李氏朝鮮の歴史教育に入る前に




エヴェリーナ・ミュンスター「本編に入る前に、朝鮮半島──特に今回のテーマである李氏朝鮮の勉強を行う前に、授業を受ける皆さんや、読者の皆さんに、常に頭の片隅に入れておいて欲しいことをいくつかリストアップしておくわね」
奈津嬉「はいっ」


(1)韓国の地理的環境の特異性 …… 事大主義を招きやすい場所

エヴェリーナ・ミュンスター「1点目は朝鮮半島の持つ地理的な特性ね」
フィアーテ・V・S・B「国が半島に位置していることか?」
エヴェリーナ・ミュンスター「それもあるけど、韓国の位置する場所のほうが問題ね。日本から大陸に進出する場合も、大陸から日本経由で太平洋に出る場合も、朝鮮半島はその通り道の真上になってしまうから、周辺国──例えば日本や中国からの軍事侵攻を招きやすいのよね」
カオス・コントン「日本だけじゃなくて中国からも攻め込まれてるんですかぁ……そいつは大変っすねぇ」
空有紗「回数だけなら、多分陸続きになってる中国からの侵攻のほうが回数は多いけどね」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「そんなに多いの?」
空有紗「朝鮮半島での侵略戦争というと大日本帝国のことが思い浮かびやすいんだけど、実際には朝鮮に派兵した国は他にもあるんですよねぇ。

  ●衛氏朝鮮を滅亡させた漢
  ●百済救援を目的として朝鮮半島に派兵した大和朝廷
  ●新羅の後援国であり一時は朝鮮半島南西部を制圧していた唐
  ●高麗王朝を屈服させた元
  ●明攻略のルートとして朝鮮半島を選ばざるを得なかった豊臣秀吉
  ●李氏朝鮮の外交姿勢にぶち切れて半島への軍事侵攻に踏み切った後金のホンタイジ
  ●李氏朝鮮の要請で朝鮮に『治安出動』した清
  ●そして朝鮮戦争の主体となったアメリカ合衆国と中華人民共和国


……重要なものだけでもこれだけありますよ」
アークス・アルクスト「まさに踏まれっぱなし……苦労しますね……」
エヴェリーナ・ミュンスター「韓国人の国民性として槍玉に挙げられる『事大主義』も、こんな国際環境を見ていると少しは同情の余地が出てくるわね。現在の朝鮮半島も、日本&アメリカと中国のパワーゲームの舞台になっている面があるし」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「安っぽい表現になるけど、これってもはや『宿命』なのかしら?」
刀和祥子「そうかもしれませんね。朝鮮半島以外にも、半島と名の付く所は大国同士のパワーゲームや大戦乱の中心地になりやすいですね。例えば、20世紀初頭に『ヨーロッパの火薬庫』と呼ばれ、実際に『爆発』が起こってしまったバルカン半島とか、ベトナム内戦とポル・ポト派による大虐殺という修羅場に直面したインドシナ半島とか」
ボルジア家の端役「今では政治的に安定しているが、かつてのイタリア半島とスカンジナビア半島も政治的にきな臭い場所だったな。それに、かつてのイベリア半島はキリスト教徒とイスラム教徒の戦争の最前線だった」
奈津嬉「『半島』だらけですね……」
ヴェルナ・H・エイザー「例外ってあるんですかぁ〜?」
アークス・アルクスト「カムチャツカ半島とかは?」
フィアーテ・V・S・B「……人口が少ないから目立った争いが起きていないだけじゃないのか?」

空有紗「あ、そうだ。地理的特性と言えば、『冬でも凍らない港が山ほどある』というのも見逃せないですね」
鞍馬彰吾「そうですね。朝鮮半島に流氷が流れ着いたという話は聞いたことが無いですし」
空有紗「軍事的に見れば、他にも対馬海峡の存在が重要かな。東シナ海と日本海を繋ぐ重要な海路で、ロシアにとっては太平洋に出るための大事な出入り口だからね。20世紀初めには、ここで日本とロシアが海戦をやってますし」


