税の前にやること」とは、歳出のカットであり、経済成長戦略を実行することで、あたかも正論のように聞こえます。しかし、この議論は、論点を拡散させることによる「先送りの論理」なのです。こうした議論を通じて、安易な「先送り」が繰り返されてきた結果、わが国は世界最悪の財政状況に陥っています。
消費税増税に否定的な人は、増税が経済を停滞させると主張しています。1997年4月に消費税率が3%から5%へと引き上げられた直後には、駆け込み需要の反動減もありました。また、この後、急速に景気が悪化しています。
熊谷:確かに、1997年の1〜3月は、駆け込み需要が発生し、導入直後の4〜6月は、消費が減少しています。
しかし、7月から9月にかけては、すでに引き上げ前と同じレベルにまで、消費は回復しています。海外の事例を見ても、消費税率引き上げ後に一時的に経済は停滞しますが、すぐに元に戻っています。
また、消費税導入が日本の不況の主因であったかというと、それも違います。この頃に景気が悪化した主因は、まず、山一證券の廃業や北海道拓殖銀行の経営破綻、そしてアジア通貨危機という、日本経済を停滞させる2つの要因が、国内外にあったことです。
ですから、消費税率アップが日本経済をダメにしたのではなく、他の理由で日本経済がダメになる直前に、折あしく消費税率がアップされたと捉えるべきです。
現在も、消費税増税以外に、経済を悪化させそうな外因が多くありますが。
熊谷:消費税率を上げてはならない局面というのが2つあります。第一に、たいへんなインフレが起きている時期です。今の日本はこれに当てはまりません。第二に、地雷を踏みそうなときです。たとえば今、欧州で起きているソブリン危機が、リーマンショックと同等のレベルにまで拡大し、世界中、そして日本へも大きな影響を与えるような場合です。
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