記者の目:尖閣問題と湾岸危機=布施広(論説室)

毎日新聞 2012年10月16日 00時54分

 湾岸危機をご存じだろうか。90年8月、イラクが隣国クウェートへ侵攻し、翌年1月からの湾岸戦争で米軍などに追い出されるまで居座った事件である。少々とっぴな類推のようだが、20年も前の湾岸危機と尖閣問題には類似点が少なくないと思っている。

 「米軍は助けてくれるかな」。湾岸危機を取材した私はよくクウェート難民に質問された。米軍は中東への兵員配備を進めていたが、実際に祖国奪還のために戦ってくれるか心配で仕方がないのだ。

 尖閣問題とは状況が違うとはいえ、同種の不安が今、日本人の胸にわだかまっているかもしれない。中国の露骨な威嚇は続き、日中の武力衝突も懸念される。そのとき米軍は助けてくれるのか、と。

 ◇加勢を左右する日本の“本気度”

 私の考えは単純だ。日本人が領土を必死に守らないなら米国が加勢する理由もない。だが、日本が本気なら米国は当然加勢する。あくまで限定的戦闘での話だが、同盟国を見捨てた米大統領は、米国人が最も嫌う「臆病者」「ひきょう者」の汚名を覚悟しなければならないからだ。

 だが、日本には、たとえ尖閣が日米安保の適用範囲内でも米軍は戦う気はないと力説する識者もいる。米高官の発言を比べて「何年前とここが違う」と細かく指摘するのが好きな人もいる。さまざまな意見があっていいが、こうした人々が外国には「臆病者」と映り、日本人全体が誤解されていないかと心配だ。

 この際、米国は尖閣に関する「曖昧政策」を転換し、日本への支援を明確に打ち出してはどうか。米国はかつて、中国が台湾を攻撃した場合の対応を明言しない「戦略的曖昧政策」を取っていた。90年代半ばの台湾海峡危機を経てブッシュ政権は01年、「どんなことをしても」(whatever it takes)台湾を守ると断言し、曖昧政策を転換した。尖閣とは事情が異なるにせよ、米国の意思表示は中台を含むアジア地域の安定に寄与したと私は思う。

 そもそも尖閣問題もイラクのクウェート侵攻も、米国主導の国際秩序と歴史への挑戦という側面を持つ。先月末の国連演説で中国の楊潔篪(よう・けつち)外相が、日本は尖閣を「盗んだ」と言うのを聞いて、既視感を覚えた。イラク政府は侵攻直前、クウェートがイラクの油田から石油を「盗んだ」と言い出し、激しいけんまくで賠償や領土割譲などを求めたのだ。

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