(2)南北朝鮮の言論環境 …… 日本よりも不自由

鞍馬彰吾「先生、1点目といっておきながら山ほど列挙されているんですけど?」
エヴェリーナ・ミュンスター「(無視)……で、2点目として注意しておかなければならないのは、南北朝鮮の言論環境かしら。一応、現在の大韓民国は議会制民主主義が導入された民主主義国家であり、人権も尊重されてるけど、大韓民国の言論空間も日本と同じように自由というわけじゃないのよ」
アークス・アルクスト「民主主義国なのに言論が不自由?」
ヴェルナ・H・エイザー「それって民主主義国じゃないような気がしますけどぉ……」
エヴェリーナ・ミュンスター「実は、その原因の一部は今の大韓民国憲法にもあるのよ。何しろ、現在の大韓民国憲法では、日本の憲法と比較して言論の自由に対する制約が多く存在するからね」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「『制約が存在する』?」
レキリス・キャソル「大韓民国の憲法では、第21条第1項で言論の自由が明記されているのですが、同条第4項で公衆道徳や社会倫理などが言論の自由に優越すると解釈可能な内容が書かれているのです。詳しくはこちらを御覧下さい」

大韓民国憲法(抜粋)

第21条(1) すべての国民は、言論及び出版の自由並びに集会及び結社の自由を有する。

(2) 言論及び出版に対する許可又は検閲並びに集会及び結社に対する許可は、認められない。

(3) 通信及び放送の施設基準並びに新聞の機能を保障するために必要な事項は、法律で定める。

(4) 言論及び出版は、他人の名誉若しくは権利、公衆道徳又は社会倫理を侵害してはならない。言論及び出版が、他人の名誉又は権利を侵害したときは、被害者は、これに対する被害の賠償を請求することができる。

出典:大韓民国憲法の邦訳(http://www.geocities.co.jp/WallStreet/9133/kenpou.html

カオス・コントン「うーん……ビミョーに言論の自由が損なわれてるような気がしますねぃ……」
ヴェルナ・H・エイザー「『言論及び出版は、他人の名誉若しくは権利、公衆道徳又は社会倫理を侵害してはならない』……この文言、言論弾圧を加える側には、使い勝手が良さそうな言葉じゃないですか」
ボルジア家の端役「使い勝手が良い……というか、実際に使われてるんだが?
カオス・コントンフィアーテ・V・S・Bグレイシア・ネウ・カーネリアス鞍馬彰吾奈津嬉「…………」
ヴェルナ・H・エイザー「……ビミョーにダメっぽいですね」
アークス・アルクスト「言論弾圧の実例って何かあるのですか?」
ボルジア家の端役「前ページで道化師が手配してくれた『親日派のための弁明2』の作者である金完燮氏という人物がいるんだが、彼は自分の書いた本が理由で刑事裁判2件・民事裁判1件を起こされている。今、記事は用意してあるかな?」
レキリス・キャソル「御心配無く。こちらに用意してあります」
ボルジア家の端役「用意のいいことだな」

 【ソウル=黒田勝弘】日本でのベストセラー『親日派のための弁明』の著者、金完燮(キムワンソプ)氏(四〇)が韓国で相次いで起訴されるなど“袋だたき”に遭っている。独立運動家など歴史上の人物に対する名誉棄損を理由にした刑事裁判二件、民事裁判一件で法廷に立たされているが、損害賠償の民事訴訟では、教科書問題で新しい歴史教科書つぶしに積極的に動いている日本の左派系運動団体も原告団に加わり、関心を集めている。

 韓国では日本との過去の歴史については「異論は認めない」という雰囲気が依然、強く、韓国の公式史観に挑戦している金完燮氏に対しても民族主義団体の執拗(しつよう)な攻撃に加え、検察当局まで処罰に乗り出している。

