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株式会社Birthday Eve 代表取締役社長 水谷 隆氏●この先、まだまだアーティストは増やしていかれるんですか?

水谷:ある意味、人の人生背負ってしまいますので、テスト期間をきちんと設けさせてもらって、それを乗り越えた子しかBirthday Eveは獲りません。やはりBirthday Eveはアーティスト単体で成り立っているわけじゃないんですよ。先輩のアーティストがいて、そこを目指している子たちがいて、学校みたいになっていますから、そこのバランスを崩すのは嫌なんですね。ですから、真摯に向き合ってくれる子だったら増えてもらってもいいですし、来るもの拒まず去るもの追わずですから、辛いって言うならどうぞ、みたいな感じです。そういうことが普通でいいんじゃないですかね。スカウトしてきてどうのこうのなんて気もないですしね。まず本人が何をしたいか、そして、Birthday Eveとして何ができるかという、その関係でしかないんですよ。

●「CDが売れない」と言っている時代に、いわゆるメディアの力を一切借りずに、体ひとつだけで、そういうことが現実に起こるんですね。

水谷:そうですね、もっとマーケットへ近いところに出掛けていくという感覚がないと売れないのに、とりあえずCDショップに置いて、宣伝さえすれば10のうち1つは当たる、みたいな考え方は時代遅れだと思います。

●配信やフェイスブック、ツイッター、YouTubeなどメディアは色々ありますが、路上ライブが最もインパクトがあり、効果的にファンを獲得する手段だということですか?

水谷:はい。メールやネットのおかげで便利になりましたが、使い方が違うと思います。結局リアルに人の言葉を聞いて、人と対面して熱を感じてやっていかないと、人の心は動かないんですよ。営業の基本というのは、できるだけ多くの人とどれだけの密度で会えるかと言うじゃないですか。まずそこを忘れて、お金を使って宣伝したら買ってくれるなんてことを思っていること自体違うと僕は思ったので、まずはこちらからお客様の元へ出掛けていく。そしてリアルに話をすることがとても重要だと思います。

●やはりみなさんトークも上手なんですか?

水谷:いや、トークというよりも熱意ですね。「すごいな」と思ったのは、最近入ってきた新人の子なんですが、「およそこの人は買ってくれないだろう」というお爺さんにまでも挨拶しに行って握手して「よろしくお願いします」とやっているんですよ。そうすると、お爺さんが「何やっているの?」と近くに寄ってきてくれて、CDを買ってくれたりするんですね。

門谷もそうで、おおよそこの人買ってくれないだろうという人のところにわざわざ行って、チラシを渡して、無理強いじゃないけども、ともかく「聴いて下さい」と言って挨拶して帰ってくる。つまり、売れる子って、アーティストの曲に合った、またイメージに合ったプロモーションの仕方が自分でできているんですよ。もちろん、そこまでいくには、一年二年かかりますから、急にできることではないですよね。でも、そういう先輩の姿を見て、新人の子たちが真似して、徐々に自分なりのやり方を見つけ出していくんですよ。

●宮崎さんの初武道館公演は11月2日だそうですね。路上から這い上がってきた女の子が武道館のステージを実現するというのは、ものすごく夢のある話ですよね。

水谷:そうですね。リアルにそういう夢を実現できた人がいるということだけで、「私でも頑張ればできる」と後輩が続いてくれると思いますし、音楽業界に活気が出てくると思うんですよね。

●宮崎奈穂子さんも含めて、メジャーと契約する予定はないんですか?

水谷:メジャーからお話は来ています。ただ、その子の人生をメジャーに預けたとして、ちゃんと結果が見えなかったので、現時点で預ける気は全くないです。例えば、今度、路上ができなくなったら、路上で売っていた以上に売れる仕組みをメジャーが作ってくれるか?といったら、作ってくれません。また、「どうしてもうちの会社でやりたい!」と熱意が伝わってくるならまだいいんですが、そういったものも感じないんですよね。そんなところにウチの子供たちを渡すわけにいかないですよ。

●音楽業界的に水谷さんの手法なりやり方は、みんなすでに認識しているんですか?

水谷:なんとなく気にはなっているようですが、「何であんなことができるのか?」と不思議に思われているのかもしれません。

●既存のシステムに対するアンチテーゼと言いますか、そういったやり方でここまで来られるんですから、やはりすごいですよね。

水谷:そもそも、僕も「ミズタニズム」というか、「宗教団体じゃないの?」と勘違いされたこともありますが(笑)、Birthday Eveは宗教団体でも何でもなくて、リアルにアーティストと向き合って話をしているだけなんですよ。ただそれだけなんです。

●当たり前のことを、熱意を持ってしているだけだと。

水谷:はい。今レコード会社へ行っても、熱を感じないんですよ。本当に熱を感じない。それで数字だけ見るんですよ。とりあえず。「この子は何枚売れる?」と。その前に「音を聴いてください」って思うんですが。

●音楽の話ではなくてタイアップの話とかにすぐなっちゃいますものね。

水谷:ウチはタイアップ必要ないんですよね。ただ、そうは言っても、路上からここまで来た子たちの世界をもっと広げてあげないといけないと思っています。今、映画の話を頂いていたり色々お話が来ていますから、そういうことを現実化していって、広く一般の方たちが「ああ、結構いい歌を歌っているな」と思って頂けるようにしていきたいですね。

●スタートはストリートですが、ずっとストリートでやっていくというわけではないと。

水谷:もちろん。宮崎はずっと路上でやりたいとも言っていますが、今度は彼女たちが路上だけじゃなくても仕事ができるようなことも考えていますし、宮崎奈穂子もKado junも伊吹唯もこれからそれぞれ違う方向に行きます。「ここにいけば大丈夫」というところが僕の中で見えていますので、今度はそこに向かっていきたいなと思います。