ソードアート・オンライン ~疾風の短剣使い~ (ジント)
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第一話
「ぬおっ・・・とりゃっ・・・うひえっっ!」
変な掛け声と共に曲刀が滅茶苦茶な動きで振り回される。
当然のようにそれは空を切り、切ろうとしている青イノシシ――――レベル一のモンスター《フレイジー・ボア》の
そして突進攻撃。見かけよりも素早いこのモンスターに吹っ飛ばされる姿を見て、オレ達は思わず笑い出してしまった。
「おいおい、そんな動きじゃ返り討ちになるぞ」
「重要なのは初動のモーションだ、クライン」
「ってて・・・ンな事言ったてよぉ、キリト、シン、アイツ動きやがるしよ」
赤い髪を悪趣味なバンダナで逆立てた若侍のような美青年はフラフラしながら立ち上がる。
それを見た隣の勇者顔の男――――キリトは地面に落ちている石を拾い、ソードスキルを発動。
システムによってキリトの手から放たれた石は緑色のラインを引いてイノシシの眉間にヒットした。
それにより攻撃対象を変えたイノシシがキリと向かって突進してくる。
「何ていうのかなぁ・・・・初動でほんの少しタメを入れてスキルが立ち上がるのを感じたら、あとはこう・・・ズパーン! って打ち込む感じ」
剣でブロックしながら説明したキリトはイノシシに蹴りを入れてオレの方に方向転換させる。
今度はオレに向かって突っ込んできたので、鞘から抜いた短剣、その柄頭で側頭部を強打。曲刀を構えたクラインへ再び向かわせる。
「無理に動こうとするとスキルが止まるから、とりあえずリラックスしてやれ」
オレ達の助言を受けたクラインは深呼吸し、右肩に担ぐように剣を持ち上げる。
モーションが検出され曲刀がオレンジ色に輝く。
「りゃああああ!」
掛け声と共に曲刀スキル基本技《リーバー》が発動し、滑らかな動きでイノシシを横一文字に切り裂く。
半分ほどになっていたHPが消滅し、イノシシは断末魔の叫びをあげてポリゴンが爆散。オレの目の前に紫色の
フォントで経験値と獲得コル、アイテムが表示される。
「うおっしゃあああああああ!」
クラインがガッツポーズをしてから、三人でハイタッチを決める。
「おめでとさんクライン」
「でも、今のイノシシ、他のゲームだとスライム相当だけどな」
「えっ、まじかよ! おりゃてっきり中ボスかなんかだと」
「あれが中ボスならボスはどんだけ雑魚なんだよ」
ひとしきり笑った後、手に持った短剣を腰のさやに収める。
クラインが笑いながらスキルの練習をしているのを尻目に、オレは周囲を見渡した。
何処までも続く夕焼けに染まる広い草原と南部に位置するスタート地点《はじまりの街》。
基部フロアであるこの第一層がどれだけの広さかは知らないが、少なくとも十キロ以上はあるはずだ。
それだけでも十分すごいというのに、この上には99層も存在するのだから総データ量は正直見当もつかない。
そう、この巨大浮遊城《アインクラッド》は現実ではなくゲームの中。
数年前に発表された
民間用に発売された《ナーヴギア》と呼ばれるヘッドギア状のVR機器を使用するこのゲームは発表当初から話題を呼んだ。なにせ、数ヶ月前まではゲームのゲの字も知らなかったオレでさえ知っていたほどなのだから。
「つーか、SAOが買えたから慌ててハードも揃えたって感じだな。何せ初回ロットがたったの一万本だからな、我ながらラッキーだよなぁ」
ふと、キリトとクラインの会話が耳に入る。
「ま、それを言ったら、SAOのベータテストに当選してるおめぇらの方が百倍ラッキーだけどよ。あれは限定千人ぽっちだったからな!」
その言葉にオレは自分の顔が引きつったのを感じた。
それに気付いたのかキリトも苦笑いでオレを見てくる。
とても言えない。
親父が誕生日プレゼントとしてベータテストの枠を送ってきたことを。
偶然真っ当な方法で当選していたクラスメイトの桐ケ谷和人――――キリトがいなければゲームど素人だったオレは今でも起動できたかすら怪しいのだ。
もしこれが廃人に知られたら面倒な事になるのは間違いない。
目の前の男ならそんなことはないだろうが、とりあえず黙っていた方がいいと決断を下す。