 ソウル高検はこのほど金氏に対し、民族主義者として人気のある歴史上の人物、金九(一八七六−一九四九年)の名誉を傷つけたとして刑法の「死者に対する名誉棄損」罪で起訴した。

 これは金氏が昨年十一月、国会の「親日・反民族行為糾明特別法案」の公聴会に招かれた際、金九の過去について「無関係の日本人を殺害し中国に逃亡した人物」などと批判的に述べたことが名誉棄損にあたるとして、刑事罰を求めるものだ。

 この件は金九の子孫からの告訴を受けてのものだが、先にソウル地検は「嫌疑なし」として、いったんは告訴を退けている。地検が不起訴にしたものを高検が職権であらためて起訴するのは異例で、検察上部の処罰への強い意志を感じさせる。

 金氏はこのほか「過去の抗日独立運動家たちの行動は当時の民衆の利益とは関係なかった」−などといった主張で民族主義団体から告訴され、すでに起訴されている。今回の起訴と併せ八月末に裁判が行われる。

 金氏はまた、名誉棄損による損害賠償の民事訴訟にもさらされているが、この原告二十三人の中には日本の市民団体「子どもと教科書全国ネット21」と「歴史教育アジアネットワーク・ジャパン」が含まれている。

 金氏は韓国では孤立無援の状態で弁護士も準備できていない。金氏は「国会の公聴会での発言まで処罰の対象になるとは言論の自由はないに等しい。これでは日本に政治亡命するしかないではないか」と語っている。(産経新聞)

出典:http://d.hatena.ne.jp/catboy/20040805(産経新聞2004年8月5日付紙面からの引用)

カオス・コントン「何ですかこりゃあ!?」
鞍馬彰吾「かなり露骨ですね……」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「韓流ドラマで『ヨン様ぁ〜(はぁと)』なんて言っている中年の奥様方が見たら、かなりびっくりしそうな話ね……」
ボルジア家の端役「俺としては、『損害賠償の民事訴訟では、教科書問題で新しい歴史教科書つぶしに積極的に動いている日本の左派系運動団体も原告団に加わ』っているということのほうが気になるがな」
アークス・アルクスト「ところで、上のほうに批判的とありますけど、実際には、どういう表現が使われてるんですか?」
レキリス・キャソル【ごそごそ、ぱらぱら】「はい、この辺のページになりますね」

閔妃殺害事件とその後の経緯(22ページ)

 (前略)閔妃はひざまずいて命乞いをしたが、革命軍は彼女の首を刎ねて殺害し、死体を焼いた。これより、三十年の間、朝鮮の運命を握り、民衆を苦しめていた悪女は排除され、朝鮮に一筋の希望が生まれたのである。


「エセ偉人」としての安重根(62ページ)

(前略)

 倭奴[ウェノム]の頭から足の先まであちこちを切りつけた。二月の寒い明けがたのことで、氷が張っていた地面に、血が泉の沸くように流れた。わたしは手でその血を掬って飲み、またその[ウェ]の血をわたしの顔に塗り付け(た)。(『白凡逸志』1947年、日本語版1973年、平凡社、79ページ)
 金九は当時、客主(商いの場と行商人の宿泊を兼ねた施設)で身分を隠していた土田(※)を見ると、単に日本人というだけで閔后の死に関係があると思い、このような凄惨な殺人を犯したのである。いくら儒教教育を受けた朝鮮人だからとはいえ、推測だけでこんな残忍な犯行をしでかしているのである。こういう者がその後、高宗の配慮により脱獄して中国に逃れ、大韓民国臨時政府なるものを作ってその指導者となったのだから、その独立運動の水準がいかほどのものであったかは想像に難くない。

