'12/10/16
井笠鉄道 バス事業廃止 住民への影響最小限に
利用者のことを考えた判断といえるのか。突然のバス事業の廃止は批判を免れない。
広島県東部や岡山県西部で路線バスを走らせる井笠鉄道(笠岡市)が今月末でバス事業を廃止する。長年、「井笠バス」として住民に親しまれてきた。
国や広島、岡山両県、地元の自治体でつくる対策会議はきのう、両備ホールディングス(岡山市)に対し、傘下の中国バスが路線を引き継いでくれるよう要請した。
通学や通勤でバスを使っている住民は不安を募らせる。官民が協力し、地域への影響を最小限に抑えてほしい。
井笠鉄道がバス事業の廃止を決めたのは、マイカー利用の増加や人口の減少で乗客数が落ち込み、1980年度をピークに収入が減り続けているためだ。最近は燃料費の高騰も経営悪化に追い打ちを掛けた。
路線の廃止・縮小や人員の削減を進め、国や自治体からの補助金で赤字を穴埋めしてきた。それでも10年以上続いた赤字経営から抜け出せなかった。
とはいえ、唐突な感は否めない。道路運送法はバス事業をやめる場合、半年前までに廃止届を運輸局に提出するよう義務付けている。それが守られなかった。もっと早く国や自治体と対応策を話し合うべきだった。
中国運輸局の対応にも首をかしげる。6月下旬に井笠鉄道から事業報告書の提出を受けたが、危機的な状態とは認識していなかったという。
8月下旬の会社からの報告でようやく深刻な状況を把握し、路線の引受先を水面下で探したが、間に合わなかった。監督する立場の運輸局は、経営の実態をしっかり把握しておかなければならない。
補助金を支出していた地元自治体のチェックも十分とはいえなかっただろう。突然の廃止となった背景には、行政の側にも危機感の薄さがあったからではなかろうか。
当面の対策はどうすべきか。利用者からすれば、使っている路線が来月からすぐになくなったのでは、どうしていいか分からない。
まずは行政と他のバス会社が連携し、一定の期間は可能な限り井笠鉄道の路線を維持する努力が求められよう。その間に、バス利用の実態や潜在需要をあらためてきちんと調査する必要がある。結果を踏まえ、路線の効率化や代替の交通手段を検討すべきだ。
路線バスの経営が苦しいのは、井笠鉄道だけではない。全国のバス会社のうち7割が赤字経営に陥っているという。
今のままの状態を放っておけば、今後もバス会社の経営行き詰まりが相次ぐ可能性がある。
将来を見据え、各地域が公共交通の再構築を議論することが不可欠だ。路線バスだけではない総合的な対策が求められる。
いち早くバス路線の縮小に見舞われている中山間地域の取り組みは参考になろう。小型のコミュニティーバスの運行や、自宅まで迎えに来てくれて乗り合いでそれぞれの目的地まで行ける「デマンド交通」を地域が手掛けている。
今後の人口減少を考えれば、中国地方の多くの都市がこれまで通りの交通政策では立ち行かないだろう。それぞれの地域の実情に合った対策が必要だ。