アジアの通信会社による投資の歴史は成功とは言い難い。しかし、ソフトバンクによる米スプリント・ネクステルの200億ドル(1兆5700億円)での買収は、注目される買収を行ってきた企業家精神あふれるソフトバンク創業者のおかげで、例外となるかもしれない。
アナリストは、ソフトバンクの孫正義社長は企業買収の経験と米国の企業文化の知識を兼ね備えている、と指摘する。孫氏は、1981年に創業したソフトウエアの流通会社をインターネット・通信のコングロマリットに変え、数十年にわたり米シリコンバレーや中国の起業家との取引経験がある。
アナリストによると、こうした経験を持つ孫氏は、既存企業の社内のはしごをよじ登り、主に国内問題にのみ対処する大方のアジア企業のトップとは違うビジネスリーダーだ。東海東京調査センターのアナリスト、角田佑介氏は日本で野心的なビジネスができる人は誰かと言われたら、まず孫氏の名が挙がると話した。
孫氏には難しそうに見える取引を成功させる能力がある、とのアナリストの評価は主に、2006年の英ボーダフォン・グループの日本法人買収から来ている。この買収はスプリント買収以前ではソフトバンクとして最大規模だった。投資家やアナリストは当初、この買収を懐疑的な目で見ていたが、このモバイルビジネスは過去数年の同社の華々しい成長に大きく寄与することになった。同社は08年、アップルの「iPhone(アイフォーン)」を販売する日本で最初の通信会社になった。
ボーダフォンとの取引は別にして、ソフトバンクは米ヤフー、中国のEコマース大手アリババ・グループ、中国のインターネット交流サイト(SNS)運営会社レンレンなど、多くの海外企業に投資した。同社はヤフーの持ち株の大方を売却したが、アリババの31.9%、レンレンの34.1%の株式を依然保有している。
日本で第3位の携帯電話会社であるソフトバンクがスプリント買収で成功を収めれば、米国市場で成功した初のアジアの通信会社となる。日本の携帯電話サービス業界トップのNTTドコモは2000年、米AT&Tワイヤレス・サービシズの16%の株式を98億ドルで買収した。しかし、2年後、ドットコム株のバブルがはじけて米国の株価と景気が落ち込む中で、この投資を減損処理した。
ドコモの広報担当者は、この投資が期待した利益を生まなかったと認めた。同社は06年、インドの携帯電話会社タタ・テレサービシズの26%の株式を買収したが、タタは現在利益を計上していない。ドコモの坪内和人副社長は6月のインタビューで、タタは今後数年間利益を出さないだろうとの見通しを示した。
角田氏は、ドコモやその他多くの日本企業が海外での企業買収を完全には生かせない要因の一つは、投資対象企業の経営スタイルに精通している企業トップがいないことだ、と指摘した。ドコモの広報担当者は、同氏の見解へのコメントを拒否した。
アジアの通信会社による米企業投資のもう1つの失敗例は韓国のSKテレコムで、同社は08年、合弁携帯電話会社ヘリオをバージン・モバイルUSAに売却することで合意した。SKテレコムはヘリオを05年に設立していた。
確かに、ソフトバンクのスプリント買収には、規制当局からの承認など潜在的な障害がある。資金力のある日本の銀行からの融資獲得に問題はないが、06年のボーダフォン法人買収絡みで100億ドル以上の債務を抱えるソフトバンクはさらに巨額の債務を背負うことになる。こうした懸念を反映して、同社株はスプリント買収計画が最初に明らかになった先週以降、大きく下落している。
しかし、ソフトバンクをはじめとする日本と韓国の通信会社には、国内市場が飽和状態にあることから、成長のために海外に目を向ける以外の選択肢はほとんどない。米国市場に入ることでソフトバンクははるかに大きなユーザー基盤を手に入れ、長期的にはこれが調達や維持費用の削減に役立つ可能性がある。ドコモの坪内氏は6月のインタビューで、日本の携帯ユーザーの数は増えないので、海外に活路を見出すしかないと述べている。