出典:金完燮『親日派のための弁明2』

※日本からきた陸軍中尉・土田譲亮のことを指す。

奈津嬉『閔妃が殺されて良かった』としか受け取れない表現ですね……」
刀和祥子「この人は実際にそう思っているようですよ。金完燮氏は閔妃を西太后と同種の人間として扱っていますからね」
カオス・コントン「金九という人に対する扱いも酷いものですね……。当の金九がやったこともダメダメですけど……」
空有紗「表現が過激なもんだから、金完燮氏は日本に事大しているだけだという指摘も多いですけどねぇ」

エヴェリーナ・ミュンスター「それから、大韓民国の憲法に戻るけど、この国の憲法には思想信条の自由が明記されていないのよ。ただし、通信の秘密を保障する第18条、良心の自由をうたった第19条、信仰の自由を記した第20条、学問の自由を記した第22条、憲法に明記されていない権利に対する人権軽視の禁止を明記した第37条第1項から類推して、憲法上は思想信条の自由に一定の保護が与えられていると推測可能であるけどね」
フィアーテ・V・S・B「なるほど……」
ボルジア家の端役「ただ、日本で言うところの『公共の福祉』に関する規定も存在するけどな」

大韓民国憲法(抜粋)

第18条 すべての国民は、通信の秘密を侵害されない。

第19条 すべての国民は、良心の自由を有する。

第20条(1) すべての国民は、宗教の自由を有する。

(2) 国教は認められず、宗教及び政治は、分離される。

第22条(1) すべての国民は、学問及び芸術の自由を有する。

(2) 著作者、発明家、科学技術者及び芸術家の権利は、法律により保護する。

第37条(1) 国民の自由及び権利は、憲法に列挙されていないという理由で軽視されない。

(2) 国民のすべての自由及び権利は、国の安全保障、秩序維持又は公共福利のために必要な場合に限り、法律により制限することができ、制限する場合においても、自由及び権利の本質的内容を侵害することはできない。

出典:大韓民国憲法の邦訳(http://www.geocities.co.jp/WallStreet/9133/kenpou.html

奈津嬉「ええと……つまり、どういうことなんですか?」
エヴェリーナ・ミュンスター憲法上は言論の自由や思想信条の自由は保護されているけど、保護の度合いは十分とは言い難いということかしら。言論の自由については、『言論及び出版は、他人の名誉若しくは権利、公衆道徳又は社会倫理を侵害してはならない』と書かれているように、言論の自由を抑止する為の口実が憲法の中にちゃんと備わっているわ。思想信条の自由に至っては、他の条文からの類推解釈でしか権利の存在を推測できないからね」
カオス・コントン「日本とはやっぱり違いますね……」
エヴェリーナ・ミュンスター「でも、韓国における思想信条の自由や言論の自由の問題は、朝鮮半島の現状も考慮して論議する必要があるわね
グレイシア・ネウ・カーネリアス北朝鮮の存在が影響しているのね」
エヴェリーナ・ミュンスター「ええ。これまでの韓国の歴代政権は、日本の治安維持法をサンプルにして国家保安法という法律を制定・運用し、共産主義者や主体思想の信奉者を取り締まってきたのよ。どちらの思想も、北朝鮮が金科玉条のように信奉している思想だからね。このテキストの作者は、韓国憲法で思想信条の自由が明記されなかったのは、親日派の弾圧ではなく共産主義の抑え込みが本来の理由だったのではないかと推測しているわ」
ボルジア家の端役「でも、さっきの国家保安法は、韓国で改廃を巡る論議に巻き込まれているそうだな?」
レキリス・キャソル「これのことですね」

国家保安法めぐり韓国与野党協議、法案処理は年越し(読売新聞)

 【ソウル=福島恭二】北朝鮮のスパイ活動などを取り締まる韓国の国家保安法をめぐり、廃止案を国会に提出した与党ウリ党と改正・存続を求める最大野党ハンナラ党が23日、党首らによる協議に入った。

 両党は党トップの合意による法案処理を確認していることから、法案の取り扱いは年を越すとみられ、ウリ党内では早期採決を主張する議員らが反発している。

 協議を行ったのは、ウリ党の李富栄(イ・ブヨン)議長とハンナラ党の朴槿恵(パク・クンヘ)代表、両党の院内代表の計4人。この日は双方の基本方針を示し、27日まで継続して協議することで合意した。

