牧太郎の大きな声では言えないが…:「竹島密約」の知恵

毎日新聞 2012年10月16日 東京夕刊

 韓国時代劇にハマって、大まかな韓国史も学ぶようになった。

 例えば、最近、夢中になった「王女の男」。このドラマは幼くして即位した李氏朝鮮第6代国王・端宗(タンジョン)を王の座から引きずり降ろそうとする叔父・首陽大君(スヤンテグン)(第7代国王・世祖(セジョ))。皮肉にも、その娘は政敵の息子と恋に落ちる。首陽大君が起こしたクーデター「癸酉靖難(ケユジョンナン)」(1453年10月)が“舞台”になっている。

 権力を手に入れるためには、親兄弟、親族でも殺し合う。鎌倉時代の日本でも同じようなことが起こったが、韓国の政治も血で血を洗う「怨念(おんねん)の歴史」だ。

 半世紀前の1961(昭和36)年、当時の第2軍副司令官だった朴正熙(パクチョンヒ)が「学生デモを鎮圧する」という口実で、軍事クーデターを起こし、その後大統領の座を手に入れた。その朴正熙大統領も79年10月、暗殺されている。

 殺されないにしても、歴代の韓国大統領は権力を失った退任前後に身内の不祥事などが発覚。自ら訴追を受ける“惨めな結末”を迎える。李明博(イミョンバク)大統領も実兄が逮捕された。

 大統領が突然、竹島上陸に踏み切ったのは世論の支持を得て、窮地から脱するつもりだったのだろう。

 しかし、この大統領は歴史を学んでいるのだろうか? 「竹島密約」を知らなかったのか? 知っていながら隠したのか?

 日韓基本条約締結の5カ月前の65年1月、当時の自民党実力者、河野一郎国務相と丁一権(チョンイルクォン)首相は「竹島・独島問題は解決せざるをもって解決したと見なす」という密約を結んだ(ロー・ダニエル著「竹島密約」草思社)。竹島問題を日韓の係争地と認めた上で、棚上げする。それぞれの「正義」がぶつかると、日韓は袋小路に入ってしまう。

 当時の朴正熙大統領は竹島問題を棚上げして、1965年、日韓条約を結び、日本から10年間で無償3億ドル、有償2億ドル、民間借款3億ドル以上の経済協力を引き出した。当時1ドル=約360円。今の貨幣価値で約4兆5000億円相当である。

 経済優先の朴政権の選択には賛否入り交じった。しかし「漢江の奇跡」と称賛される韓国の経済成長は日本の協力が無ければ実現しなかった。

 「竹島密約」の知恵。偏狭な領土ナショナリズムは不毛の対立と憎悪を残すだけ……と“隠れた歴史本”が教えている。(専門編集委員)

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