2012年10月15日(月)

原発建設に揺れるリトアニア

バルト3国の1つ、リトアニア。
今、新たな原子力発電所の建設をめぐって世論が割れています。



 

賛成派
「(原発をつくり)雇用と電力の問題を解決してほしい。」
 

反対派
「原子力エネルギーは安全ではありません。」
 

現在、エネルギー源の80%をロシアに依存するリトアニア。
これを解消しようと政府は、新たな原発の建設に向けて日本企業と交渉を進めてきました。
 

リトアニア クビリウス首相
「私たちはロシアへの依存を断ち切らなければならない。」
 

しかし、国内では反対運動が活発化。
14日行われた原発建設の是非を問う国民投票では、反対票が賛成票を上回り、計画が見直される可能性も出てきました。
原発の建設をめぐり揺れるリトアニア。
現地からの最新報告です。

リトアニア国民投票 原発建設計画に“待った”

傍田
「国のエネルギー政策はどうあるべきか。
東京電力福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、各国で議論が広がる中、バルト三国の1つ、リトアニアで、日立製作所が受注に向けて交渉している新たな原発の建設の是非を問う国民投票が行われました。」
 

鎌倉
「開票作業はほぼ終了し、『反対』が64%を超えて賛成を大きく上回り、政府の原発建設計画に国民がノーを突きつけた形となりました。
リトアニアがこれまで原発建設を進めてきた背景について、まず黒木さんからです。」

黒木
「リトアニアはこちら、バルト海に面するバルト3国の1つです。
かつて、ナチス・ドイツの手を逃れようとするユダヤ人にビザを発給し続け、『日本のシンドラー』ともいわれる外交官、杉原千畝(すぎはら・ちうね)さんの任地としても知られています。
第2次世界大戦中、ソビエトとナチス・ドイツから度重なる侵攻を受けたリトアニア。
抵抗運動で多くの人命が失われました。
戦後は、ソビエト連邦の民族共和国の1つとして、モスクワの強い影響下にありましたが、ゴルバチョフ政権のペレストロイカをきっかけに独立の機運が高まり、1990年、連邦を構成する共和国の中で最初に独立を宣言します。
2004年には、NATOとEUに加盟。
当時、リトアニアではソビエト時代に建設されたチェルノブイリ型の原子力発電所が稼働していましたが、EUから安全性に疑問の声が上がり、リトアニア政府はこの原発を3年前に閉鎖しました。

そして、こちらをご覧下さい。
3年前まで、リトアニアでは、エネルギー源の32%を原子力発電でまかなっていました。
ところがですね、原発の閉鎖後には、天然ガスなどのエネルギー源の輸入が増大しまして、このようにロシアからの輸入が全体の80%を占めているんです。
このロシアに対して、リトアニアは強い警戒感を持っています。
それは過去の歴史に加えまして、天然ガスの供給を一時停止したロシアとウクライナの対立など、エネルギーの依存が安全保障問題に直結するという現実を間近で見てきているからなんです。
エネルギーの自給とロシア依存からの脱却。
この1つの答えが原発の建設だったのです。」

鎌倉
「エネルギー安全保障の観点から原発の建設計画を進めてきたリトアニア政府。
ところが国民の反応は以前とは大きく変わっていました。」

リトアニア 揺れる“自前発電”建設

3年前に閉鎖した原発の隣に、安全性を高めた最新型の原発を建設し、2020年をめどに運転開始を目指すという政府の計画。
この計画をめぐって、原発推進を訴える政権与党と、反対する野党側の間では、連日、激しい議論となりました。

社会民主党 ブトゥケビィチェス党首
「このプロジェクトはとても安全とは言えない」



 

リトアニア クビリウス首相
「日立製作所が建設するのは、世界で最も安全な原子炉だ。」 

社会民主党 ブトゥケビィチェス党首
「それならもっと受注してもおかしくないのでは?」
 

リトアニア クビリウス首相
「新しい原発は電気を安価に供給できる。」 

社会民主党 ブトゥケヴィチェス党首
「それは無理でしょう。」
 

世論も大きく割れました。
繊維工場を経営する、ビタス・ポシュカさんです。
ポシュカさんは、工場の電気代の負担に悩まされています。
原発の閉鎖以来、電気料金は、3年間で5割も高騰しました。
工場の運営コストの半分近くを占める電気代を節約するため、設備の稼働率を半分に抑えているといいます。

繊維工場経営者 ビタス・ポシュカさん
「原発の建設計画が進めば、電気料金は安くなるはずです。
私は政府が進める計画を全面的に支持しています。」


 

