「編集長インタビュー」

日本人が想定外の問題に対応できない本当の理由

齋藤ウィリアム浩幸さんに日本の問題解決の方法を聞く【1】

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2012年10月17日(水)

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齋藤:ただ、そのリスクを完全に防ぐことは難しい。時々、想定外の問題が起こる。全てのリスクについて、前もって手を打てるかどうかと言うと、それはできない。そこで、リスクが発生する度に、微調整したり、対策を打ったりするのがチームなのです。いろいろな人の意見を聞き、議論し、完全ではないけれどもベストソリューションを探すプロセスです。イノベーションはこういったプロセスそのものを指す、ということもできます。

 これまで数多くのアイデアを見てきましたが、1人でイノベーションを実現しているという例は世の中にほとんどありません。必ず2人とか3人で始めている。最近はノーベル賞も1人で受賞するケースは少なくなっています。お互いの意見を聞きながら、お互いの意見を足し算したり、掛け算したりして、リスクを分散して、対策をたて、具体的な成果につなげるプロセスがチームの一番大事な部分なんです。

チームにはダイバーシティーがとても大事

いろいろな意見とか、いろいろな人がいるというのがチームには重要なのでしょうか。

齋藤:そうなんです。ダイバーシティー、つまり多様性というのがチームには不可欠です。日本は残念ながら、多民族国家であるアメリカに比べてダイバーシティーが非常に少ない。個々の頭脳レベルは高いけれど、組織の在り方は、ダイバーシティーに欠けていると思います。年齢や性別に関係なく意見を普通に伝え、お互いに普通にコミュニケーションできる組織もめったにないし、そのような組織・企業風土もない。悪いことは悪い、間違っていることは間違っている、リスクはリスクと、誰もが自然に言える環境にしないとまずい。そういったコミュニケーションがまともにできない結果が今の日本の閉塞感を招いていると思います。

同じような経歴の人ばかりとか、男ばっかりとか、女ばっかりとか、同じような人が集まってもイノベーションが生まれないのはなぜですか。個々の人はみな、優秀だと思いますが…。

齋藤:同じ畑から出た優秀な人というのは、グループ構成員としては合っているんです。同じ人が1ミリずつ物をこつこつと良くしていく。改善という言葉がありますよね。英語で言う、インクリメンタルイノベーションをやっていくという面では合っています。

 グループという概念、グループという組織は悪くはないんです。例えば、高度成長の時代にはグループはすごく合っていました。ただ、時代が変わっていくとき、グループの目標である改善という概念は使えません。グループの場合は、今までのやり方を守る力が強くなりますが、ちょっと変わった人が新しい目標設定について考えるイノベーションには合わない。しかも、時間軸がすごく短くなっていて、イノベーションの方法がどんどん進んでいる中では、改善の結果イノベーションを生むことを待っている暇はもうないんです。

 時間軸が短くなっただけでなく、世界のあらゆるところでいろいろな変化が起きている。そんな中で、ゆっくりと微調整していく時代ではもうなくなったのです。

これまでの方法を踏襲するためのグループではなく、イノベーションを生むチームをつくるためには、女性の登用がカギだとおっしゃっていますね。

齋藤:OECDの中でも日本は、女性と一緒に仕事することについて遅れています。女性がキャリアをつくるのがシステム的に難しいんですね。女性がもっと活躍できるようにするだけでもGDPが15%も伸びるというデータもあります。

 日本の学生と話していて思うのですが、男性は、大学に入って、卒業して、就職して、課長になって、家を買って、結婚して、部長になって……という、エスカレーターに乗らないといけないという社会的ルールがあるようですね。

 一方女性はそういったルールに基づかない生き方ができる自由が男性よりあるようです。結婚相手を探して専業主婦になるのがいいという雰囲気も最近感じますが、そうではなく、海外で勉強をしたり、冒険したりして自分の世界を広げている女性は多い。本当は男性もそういう経験をするべきなんですが、組織に縛られていると、そういう余裕がない。


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  • 2012年10月17日
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飯村 かおり(いいむら・かおり)

日経ビジネスオンライン編集長。

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