 ウリ党側は、国家保安法廃止に伴い、刑法の内乱罪で代替する案について説明。

 ハンナラ党側は、国家保安法の中で人権侵害を生んできた条項を削除するなどの修正案を検討していることを明らかにした。

 国家保安法をめぐっては、国会の過半数の議席を占めるウリ党は当初、廃止法案の年内の国会通過を目指した。ハンナラ党議員が委員長を務める法制司法委員会に法案を上程しようとしたが、ハンナラ党の抵抗で頓挫。国会の空転が続いていたが、21日、両党が正常化で合意、国家保安法に関しては、両党首ら4者による話し合いで妥結を図ることになった。

 ウリ党は、保安法廃止に消極的な世論に配慮するとともに、差し迫った来年度予算案やイラク派兵延長に関する国会同意案の年内通過を優先させて、ハンナラ党との話し合い路線を選んだ。

 聯合ニュースによると、こうした路線に反対するウリ党議員約20人と市民団体の関係者が23日、会見を開き、「国保法の年内廃止を貫徹し、解放と分断の60周年である2005年を国保法のない元年にしたい」と訴えた。

[読売新聞社:2004年12月23日 23時41分]

出典:読売新聞社2004年12月23日付記事

エヴェリーナ・ミュンスター「ええ。韓国も昔と比べて変わって来たということかしら……」

フィアーテ・V・S・B「法律的な話はそれくらいにして、実社会では韓国で言論の自由は保護されているのか?」
エヴェリーナ・ミュンスター「日本に比べれば保護が不十分ね。先程説明した、金完燮氏が起訴された事件の他にも、興味深い事件がいくつか報じられているわよ。2004年12月時点で最もホットな事件としては、ソウル大学の教授が元従軍慰安婦相手に土下座させられたという事件かしらね」

「慰安婦発言で物議」 李栄薫教授がナヌムの家を謝罪訪問

 日本軍慰安婦と関連した発言で物議をかもしているソウル大学の李栄薫(イ・ヨンフン)教授(経済学部)が6日、京畿(キョンギ)道・広州(クァンジュ)市・退村(テチョン)面の「ナヌム(分け合い)の家」を訪問した。

 この日午前10時、Jトリック大学の安炳旭(アン・ビョンオク)教授(国史学科)と共に「ナヌムの家」修練館を訪ねた李教授は、イ・オックムさんら7人の前で謝罪の意を明らかにし、クンジョル(地面に額をつける韓国式のお辞儀)をした。

 李教授は「私の発言は日本が戦争犯罪を犯したという問題意識に基づいたものだった」とし、「日本に協力した多くの韓国人がおり、植民地解放以降も女性たちの性の搾取が国家権力によって行われてきたため、このようなことを総体的に反省してこそ韓国社会の道徳的な努力が高揚するという意味」と釈明した。

 しかしこの日午前、李教授の発言内容が盛り込まれた放送をインターネットで視聴した元慰安婦の女性は、この弁明にも納得し難い様子だった。

 「東豆川(トンドゥチョン)で体を売っている女性と私たちを比較するなんて、あり得ないこと」(イ・オックムさん)

 「できることなら一発殴ってやりたい。私たちは国がなかったから強制的に連れて行かれたのだ」(キム・グンジャさん)

 「あなたには私たちの“恨”は分からない。私たちの心に刺さった釘を抜くどころか、新たな釘を打ち込んだあなたは教授の資格がない」(カン・インチュルさん)

 李教授は40分余続いた元慰安婦たちの叱咤の言葉と嘆きの声を黙って聞いていた。しかし、とても困惑した表情だった。

 一緒に来た安教授が「李教授が伝えたかったのは、もっと高いレベルで、過去の清算のため、日本に対し強く抗議しなければならないが、韓国内部の反省も重要だという点を指摘したもの」と助け舟を出したが、火のついた元慰安婦たちの怒りを鎮めることはできなかった。

