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中国、IMF欠席で高いツケ-国際機関での主導的役割に疑問符

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 【東京】中国が国際的な経済機関で主導的な役割を果たせるか、疑問の声が上がっている。東シナ海の領有権をめぐる紛争での日本政府の姿勢に不快感を示すため、東京で開催された国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会にトップを派遣しなかったためだ。 

 財政相と中央銀行総裁を土壇場で欠席させた結果、中国は尖閣諸島(中国名で釣魚島)という小さな無人島をめぐる日本との紛争に世界の目を向けさせた。しかしアナリストや年次総会出席者によれば、この欠席は中国政府に高くついた。中国が同様の領有権問題でもめている他のアジア諸国とも妥協せず、国際機関で主導的な役割を果たす準備が整っていないのではないかとの懸念を深めたからだ。 

 世界的な経済大国の財務相は「彼ら中国は世界の舞台で主要なプレーヤーとみられたいのだが、姿を現さない」と指摘。「欠席は極めて残念だ」と語った。 

 ワシントンの政治コンサルタントグループ、ユーラシア・グループの中国アナリスト、ダミアン・マー氏は「会議をボイコットしたことは、中国が狭量でねたみっぽいように思わせる。とりわけ今会合が、中国が影響を拡大しつつあるIMFの総会であるだけになおさらだ」と述べた。 

 中国はIMFと世銀の場で、自国や他の新興市場国の影響力の拡大と、投票権拡大を長年求めてきた。国際社会はおおむねこの目標を受け入れ、国際機関での新興市場諸国の権限を拡大する漸進的なプロセスの途上にある。

AFP/Getty Images

中国の謝旭人財政相(左)と周小川人民銀行総裁(2010年)

 だがIMF年次総会が開幕した矢先に中国国営新華社通信は深夜、謝旭人財政相と周小川人民銀行(中銀)総裁が東京総会に出席せず、いずれも代理を派遣すると伝えた。 

 中国当局者は、IMF会合に代理が一国を代表するというのは異例ではないと述べている。IMFによると、中国政府は周総裁と謝財政相が出席しないのは日程上の都合だと当初述べていたという。しかし総会出席者たちは、突然のキャンセルは尖閣諸島の領有権をめぐる日中両国の紛争が原因と受け止めた。この紛争は先月、突然エスカレートした。日本政府が日本の民間地主から島を買い取ったため、中国政府が激怒し、同国各地で大規模な反日抗議行動が展開された。 

 中国政府高官のIMF総会欠席は、紛争に対する中国の態度を鮮明にする一方で、日本は緊張への対応に対し多くの国際的な批判にさらされた。最近の緊張は、尖閣諸島の領有権を棚上げにしておくという過去数十年間にわたるステータス・クオ(現状維持策)を日本政府がひっくり返す決定を下したのが引き金だったからだ。また日本政府の決定は、中国政府を動揺させようとするナショナリスト的な政治家の動きに野田佳彦首相があわてたためでもあった。 

 人民銀行の周総裁は、IMF年次総会の場で、名誉ある最終講演など顕著な役割を演じる計画だったが、実際には易綱副総裁が代読した。極めて注目されたこの講演で、易副総裁は過去12年間にわたる中国の金融政策の歴史を無味乾燥に羅列した。 

 周総裁は広く尊敬されるセントラルバンカーであり、米国の量的緩和政策の有名な批判論者として知られている。周総裁は、この政策が世界の他の諸国にマイナスの影響をもたらすと批判していた。2009年には、世界の金融システムにおけるドル支配を批判し、斬新で広範囲にわたる改革を訴える歴史的な論文を発表している。 

 だが以前オバマ政権の一員で現在はワシントンのピーターソン国際経済研究所研究員であるテッド・トルーマン氏は、周総裁の欠席によって、同総裁の国際的な地位は劣化したと指摘。それは人民銀行が、他の大半の主要国の中銀とは異なり、政治的な独立性に欠けることを鮮明にしたためだと指摘した。同氏は「それは、北京では誰が采配を振るっているかを示している」と語った。 

 ただ中国は、周総裁の欠席にもかかわらず、量的緩和などの争点をめぐり、総会の場で自らの立場を主張もした。易副総裁はIMFの諮問機関である国際通貨金融委員会(IMFC)でのスピーチで、幾つかの先進国が実施している非伝統的な金融政策(量的緩和)がどのような効果を及ぼすか今なお見守る必要があると述べる一方で、不安定な資本フローや商品相場の急騰など、他の諸国に対する悪影響を依然として心配していると語った。 

 日中以外の諸国は公に、日中両国が対立を解消するよう希望していると表明した。中国での9月の日本車販売台数が急減したのを受けて、世界第2位の中国と第3位の日本というアジアの2大国がそれぞれの経済に打撃を及ぼすとの懸念が広がった。 

 しかし、易副総裁は年次総会出席中、これについて質問されると、「中国の経済規模は大きく、影響は限定的」と語った。 

 これに対し、日銀は日本経済への影響にそれほど楽観的でないようだ。日銀の白川方明総裁は記者団に「(中国代表の)欠席は残念だ」と述べ、「日本と中国は資金的にも経済的にも強い関係を持っており、日銀は中国の中央銀行との密接な連絡を維持するよう努力する」と語った。 

 IMFのラガルド専務理事も日中両国の不和の経済的な影響に懸念を表明した。同専務理事は「対立が、たとえ長年にわたる問題であっても、調和のとれた形で迅速に解決できるよう希望しているし、経済的な見地から、(両国間の)協力が続くよう希望している」と述べた。 

 また同専務理事は「会議に出席しなかったことは、彼ら(中国)にとって大きな損だと思う」と述べ、「彼らは何か重大なものを逸するだろう」と語った。

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