ブログ:韓国政権交代の経済的意味
河口 浩一
物言えば唇寒し秋の風――。竹島上陸や天皇陛下に謝罪を求めた発言で物議を醸した韓国・李明博大統領の動静が穏やかになった。中国に広がった過激な反日デモのせいで影が薄くなってしまったのか。それとも任期が迫る大統領としてレイムダック化する中で、事を荒立てても詮無いことと思い直したか。
日本人の国民感情を逆なでした「謝罪要求」発言が政治的、文化的、歴史的に意味するものは大きいが、価値観は様々であり議論は尽きないだろう。いずれにしても李大統領は来年2月に任期切れとなる。ここでは韓国政権交代の経済的な意味を考えてみよう。
2008年2月に就任した李大統領は「747」計画(7%経済成長、1人当たり4万ドルの国民所得、韓国を世界7大経済大国にする)に象徴される成長戦略を掲げてスタートしたが、実際にはウォン安誘導による大企業優遇政策に終始した。
サムスン電子(005930.KS: 株価, 企業情報, レポート)、現代自動車(005380.KS: 株価, 企業情報, レポート)など一部の財閥系企業が肥大化し、中堅、中小企業は厳しい経営を強いられている。相対的なインフレ率は高く国民の景況感は改善していない。国民の不満の行き場がなくなり、韓国世論の人気を得るべく「竹島(韓国名・独島)訪問」を敢行したとみられても仕方ない。
12月19日の大統領選を前に、現状は与野党3候補の三つ巴となっているが、程度の差はあれ各候補とも財閥への規制強化を訴えている。特に最大野党・民主統合党の文在寅候補が勝てば、財閥規制の強化は必至とみられている。ウォン安政策も修正を余儀なくされ日本企業にも浮上の芽が出てくる。韓国の新政権発足後は、パナソニック(6752.T: 株価, ニュース, レポート)、ソニー(6758.T: 株価, ニュース, レポート)など国内電機AV大手や新日鉄住金(5401.T: 株価, ニュース, レポート)などの鉄鋼大手が復活する可能性もありそうだ。
日韓通貨スワップ協定の拡大措置が延長されない結果、一段とウォン安が進み韓国企業が有利になるとの見方もあるが、問題はそれほど単純ではない。これ以上のウォン安は、中間財や輸入価格の高騰につながり、韓国経済の方が大打撃になるとの指摘もある。韓国経済のかじ取りは非常に難しい局面といえる。
もはや韓国、中国には勝てないなどと自虐的にならず日本企業もそろそろ自信を回復すべきだろう。マーケティング力の弱さを克服できれば、技術力では負けない。8日から始まったノーベル賞の発表で、京都大学の山中伸弥教授が医学生理学賞を受賞した。日本は最近10年間の自然科学系(医学生理学、物理学、化学)の受賞者数が米国に次いで世界2位だ。韓国、中国は自然科学系で過去に一人の受賞者も出していない。
(10日 東京 ロイター)
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