広州=チェ・ソンジン記者 dudmie@chosun.com

出典:朝鮮日報2004年9月6日付記事(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2004/09/06/20040906000060.html

レキリス・キャソル「説明致しますと、李栄薫教授が謝罪させられる原因となったのは、同教授が9月2日付放送の番組『MBC100分討論』に出演し、『日本は挺身隊を管理した責任があるが、韓国民間人の問題も取り上げるべきだ』などと言ったことでした。その後の顛末はこちらのリンクを御覧になればお分かりかと思いますが、なかなか凄い騒ぎになっていたようでございます」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「日本で似たような事件が起こったとしても、発言者が土下座させられるようなことはまず有り得ないわね……」

刀和祥子「あ、そうだ。韓国の言論問題と言えば、国際新聞編集者協会(IPI, International Press Institute)のことを忘れたらいけませんよ」
カオス・コントン「名前からすると報道関係者の集まりっぽいすけど……その人達が何をやったんです?」
刀和祥子2001年9月6日から2003年10月15日までの間、大韓民国を『監視対象国』に指定していたんです
アークス・アルクスト「監視対象国……って、何を監視するんです?」
刀和祥子「原文ではこんな書き方になってましたね」
レキリス・キャソル【ささっと英文資料を広げる】

Does the list represent the very worst countries?

No, the IPI Watch List is not a list of the most repressive countries. Instead, the list contains countries that might halt their attacks on the media; countries which retain the essential elements of democracy but which have entered a repressive phase. The overriding aim of the IPI Watch List is to identify these countries before they turn away from democracy and become harder to influence.

出典:International Press Institute オフィシャルサイト内の記事(http://www.freemedia.at/watch_list.htm、下線は筆者による)

