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万能細胞iPS細胞作った
今年のノーベル医学生理学賞が、京都大学の山中伸弥教授(50歳)に贈られることになりました。イギリス・ケンブリッジ大学のジョン・ガードン教授(79歳)との共同受賞です。山中さんは、いろいろな組織(細胞)になりうる能力をもつ万能細胞「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」=メモ=を作り出しました。細胞を移植する治療法や病気になる原因の解明、新薬の開発に向け、新しい道を開きました。
新たな治療・薬開発に道
山中さんがiPS細胞を作ることに成功したと論文発表してから、まだ6年ちょっとしかたっていません。ノーベル賞は、成果を出してから何十年もたって受賞することが多く、それだけ山中さんの発見が生物学という学問に衝撃を与えたことを示しています。
細胞は、生き物の体を作っている小さな粒のことです。わたしたちヒトの体は、200種類以上、60兆個の細胞でできています。これはもとをたどれば、たった1個の細胞です。お父さんの精子とお母さんの卵子が出あって、1つの細胞になった「受精卵」からできたものです。
受精卵が分割して細胞が増えていき、心臓や肝臓、脳などの組織の細胞になっていきます。受精卵は体のどの細胞にもなれる能力をもっているのです。しかし、心臓や肝臓など、特定の役割をもつようになるといろんな細胞に変化する力を失ってしまい、受精卵のような状態にもどる「初期化」はしないと考えられていました。
こうした「常識」をくつがえしたのが山中さんらです。今回の授賞理由は、特定の役割をもつ細胞を初期化し、いろんな細胞になりうる能力をもたせたことです。 最初に道を作ったのがガードンさんで、1960年代にオタマジャクシの体細胞を操作して初期化する方法をつきとめました。
山中さんは2006年8月、マウスのしっぽから採った体細胞に4つの遺伝子を入れることで、さまざまな細胞になりうる能力をもつiPS細胞を作ったと発表。07年11月にはヒトの皮膚の細胞でも成功したと発表しました。
iPS細胞はさまざまな応用が考えられます。iPS細胞を神経の細胞に育ててけがで傷ついた神経の代わりにしたり、病気の心臓や肝臓の代わりの臓器を作ったりする「再生医療」が実現できる期待があります。iPS細胞から育てた神経や肝臓などの細胞で、新しい薬の効果や副作用を試すこともできそうです。
一方で、iPS細胞を作る過程で「がん細胞」になってしまうおそれがあるなど、実用化には課題もあります。理論上は精子と卵子を作って新しい生命を誕生させることができ、新たな倫理の問題も浮上しています。
朝小に語る「子どもたちへ」 若いうちほど大失敗して/科学者はかっこいい職業
「みんなで力をあわせて目標にむかえばできないことはありません。夢はかないます。ぜひみんな夢を持って、一人ではなく、力を合わせてがんばってもらいたいと思います」 ノーベル賞受賞決定の知らせから一夜明けた9日、山中さんは朝小の取材にこたえ、全国の子どもたちにこんなメッセージをおくりました。
前夜の会見で受賞の感想を「感謝」という言葉で表現した山中さん。同僚や友だち、家族が心の支えになりました。
ここまでの道のりは順調ではありませんでした。大学を卒業後、手術が下手で整形外科医になるのをあきらめました。口の悪い先輩からは、じゃまばかりで役に立たないことから「ジャマナカ」と呼ばれたこともあります。研究者になってからも何度も壁にぶつかりました。
「ジャンプしようと思うと、かがまないとだめ。おもいっきりかがむことは、次にジャンプするためだということをわかってほしい」といいます。
「かがむ」とは「失敗」のこと。「失敗は成功するために必要なこと。失敗しなければしないほど、成功は遠のいていきます」。子どもたちにも「若いうちほど失敗は許されるので、大失敗してもらいたいですね」といいます。
小学生のころから、算数や科学が好きでした。でも、国語や覚えることが多い社会は苦手だったそうです。科学者をめざしたのは、中学生のときに先生にすすめられて読んだ『地球の科学』(NHKブックス)という本がきっかけの一つでした。
「アフリカ大陸と南米大陸はくっついていたのでは、という仮説を検証する科学者のドラマを書いた本でした。わくわくしたのを覚えています。いまの私にもつながっていると思います」
山中さんにはひとつの信念があります。それは「科学者はかっこいい職業だ」ということです。
「科学者は正しい科学技術をつくり、国をかえていきます。日本は石油などの資源が限られている国ですが、科学者は研究の成果を次々にうみだし、世界に大きな影響をおよぼせます。ぜひ、多くの子どもさんたちに科学者をめざしてほしい」
ノーベル賞の受賞は「光栄」ですが、まだ医学や薬の開発に役立っていないといいます。「iPSという技術で患者さんを助けるのがわたしの夢です」
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2012年10月10日付 |
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