クビリウス首相は、NHKのインタビューに応じ、建設計画の重要性をあらためて強調しました。

リトアニア クビリウス首相
「エネルギー輸入を一国に依存するのは安全保障上もよくない。
ロシアへの依存を断ち切るために、我々は変わらなければならない。
ヨーロッパ市場の一部にならなくてはならないのです。」

 

リトアニア政府は、日本の日立製作所と建設に向けて交渉を進めてきました。
日立を選んだ背景には、日本の原子力技術への信頼があるといいます。

リトアニア クビリウス首相
「福島の事故は技術の問題というより自然災害だった。
我々は原子力エネルギーの発展を信じています。」

新しい原発は、リトアニアだけではなく、バルト3国全体に電力を供給する予定です。

リトアニア クビリウス首相
「エストニア、ラトビア、リトアニアは、日立と共に共同開発をするパートナーです。
バルト3国を1つの市場として共同開発しているのです。」

一方、原発への不安はかつてなく高まっています。
首都ビリニュスの大学生、ギエドリュス・リトビナスさんです。
連日、街頭で原発計画の中止を訴えました。

原発反対派の学生 リトビナスさん
「原発計画に反対してください。
(原発建設は)お金を捨てるようなものです。」


 

福島の事故を見て、原発の危険性を強く意識するようになったいうリトビナスさん。
原発建設に反対する署名活動を行った結果、およそ11万人分の署名が集まりました。
人口300万のリトアニアで、これだけの署名が集まるのは、異例だといいます。

原発反対派の学生 リトビナスさん
「原発計画にはこれまで誰も関心を示してきませんでした。
それを考えると大きな変化を感じます。」

 

木村記者
「原発の建設計画を推進する与党の選挙本部です。
投票の行方を関係者が固唾をのんで見守っています。」

国民投票の結果、原発建設に反対する票が60%を超えて、多数を占めることが確実となりました。

市民
「国民がノーといったので原発計画は中止すべきだと思います。」



 

国民投票と同時に行われた議会選挙でも建設計画に慎重な野党が勝利し、新しい政権づくりに乗り出す見通しです。
年内にも大きく動き出す予定だった、リトアニアの原発建設計画。
投票の結果を受け、見直される可能性が高まっています。

原発建設に“待った” 投票結果どう見る

傍田
「では、リトアニアの首都ヴィリニュスで取材にあたっている木村記者に聞きます。
今回の国民投票、反対票が多数を占めてかなりはっきりした形で民意が示されたようですけれども、この結果をどういうふうに分析しますか?」

木村記者
「原発の建設に反対する票が、大方の予想以上に伸びたという印象です。

リトアニアでは4年前、ソビエト時代に建設された原発について、運転の延長を認めるかどうかの国民投票を行っています。
その際には、実に90%の国民が、運転の継続に賛成票を投じました。
このことを考えますと非常に大きな変化だといえます。
取材をして実際に市民に直接話を聞いてみますと『原発には大きなリスクがある』といった、原発の安全性を不安視する声が多く聞かれまして、去年3月の福島の事故がリトアニアの人たちに対しても大きな影響を与えたと感じます。」

リトアニア どうなる原発建設

鎌倉
「そういった国民投票の結果に加えて、同時に行われた議会選挙でも原発の建設に慎重な立場の野党が多数を占めたということですよね。
今回のこういった結果を受けて、リトアニアでは原発の建設計画が中止されることになるんでしょうか?」

木村記者
「原発の建設計画を大きく変えるということは簡単ではないと見られています。
今回の国民投票の結果には法的な拘束力はありません。

すでに今の政府と日立との間では原発の建設で協力関係が結ばれています。
さらに将来、電力を輸出する予定のエストニアとラトビアからも建設の協力を取り付けています。
こうした決定を根底から覆すということになりますと、リトアニアへの国際社会からの信頼が根底から大きく損なわれることになります。
さらに、そもそも野党側が今回原発の建設計画に反対してきたというのは、議会選挙で勝利するための選挙戦略の一環ではないかという見方すらあがっています。
実際に今の野党もかつて与党だった頃に、原発に賛成の立場で計画を推進していました。
また、原発計画を中止した場合に、今後もロシアにエネルギー源を依存し続けて良いのかという課題も解決されていません。
選挙結果を経て、新政権が来月にも発足する見通しですが、政府は国民の意思と現実との間で、難しいかじ取りを迫られることになりそうです。」

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