ヴェルナ・H・エイザー『IPI監視リストは、最も(メディアに対して)抑圧的な国のリストではない。その代わり、リストは、メディアに対する攻撃を停止するかもしれない国、すなわち民主主義の基礎的要素を保持するものの抑圧的段階に入ってしまった国を含んでいる』。……下線部を訳するとこんなところでしょうね」
フィアーテ・V・S・B「……つまり?」
ヴェルナ・H・エイザー『民主主義国でありながらメディアに対する抑圧が進行中である』国を監視していると思えばいいのでしょうかぁ?」
刀和祥子「そうですね。ただ、このリストに載っている国は『メディアへの抑圧が停止する可能性のある』国でもあり、北朝鮮のような極度のメディア統制を強いている国とは全く別物であることには注意を要しますね。事実、韓国は2003年に監視対象国から外されています
グレイシア・ネウ・カーネリアス「で、どうして韓国はそのリストに入ってしまったの?」
刀和祥子「それについては、端役さんにお任せします。純粋に韓国の国内問題ですからね」
ボルジア家の端役「また出番か? 『端役』というのに目立ってるな。……まあ、そんなことはどうでもいいんだが、とりあえず説明するぞ」
カオス・コントン「うぃ」
ボルジア家の端役「2000年当時、大韓民国の大統領は金大中氏だったんだが、この人物は経済政策の失敗などから国民の支持を失っており、朝鮮日報・東亜日報などの保守系メディアから、毎日のように社説で叩かれる日々を送っていた。そんな状況にブチ切れたのかどうかは知らんのだが、2001年1月11日の新年会見で、こんなことを言い出したんだ。『国中総出で報道改革に乗り出す』って」
カオス・コントンヴェルナ・H・エイザーフィアーテ・V・S・Bグレイシア・ネウ・カーネリアスアークス・アルクスト「…………」
奈津嬉「これって……」
鞍馬彰吾「邪魔な保守系メディアの口を封じるつもりで?」
ボルジア家の端役「真意ははっきりとは分からんが、タイミングが悪いこともあり、保守系メディア叩きだと思ってしまった人が多いのは事実だ。それに、政権内部にも保守系メディア叩きを公然と主張する人物がいたぞ。当時彼が所属していた新千年民主党のスポークスマンは、記者会見で保守系メディアを『時代錯誤』と評したくらいだしな」
カオス・コントンヴェルナ・H・エイザーグレイシア・ネウ・カーネリアスアークス・アルクスト鞍馬彰吾奈津嬉「…………」
フィアーテ・V・S・B「…………どうフォローしたらいいんだ、これ?」
ボルジア家の端役「俺に聞くな。俺は事実関係を述べてるだけなんだぞ」
奈津嬉「で、実際に改革は行われたんですか?」
ボルジア家の端役「そうだ。ただ、ここで実際に取られた改革の中身が結構面白い」
アークス・アルクスト「具体的には何をしたんです?」
ボルジア家の端役「脱税摘発」
ヴェルナ・H・エイザーフィアーテ・V・S・B鞍馬彰吾グレイシア・ネウ・カーネリアス奈津嬉アークス・アルクスト「…………」
カオス・コントン「…………ネタ?」
ボルジア家の端役「いや、この話はネタじゃないぞ。韓国の国税当局が実際に調査を行い、各新聞社にそれぞれ数百億ウォン単位の追徴課税を行ってる。朝鮮日報・東亜日報では、社主が脱税容疑で逮捕・起訴されるという事態にまで至ったからな」
鞍馬彰吾「凄いですね……」
ボルジア家の端役「このような事態に至った背景として韓国のマスコミでのオーナー支配や旧政権との癒着を指摘する声がある。また、本当に脱税が行われていた可能性もある。ただ、IPIによる監視国指定にこの脱税事件の存在が大きく関わっていたことは間違い無い」
刀和祥子「そうですね。IPIホームページ内でも、脱税事件のことを詳しく取り上げていましたからね」
フィアーテ・V・S・B「なるほど……」
ボルジア家の端役「最近では、金大中政権と同様に左派系である盧武鉉大統領と与党・ウリ党が、保守系の3大新聞を狙い撃ちにした法律を作ろうとしている(12)じゃないか。ひょっとしたら、韓国が近い内にIPIによる監視対象国に復活するかもしれんぞ」

奈津嬉「そういや、南北朝鮮の言論状況を論じてたはずなのに、北朝鮮のことが出ていないじゃないですか? あちらはどうなんです?」
空有紗「北朝鮮? 共産主義者の独裁国でしょ? 共産主義者が率いる独裁国に、言論の自由や思想信条の自由を期待すること自体が根本的に間違ってますよ
奈津嬉「は、はい……」


(3)韓国の歴史授業 …… 国定教科書の存在

エヴェリーナ・ミュンスター「……で、ようやく3点目になるんだけど、これは2点目に指摘した韓国における言論の自由に対する制約の問題とも関わってるわ。詳細は本授業の終盤で触れることなので、ここでは簡単に説明するだけに留めておきましょう」
カオス・コントン「まだあるんすか?」
エヴェリーナ・ミュンスター「ええ。簡単に言ってしまうと、国史(韓国史)の教科書は国定教科書であるのよ。現在の日本のように、5社以上の出版社が教育指導要領の枠内で自由に教科書を作成し、教育現場で自由に教科書を選ばせるようなシステムにはなっていないの」
フィアーテ・V・S・B「つまり、国の歴史について政府の言い分をそのまま教科書にごり押しすることが可能になっているというわけか?」
エヴェリーナ・ミュンスター「そうなんです……とあっさり頷いてもいいけど、事情はもう少し複雑なのよ」
フィアーテ・V・S・B「どういうことだ?」
エヴェリーナ・ミュンスター「『国史』の教科書は確かに国定だけど、その他の歴史の教科書である『近現代史』『世界史』については、2000年代に入ってから検定制度が導入されたわ。そのせいで、左寄りの教科書が教育現場で使われるようになるなど、韓国の教育界もちょっとした激動の時代を迎えているわよ」

