ソフトバンク:米スプリント社を買収-巨額借り入れに市場は懸念も
10月16日(ブルームバーグ):国内携帯電話3位ソフトバンクが米同業3位スプリント・ネクステルの株式の約70%を201億ドル(1兆5709億円)で取得すると、両社が15日発表した。国内首位のNTTドコモを超える巨大通信企業が誕生するが、市場では巨額の借入金を懸念する見方も出ている。
ソフトバンクは、約121億ドルをスプリントの株主に1株当たり7.3ドルで支払う。そのほか80億ドルは同社の財務体質強化に投じる。2013年半ばに取引完了を見込む。スプリントの時価総額は、米国時間の12日終値で、約172億ドル(約1兆3400億円)。
株式取得に必要な資金は、ソフトバンクの手元資金のほか、みずほコーポレート銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行のメガバンク3行とドイツ銀行が調整した新規のブリッジローンによって調達する。
これに対して、米ムーディーズは同日、ソフトバンクの発行体格付「Baa3」を格下げ方向で見直すと発表した。総額約201億ドルの調達とスプリント社の有利子負債約213億ドル(12年6月末)の負担が、ソフトバンクの財務に大きな影響を与えるだろうというのが主な理由だ。米スタンダード&プアーズ(S&P)も12日、ソフトバンクの長期格付けを引き下げ方向の「クレジット・ウォッチ」に指定した。
株式市場ではソフトバンク株に財務悪化を懸念する売りが続き、15日株価終値は、前営業日比127円(5.3%)安の2268円。買収報道前の水準から2営業日で21%下落した。
今回の買収によって、スプリントは債務返済の資金を得るとともに、競合するベライゾン・コミュニケーションやAT&Tに対抗するための新たな買収も可能になり、ソフトバンクにとっては米国への事業進出の足掛かりとなる。
「むちゃな借り入れはしない」ソフトバンクの孫正義社長は会見で、「売上ランキングで世界3位になる、ドコモを抜いた」と述べるとともに、買収を成功させ、借金を返済できる自信があると語った。上位2社の寡占となっている米通信市場について「ソフトバンクが、日本の時と同じように、もう一度挑戦できる」、「またとないチャンス」と強調した。
同社長はまた、ボーダーフォン日本法人の買収時には、資金調達に苦労したが、今回は「実質10日間」で話がまとまり、ブリッジローンの金利も1%台だという。「格付けが下がるのを覚悟している」としたものの、「むちゃな借り入れをしないようにした」とも述べた。
いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は、「スプリントの買収額は少し高い。財務体質もそれほどよくない」とし、「これだけの買収だけにもう少し説明がほしい。もしなければ、短期的に低迷した株価を引き上げるには不足している」と述べ、将来の成長性を含めた戦略を見ることが必要と語った。
クレディ・スイス証券の早川仁アナリストは、「孫社長の説明は、全体像がはっきりし買収が合理的だと納得できるポジティブな内容だった」とコメント。両社が生み出す収入から考えれば、負債も過大とは言えないという認識を示した。
契約件数は9600万件同社はこれまでも、成長の原動力のひとつとして買収を繰り返してきた。06年に英ボーダフォン日本法人(現ソフトバンクモバイル)を総額約1兆8000億円で買収し、携帯事業に参入した。買収当時1500万件強だった契約件数は、米アップルのスマートフォン(多機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)5」の代行販売などもあり、12年8月末には3014万件までほぼ倍増し、急成長を遂げた。最近では、1日に国内携帯4位のイー・アクセス(Eアクセス)の完全子会社化を発表したばかり。
発表資料によれば買収によりソフトバンクの携帯契約件数は、9600万件に達する。電気通信事業者協会の8月の統計によると、国内でライバルのNTTドコモの契約数は6063万件。また米携帯電話契約者数は、ブルームバーグデータによれば、1位はベライゾン・コミュニケーションで約1億900万件、2位はAT&Tで約1億300万件。3位がスプリントとなっている。
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更新日時: 2012/10/16 00:00 JST