「ま、ま~そうなるかな」
とりあえず口を開いてベータテスト期間中の事を思い出す。
ちょうど武器屋へダッシュしていたオレ達にレクチャーを頼んだクラインのように、オレもリアルでキリトに教えを乞い、ベータテスト期間中は夏休みなのをいいことに夜中までキリトと一緒に遊びまくっていた。元々家の事情でガキの頃から散々爺さんに戦闘術を仕込まれていたオレにとって、このゲームは自分の力を発揮できる最高の場所だった。素人だったオレがこのゲームに嵌ったのはある意味必然だったのだろう。テスト期間が終わり鍛え上げたデータが消失した時はかなりがっかりしたものだ。
「さてと・・・・どうする? まだ狩を続けるか?」
「ったりめえよ! と言いてぇとこだけど・・・・そろそろ一度落ちてメシ食わねえとなんだよな。ピザ、五時半にしてっからよ」
「お前準備万端だな」
思わず呆れ声が出た。
「そうだ、オレ、このあと他のゲームで知り合いだった奴らと落ち合う約束してるんだよな。紹介するからあいつらともフレンド登録しねえか?」
「お、いいぜ。フレは多い方がいいしな」
「え・・・・うーん」
オレは即答したがキリトは口ごもる。
この数ヶ月の付き合いでキリトがかなりのコミュ障であるのは知っている。オレやクラインのように相性のいい人間なら問題は無いのだが、それ以外の人間だとどうなるかは分からない。だからこそ悩んでいるのだろう。
「いや、キリト。もちろん無理にとは言わねえよ。そのうち紹介する機会もあるだろうしな」
キリトの様子を察したのか、クラインはすぐに首を振った。
「・・・・ああ。悪いな、ありがとう」
「おいおい、礼を言うのはこっちの方だぜ。おめぇらのおかげですっげえ助かったよ。この礼はそのうちちゃんとすっからな。ほんじゃ、おりゃここで一度落ちるわ。マジサンキューな二人とも。これからもよろしく頼むわ」
「こっちこそ、よろしくな。また聞きたいことがいつでも呼んでくれよ」
「同じく、こっちもよろしく。あとで友達紹介してくれよな」
「おう、それじゃあな」
ここまでが、このソード―アート・オンラインと言う世界が楽しいだけの《ゲーム》であったのは、正しくここまでだった。
「なんだこりゃ。・・・・
「・・・・は?」
一瞬クラインが何を言ったのか理解できなかった。
「ボタンがないって、そんなわけないだろよく見て見ろ」
「・・・・やっぱどこにもねえ。おめえらも見てみろよ」
右手を振りウインドウを開く。
オレの記憶が確かならログアウトボタンは左タブの一番下にある筈だが・・・・。
「・・・・マジか」
ログアウトボタンがあるはずの場所は空欄となっていた。
どういうことだ? ログインした時は確かにあった筈だ。
「なあ、他にログアウトする方法って何かなかったっけ?」
「・・・・ない。マニュアルにはその手の緊急切断方法は一切載ってなかった」
キリトとクラインのの会話を余所にオレは頭をフル回転させる。
おかしい。運営会社のアーガスはユーザー重視で名を売っている。
それなのにこんな、ログアウト出来ないと言う重大なバグを放っておくなど考えられない。
何故か、無性に嫌な予感がする。
以前、キリトが貸してくれたSF小説。
ゲームの世界に閉じ込められ脱出するためのデスゲームものの話だ。
・・・・まさか、な。
「おお! き、キリトの妹さんて幾つ?」
何故かこの非常時にクラインがキリトの妹の歳を聞き、股間を蹴りあげられた。
「あいつ、運動部だしゲーム大嫌いだし、俺らみたいな人種とは接点皆無だよ」
「それでもかなりの美少女だったよな。ありゃ将来凄い事になると思うぞ」
キリトの家にお邪魔した時何度か挨拶した程度だが、あれはまぎれもなく美少女だった。
何気にリア充になる素質があるのに色々もったいないと思っているのは秘密である。
「シン、お前は何言ってるんだ」
呆れた顔をするキリト。
とりあえず場の空気が少し和らいだ。
時刻は五時半を回り、夕日が草原に差し込む。
その美しい光景に思わず俺たちが言葉を失う。
直後。
世界はその有り様を大きく変えた。
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