社説:加工用米の不足 政策に市場原理生かせ
毎日新聞 2012年10月17日 02時30分
人間の口に入るせんべいやみそは古米で作るが、牛や豚は新米を食べる。そんないびつな現実が広がりつつある。
加工用のコメが不足し、農水省が備蓄している古米の売却を進める。一方で、多額の補助金をもらえる飼料用のコメは増産が続く。ゆがんだ農政のツケといえ、是正にはコメ政策の抜本的な見直しが不可欠だ。
加工用のコメは、2010年度から戸別所得補償制度の対象になったが、昨年度の生産量は15万5000トンと、09年度に比べほとんど増えていない。
その一方で、需要は高まっている。昨年7月に米トレーサビリティー制度が導入され、食品メーカーが原料米の産地表示を義務づけられたことで、国産志向が強まったからだ。今年度は主食用のコメの作柄がよく、品質検査ではじかれ、加工用に回るものが少なくなりそうなことも品薄感に拍車をかけている。
需給の逼迫(ひっぱく)で、加工用米の価格は1年前に比べ4割前後も値上がりしている。そこで、農水省は06年産の備蓄米8万トンの売却を決め、今月中に入札を実施する。
一方、家畜のえさになる飼料用米も戸別所得補償制度の対象になった。昨年度の生産量は18万3000トンと09年度の約8倍に達し、加工用を逆転した。
飼料用は、作付け10アール当たり8万円の補助金がもらえる。それに対し、加工用米への補助金は2万円にとどまる。品質管理が容易で補助金も多い飼料用に生産が集中するのは、当然だろう。
農水省が飼料用に高額の補助金を出すのは、食料自給率を引き上げるためだ。日本の自給率は39%(カロリーベース)しかなく、政府は20年度に「50%」に引き上げるとの目標を掲げている。
食肉はカロリーが高いが、外国産の飼料で育てた家畜の肉は自給率に算入できない。裏返せば、国産の飼料を増やせば、カロリーベースの自給率を効率的に引き上げられるわけだ。そんな「数値目標」至上主義が今日の事態を招いたといえる。
主食用のコメの価格が高止まりしていることも、加工用が不足する一因になっている。一部の外食産業がコスト抑制のために、加工用に回ってもおかしくない品質の主食用米を利用しているからだ。