【社説】偏向の歴史教科書、直ちに修正すべき

高校2、3年の選択科目である韓国近・現代史の一部が、反米・親北朝鮮的に記述されていると、国政監査で指摘された。金星(クムソン)出版社の教科書が、光復(解放)以降、韓国の歴史については一貫して冷笑的である半面、北朝鮮については、民族の自尊を守って絶えず変化を追求する合理的体系であるかのように描写している、ということだ。

問題の教科書は、光復軍よりも社会主義系列の独立運動を詳細に紹介しており、韓国戦争の部分では戦争を招いた金日成(キム・イルソン)への言及さえない。また、韓国の長期執権のための改憲は声高に批判しながら、北朝鮮の世襲体制については、金日成が死亡した後、金正日(キム・ジョンイル)が後継して統治していると、書いている。セマウル運動は、朴正煕(パク・ジョンヒ)政府が大衆の支持を基盤に長期執権を正当化するための手段だったと批判し、北朝鮮の千里馬(チョンリマ)運動は、社会主義経済の建設に大きな役割を果たしたと評価している。韓国は否定的に、北朝鮮は友好的に紹介しているのだ。

(中略)

歴史を非支配層の観点で見る民衆史観、韓半島の分断責任を米国に転嫁する修正主義史観など、特定史観が支配する教科書は教科書になりえない。こうした史観は学者間の討論の対象であり、国民のアイデンティティーの根幹を形成する中学校の歴史教科書にはならない。歴史学界でも、高校生の近・現代史の理解に不均衡を招くと指摘している。教科書検定委員会を開き、教科書の内容を綿密に検討し、問題がある部分は再執筆を要求しなければならない。

出典:中央日報・2004年10月5日付社説(http://japanese.joins.com/html/2004/1005/20041005204716100.html

空有紗アカの陰謀ですね〜」
鞍馬彰吾「只今洗脳中って話なのか、これ?」
アークス・アルクスト「笑えない……」
ヴェルナ・H・エイザー「でも、検定制度のおかげで教科書の中で日本を扱った部分の扱いが良くなったって話は聞いたことが無いんですけどぉ……」
エヴェリーナ・ミュンスター「韓国の歴史教育の現場で起きている変化については、筆者もごく最近になって始めて知ったことなの。そのせいで、あまり詳しいことが分からないというのが本当のところね」


(4)李氏朝鮮の正式名称 …… 正式名称は「朝鮮」の2文字のみ

エヴェリーナ・ミュンスター「厳密には、『李氏朝鮮』じゃなくて『朝鮮』が正しい国名なんだけど、今回は諸事情により『李氏朝鮮』のままで解説するわ」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「『諸事情』?」
エヴェリーナ・ミュンスター似たような国が多過ぎて混乱するのよ。下の表を見てみてよ」

  ●衛氏朝鮮
  ●箕氏朝鮮
  ●朝鮮(李氏朝鮮)
  ●朝鮮民主主義人民共和国(いわゆる北朝鮮)
  ●地名「朝鮮半島」
  ●人種名「朝鮮族」


エヴェリーナ・ミュンスター「国名だけで4つもあるから、『朝鮮』と書いただけだと、日本の読者は混乱する可能性があるの。だから、わざと『李氏朝鮮』と書くようにしているけど、本当の国名は『朝鮮』だと言うことは覚えておいてね」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「は〜い」



カオス・コントン「これで、次回からはやっと本編に入れるんですね〜」
エヴェリーナ・ミュンスター「そうですね。ただ、次回の授業は高麗までの朝鮮半島の歴史を大雑把に追いかけてみるわ。特に、李氏朝鮮の前代となる高麗については多少詳しい説明が必要になるでしょうし」
アークス・アルクスト「まだあるんですかぁ……」




目次 / 前の時代へ / 後の時代へ



Copyright (c) APRIL FOOL all rights reserved.

1