「人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った世界初の臨床治療」に関する報道が、世間を賑わせています。
虚偽の研究成果を発表したとされる森口氏のこれまでの研究成果についても、さまざまな疑念が報道されています。ただ、そういう報道の中には、ちょっと研究現場のことが理解されてない部分があったりするのかな、という点もあったりします。
森口氏の「研究成果」多くが簡易論文 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
新聞など各紙が、米肝臓病学会誌「ヘパトロジー」や英医学誌「ランセット」などに掲載されるとして取り上げた森口氏の「研究成果」は、その多くが正規の論文ではなく、情報交換を目的とする簡易論文だった。
森口氏は、色々な学術雑誌の「Correspondence欄」への投稿を行なっていました。この投稿内容は、たしかに科学論文文献データベース(Pubmed)などに登録されています。ただ、これらのCorrespondence欄への投稿を「簡易論文」(こういう表現自体使うことはないと思うのですが)というのは違和感があります。
ランセット誌に掲載された森口氏の「簡易論文」の一つ
(The Lancet, Volume 362, Issue 9390, Page 1159)
Treatment of SARS with human interferons : The Lancet
Correspondence欄は、「雑誌に掲載された他者の論文・研究についての意見表明の場」です。「研究者の情報交換のためのお手紙投稿欄」という感じでしょうか。Correspondence欄に取り上げられるのは、基本的には論文ではなく単なる意見です。Correspondence欄の文章みて、「ほう、こういう考えもあるのか」という思いをすることはありますが、「じゃぁ実際その考えが正しいのか」というのは、別の論文で確認する必要があります。そういう点で、この手の文章を「簡易論文」と書くのは不適当だな、と思います。
研究やってるヒトが、何の先入観もなく「簡易論文」ときくと、短報(Short communication, Brief communication)、速報(Rapid communication) のようなものを思い浮かべると思います。これらは、通常の論文(Full paper)にくらべ、データ数は短くコンパクトにまとまっていますが、実験目的、方法、結果、考察とい要素はすべて含まれている立派な論文です。短報や速報が存在するのは、必要最小限の内容で迅速に結果を世の中に発表したい、などのニーズがあるからです。
「「簡易論文」っていう言葉自体、市民権を得た言葉なのか」という話もあり、あまり目くじらを立てる必要もないのかもしれませんが、どうも気持ち悪い感じがしたので文章にしてみました。
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Author:薬作り職人
十数年、新薬の研究に携わる研究者(薬理系)でした。2012年4月から、企画職として、新薬のアイデア作りなどの仕事に取り組むことになりました。
薬学生向けの季刊誌MILで、「名前で親しむ薬の世界」「薬作り職人の新薬開発日記」って言うコラムを連載してました。
観光地で売ってるミニ提灯集めてます。妻子持ち(2児の父)、嫁さんからぐうたら亭主と呼ばれます。
薬&提灯 詳しくは
病院でもらった薬の値段
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